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葛の花、紅き刃に咲く 〜肆

…一方、一の門を抜けた桃達は、石段を駆け上がった

 時が止まったかのような静寂が、其処に広がっていた

 見晴らしの良い石畳の広場

 

「此処が二の丸

 城主の側近や上級武士の詰め所として使われていた屋敷跡もある」


 玄信の説明を受け辺りを見渡した桃


 左手には苔むした庭園跡が広がっている

 右手には建物、道場だろうか


 そして、其の庭園跡中央、薙刀を肩に担ぎ、此方を感情のない目で見る女がいた


「また逢いましたね、玄信----そして…桃花様」


 女は、落ち着き放った低い声でそう言った


「鶴姫、貴様か」


 玄信が、ゴクリと唾を飲み込みながら左腰に下げた兼重の柄に手を伸ばす

 たった其れだけの仕草で、場に緊張感が走る


 鶴姫、其の名は天下に轟いている

 領主直轄大駒部隊の飛車

 女性ながら大きな薙刀を自由自在に振り回す

 武と知に長けた参謀

 

「で、でけぇ

 そして、なんだあの甲冑は」


 小太郎が目を丸くして言う


 深紅の糸が段々と裾にいくほど色濃く染められ、まるで血に染まった羽織のように見えるそれは、紺糸裾素懸威胴丸こんいとすそすがけおどしどうまるという甲冑だった

 大柄な鶴姫の身体を包み込み、彼女の妖艶さ、気高さを一層引き立てていた


 赤鬼

 誰が呼んだか

 女性ながらに大きな身体に、紅の甲冑

 大きな薙刀を軽々扱う其の姿になぞらえ付けられたあだ名が其れ


「桃花、じゃない

 私は雉の村の桃

 かぐやの娘」


 桃が震える声でそう言った

 鶴姫とは未だ距離があるが、鶴姫の迫力は圧倒的だった


 フン、と感情のない笑みを零した鶴姫

其の視線は桃から小太郎へと移った


…其の瞳…


 小太郎から視線を外せなくなる鶴姫


「な、なんだよ!?」


 堪らず小太郎が問いた


「小僧、お前の母の名は?」


「母ちゃんか?楓だ!」


 其の言葉を聞いた鶴姫は、今迄に見せたことのない表情になった

 曇った様な、それでいて少し喜んでいる様な

 美しく整った顔立ちは、其の感情を相手に簡単に悟らせてくれなかった


「小太郎、私の相手はお前にしよう

 玄信、此の先で具教、才蔵が待ち侘びているぞ」


 悪戯を考えているような表情に見えた

 然し、相変わらず感情は悟り難い

 いや、抑も感情があるのだろうか


 丁度其の頃、空に立ち込めた暗雲


 玄信は桃に一度だけ視線を送って、鶴姫を睨みつける小太郎を見て言った


「小太郎、此処は任せる」


 小太郎は鶴姫から視線を外さずに静かに、そして力強く頷いた

 桃は何か言いたげだったが、其れを飲み込んで小太郎の肩を優しくさすった後、玄信に続いて天守閣のほうへと駆け出した

 空からは黒く強い雨が降り始めていた


 

 



 小太郎が、背中に背負っていた忍具袋を解き、何かを取り出してから地面に置いた

 父、道太郎の手甲鉤を右手にはめると、低い姿勢になって構えた


「んで、お前は母ちゃんの何なんだよ」


「楓だけだった

 誰もが気味悪がって、鬼とさえ呼ばれた此の身体を褒めてくれたのは」


 鶴姫がゆらりと姿勢を変えた

 流れるような所作で、薙刀を正面に構えた


「だが其の楓も、最後は私を見放した

 だから、楓のことも、お前のことも私は赦さない」


 話をしている間、鶴姫はずっと無表情だった

 唯、薙刀を握る其の両手に、僅かに力が込められたのだけはわかった


 雷轟く雨の中

 二つの影が交差する

 其々の想いを胸に、今、戦いが始まった



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