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第二十四話


一五二一年五月 越後上条城



越後国、上条城。

越後守護上杉家の分家である上条上杉家が治める城だ。

越後守護・上杉定実(うえすぎさだざね)は出身でもあるこの城に居候の身であった。

この城の城主上条定憲(じょうじょうさだのり)は実の弟であり数年前までは敵対していたが、今は味方だ。



「まったく忌々しい事よ…」



上杉定実は膝を叩きながらため息をついた。

上杉定実は越後守護である。

本来であれば国を治める立場であった筈だが、その権威は年々落ちていた。

しかし何とかして長尾を制して、往年の権威を取り戻したい。



「兄上、おられるか?」



前述の上条城城主である上条定憲が部屋を訪ねて来た。



「定憲か、いかがした?」



上杉定実は姿勢を正した。

上杉定実の方が地位は上であるが、居候の身ではさすがに横柄な態度は取れない。



「実は変わったところから文が届いておりましてな。まだ拙者も読んでおりませぬ。まずはこちらをご覧ください。」



上杉定実がその文を受け取った。



「何と、能登守護の畠山義総殿からの文とな。一体どのような内容であろう…?」



上杉定実は文を広げ読み始めた。

その内容は大雑把に言えばこうだ。


当家(畠山家)は婚姻を結んだ義弟・神保長職と共に能登から越中西部にかけての事業を進めており、それなりの成果を収めつつある。今後の友好の印として、その一部を越後守護上杉家に届けたい。

また越後では守護代長尾家を筆頭にした一部勢力が反抗している事に、当家は心を痛めている。

当家が入手した情報では守護代長尾家においては当主為景と嫡男道一丸の間に不和が起きているようだ。

隙を突くのであればそこである。

定実殿が再起を図るのであれば、嫡男の長尾道一丸を取り込めば良いだろう。我が義弟神保長職は長尾道一丸と誼を通じており、口添えが可能だ。

しかしながら長尾道一丸の勢力は、長尾家中においてはまだ相対的に弱きものであるから、琵琶島城の宇佐美を道一丸の与力にしたらどうだろうか?

そのあたりも含めて、一度我が義弟を越後に向かわせたい。

返事を請う。



「ううむ、何という内容だ。」

「兄上、どのような…?」

「ああ、読んでみてくれ。」

「む、うーむ。」



弟の定憲も文を読みながら唸った。



「定憲よ、どう思う?」

「ここに書かれている長尾家の不和が事実であれば、付け入る隙にになるのは間違いないでしょうな。しかし、何故畠山殿はこのような文を…」

「そこよ。だがこれは文にある、畠山殿の義弟が鍵なのだろうな。」

「越中守護代・神保長職ですか…」



神保長職は先代の死によって跡を継いだばかりの、まだ若い当主の筈だ。

それが何故か敵対していた筈の畠山義総と義兄弟になったものだから、実に不思議な事である。

文にはこの神保長職が長尾道一丸と誼を通じているという。

長尾家の不和を察知したとすればここからか。



「だが今のままでは長尾為景に押し切られるのを待つしかないのは事実だ。一縷の望み、と言うわけでは無いが、この話に乗るのも良いかもしれぬな。」



長尾道一丸はまだ元服前だ。

元々上杉定実が娘と婚姻させる予定ではあったから、これの後見となれば守護方に引き込めるかもしれない。道一丸は婿になるのだから、養嗣子とするのも良いだろう。



「この話を進めるのであれば、琵琶島の宇佐美を長尾道一丸に付けてほしいとも書いてございますな。」

「宇佐美か。先代の房忠(ふさただ)は我が上杉の忠臣であった。今は嫡男の定満(さだみつ)が継いでいるが、余が名を与えたのもあり、変わらず我が方に与してくれておるな。」



忠臣を他に遣わすのは痛い事ではあるが、それで長尾道一丸が為景に反抗する力を付けられるのであれば、願ったりである。



「よし、この話を呑もう。畠山殿への文を認める。定憲よ、合わせて琵琶島の宇佐美へ繋ぎを取ってくれ。…そうだな、もし神保長職と会談するのであれば琵琶島が都合が良かろう。」

「かしこまりましてございます。」



定憲が頭を下げて部屋を辞していった。

それを見送ると、定実は筆を取った。



越後においても史実と違う潮流が生まれ始めた瞬間だった。









その時、歴史がうg…

本作においても越後守護上杉家はかなり劣勢になっておりました。

畠山義総の提案が起死回生の手をなるか!?

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