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第六十三話


一五二二年五月 京・畠山屋敷



義兄上(あにうえ)、ただいま戻りました。」



将軍・足利義晴との会見を終え、僕は近習(+α)と共に畠山義総(あにうえ)の屋敷に戻ってきた。

その+αは僕と手を繋いでいた。



「おお、帰ったか。公方様の御機嫌は…って、長職、お前!!!」



僕の横にいる+αを見て義総(あにうえ)が表情を変えた。



義兄上(あにうえ)、どうかしましたか?」

「お、お前、隣にいる人物は…!?」

「ああ、偶然お会いしたのですがどうしてもついてきたいと言って困ってしまいまして…」

「お前はその御仁が何者か分かっているのか!?」

「はい、細川六郎殿ですよね。」

「そんなことが言いたいんじゃなくて…」



義総(あにうえ)はそこまで言うとガクっと力が抜けたような感じになった。

どうやらそれ以上言葉を続ける気力を失ったようだ。



宗右衛門尉(そうえもんのじょう)殿、こちらが…?」



細川六郎が僕の顔を見上げながら言った。



「はい。俺の義兄(あに)、能登守護の畠山修理大夫(しゅりだいぶ)義総です。」

「おお、そうか。修理大夫殿、お初にお目にかかる。おれは細川六郎と申す。」



細川六郎はにこにこしながら義総(あにうえ)に向かって頭を下げた。



「…もうどこから突っ込んでよいか分からんよ。」



義総(あにうえ)は力なく首を振った。



◇ ◇ ◇



正式な会談と言うわけでは無いものの管領に連なる者を無下に出来ないと言う事で、ひとまず応接の間に細川六郎を通すことになった。



「それで我が義弟(おとうと)と偶然会ったものだから、一緒に公方様や管領殿にお会いしたと…?」

「うむ。それで帰る時に修理大夫(しゅりだいぶ)殿が屋敷に向かわれると言う事だったから、無理言って同道させていただいたのじゃ。パクパク。」



細川六郎は茶菓子を頬張りながら上機嫌で答えた。



「…長職。公方様との会談の時に管領殿は何か言われていたか?」

「管領様は義甥(おい)の事で苦労を掛けたと言ってくださいましたが、まあ俺は管領様に目を付けられたでしょうな。」

「まあそうだろうな。…しかしまぁ、長職。お前は何とまぁ、意図せず面倒を持ち込んでくれるものだ。」



義総(あにうえ)が軽く頭を抱えた。

まあ僕の横にいる細川六郎(しょうねん)は面倒事の種なのは間違いないか。



「面倒とはおれのことかの?」

「ああ、そうですね。俺や義兄上(あにうえ)は管領様に敵対する気がありませんでしたからね。」

「ふぅむ。」



細川六郎がぐびっと麦湯を飲んだ。



「おれとて義叔父上(おじうえ)と敵になりたいと思っている訳では無いよ。」

「そうなのですか?」

義叔父上(おじうえ)と敵対してたのはおれの父だからな。」



まぁそれはそうだ。

しかし史実の細川六郎…晴元は細川京兆家の家督を求め、苛烈に戦っていた筈だ。



「もっとも宗右衛門尉(そうえもんのじょう)殿も感じたかもしれぬが、義叔父上(おじうえ)はおれの事を反乱分子としか見ていないかも知れぬ。それにおれの近くにいる者共もおれを焚きつけようとしてくるのだろう。このままだと京の都もつかの間の平静というところだろうな。」



何なんだこの子供は。

この時代だとまだ八歳くらいにしてはやけに達観しているな。



「うーむ、我が義弟(おとうと)も可愛げのない奴だと思っていたが、貴殿も相当なものだな。」

「ちょ、義総(あにうえ)。何を言って…」



ダメですよ、お義兄(にい)ちゃん。

思っていても本当の事を言っては…って、さらっと僕への暴言やめてくれない?



「ふふふ、修理大夫(しゅりだいぶ)殿もなかなかの御仁では無いか。…まぁ周りに面倒な大人が多いものでな。」

「それで義弟(おとうと)に甘えておられるのか?」

「…甘えてなど…、いや、そうかもしれぬ。さて。」



細川六郎が麦湯の椀を自分の前に置いた。



修理大夫(しゅりだいぶ)殿。面倒ついでで申し訳ないが、我が供へここに迎えに来るように使いを出してくれぬか? 場所は…」

「それなら既に出してある。義弟(おとうと)が場所を掴んでいたからな。」

「ほう、それは仕事が早い事だの。」



元々細川晴元には関心を持っていたから、京に滞在しているか、しているのであればどこにいるかは薬売り(ちょうほういん)に調べさせていた。

しかしまさか一人で出歩いているなんて事は調べられていなかったのだが。



「長職、細川六郎殿の供が来るまでは存分に甘えさせてやれ。それと、そのあとはお前に任せる。俺は少し考えるのが疲れたからな。」



そう言うと、義総(あにうえ)は立ち上がり部屋を出て行った。

その姿を見送ると、細川六郎が僕の前に座り背中を預けて来た。



修理大夫(しゅりだいぶ)殿のお許しが出た。少しの間じゃ、良かろ?」

「あ、ああ。そうですね。」



まぁ普段子供らしい事が出来ていないのだから仕方ないか。

僕は目の前に座り弟のように懐いてくる細川六郎の頭を軽く撫でた。

あ、でも僕にはその、衆道・少年趣味は無いからね…?

(戦国時代は衆道、即ち男色が普通に行われていた。)


義総(あにうえ)は後は任せると僕に言った。

この歴史においても畿内の趨勢はまだまだ細川家を中心に回る事だろうから、その中における神保家・能登畠山家としての身の振り方は僕が考えろと言う事だ。

えーっと、この時代の細川六郎の側近って誰だったかな。

三好家あたりがその筆頭な気がするけど三好長慶…はまだ生まれたばかりだったからその父親とかかな?

詳しい家臣団の構成までは調べていなかったから、今度阿波あたりの情報も調べさせるとしよう。











衆道についてはノーコメントで!

我らが主人公の神保長職はそのような事は無いと言う設定にしています。

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― 新着の感想 ―
細川がずっと吉兆家と書かれています。 京兆家ですね。
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