〜城の内部〜 王?への謁見
大量の死体を蹴り飛ばして道を作ってやっと城に入城する。
中にも兵が配備されてるかと思い身構えてたが一切の人気がない。
どう考えてもおかしい、こんなに拾い領土を有している帝国の城だというのにここまで人気がないのは逆に警戒してしまう。
中の照明であろう物も役目を投げ捨てているせいでとても暗い。
まぁ私は夜目があるから問題なく歩ける。
ただ普通より目の負担は少々かかるけど……本当に些細なレベルだから問題は一切ない。
始めて訪れた場所なので構造が一切分からない。
こんなことなら一人くらい生かして連れてくればよかったと思ったが後の祭りだ。
……このままむやみに歩き回っても体力の浪費と時間の無駄だ。
「誰かいるなら今すぐ出てきなさい、出なければ殺すわよ」と、一応呼びかけてみるも返事はない。
仕方ないのでとにかく上の階を目指すしかない。
あれからかなり歩いてやっと階段を見つけた。
というよりもこの城はかなり広くて腹が立ってくる。
途中の扉を蹴り飛ばしていたほどだ。
ここの扉は普通の木だから足が抜けなくて困ったときもあったが……
一見何の変哲もない階段だが敵も馬鹿ではないだろう、罠を仕掛けるなら必ず通るここだろう。
一応警戒しながら一段一段上る。
さっき体についた血はとっくに乾いて白のワンピースが真っ赤なワンピースに様変わりしていた。
階段は無限かと思うほど長くて今が何階かなんて数えていない。
とにかく長い階段を上り続けておそらく最上階にたどり着いた。
階が一つ違うだけで雰囲気がガラッと変わった。
何と言うか……陰の気がひしめいて空気が重くなって体が締め付けられてる感覚だ。
階層が高いせいもあるとは思うけどね。
それと驚いたことに最上階には人がいた。
「シラリア殿でございますね?」
腕を胸の位置で水平に組んで壁に寄り掛かりながら聞いてきた。
「そうだけど?それがどうかした?」
相手は布を顔の前に垂らしていて顔は見えないが、声は男性の高い声だった。
「ならば付いてくるがいい。」
は?急に出てきて何者のつもり?
そう思ったがとりあえず黙って従うことにした。
「お前は何者だ。」
歩いてる最中に聞いてみた。
「……こちらからすれば貴様こそ何者だと問いたい。」
「どういうこと?私の名前知ってたじゃない。」
「…………」
急にだんまりになった、ここの人は長くしゃべるのが禁止されてるのかしら?
それからは「おーい?」とか「聞こえてるの?」とか聞いても何も話さなくなった。
「ここだ、早く入れ。」
連れて来られた先には明らかに風格の違う黄金の扉があった。
恐らく純金なのだろう、並の人間なら一人で開けるのは不可能だろう。
ただ私は普通じゃないので軽々と開けてやった。
「ほう、来たか。」と遠くから聞こえてきた。
後ろで「お待たせしました、対象の者を連れてまいりました。」と聞こえる。
意味が良く分からないままズカズカと目の前に歩いてやる。
横目に見ると柱の色が赤で統一されて、所々に龍を模した彫りも見える、これだけの大帝国の王は相当な金持ちなんだろうな。
「単刀直入に聞こう、今回貴様は何をしに来た?」
近くに来て王を見ると思ったより年老いている、おそらく六十歳ぐらいか。
「何しに来たか…ねぇ、心当たりがあるんじゃない?」
そんなことくらい自分で考えなさいよ、って感じで目をそらして答える。
「心当たりか、儂にはあり過ぎて判らんな!」
王は「はっはっは」と大袈裟に笑っている。
その笑いには薄気味悪いものが込められている。
ひとしきり笑った後にはこちらに向き直った。
「と……まぁー冗談は言ったが凡そは判っているぞ、粗方どこかの村の悲劇を救いに来た英雄気取りってところか。」
「判ってるじゃない。」
王は続けざまにニヤリと笑って「では聞くが、貴様のような小娘をなぜここに連れてきたと思う。」と聞いてきた。
確かに障害は門番たちぐらいだし、それがずっと気になっていた。
ここは適当にそれっぽいこと言うしかないか。
「あ~そうね、私に興味が湧いたとか?」
「まぁー大まかに言えばそうだな。」
まさかの当たり。
「正確には貴様の戦闘能力だ。」
「なるほどね……」
王は続けざまに話している。
「貴様の戦闘能力人間を超越しておる。」
「どこからその情報を?まさかここからさっきの戦闘を見ていたとでもいうのかしら?」
私の力は本来軽々と人目に触れるべきではないし、見せないようにしてきたつもりだ。
なのにこいつが知っているのはどういうことだ?
「実は儂の配下に千里眼の持ち主がいてな、そいつがお前のことを観察していただけの話だ。」
私は流石に一歩下がった、気持ち悪すぎる。
「それで?私のことをどうしようっての?」
正直千里眼のことも気になったがそれより身に起こることの方が最優先。
「なに、ただちょっと儂の手駒となってくれればいい。」
考えるよりも口が先に答えた。
「嫌に決まってるでしょ!用を済ませて帰るわ。」
王はまた嫌な笑い方をしていた。
本当に下卑な笑い方だ。
「そう言うと思っておった。」
「無駄だって分かってるなら諦めなさい、私は忙しいの。」
私は振り返って門の方に向かう。
「断わると分かっているなら断れないようにすればいいだろう?」
歩みを止めて顔だけ振り返る。
「貴様の根城にはもう一人住んでいるな?」
何を言おうとしているのかは明白だった。
「黙れ!」
私は刀を抜き首を切ろうとした、だが「ぐっ!」と初めての感覚を感じた。
布を付けた奴に止められた。
「…………」
布の奴と刀で鍔迫り合いをしていたが王は淡々と話し続ける。
「まぁ落ち着け、ここで儂を殺せば後悔することになるぞ?」
「はん!何?私がそんなハッタリに引っかかると思ってるの?」
布の奴を振り切り王の喉元に突きつけるが、表情を崩さず笑っている。
「なぜここに兵が一人もいないと思う?」
なんだろうか、寒気がする。
刀に込める力が震える。
「貴様の住む森に大軍を送り込んでいるからだ。」
「いい加減にしろ!ここで死ね!」
普段の冷静さも完全に失っていた。
「言っておくが儂が本物の王だとでも思ったか?」
「何!?」
そんなことを言われても私には区別できるわけがない。
「もういいか…」
そういうと男は懐の剣を抜き身軽な動きで間合いを取ると、羽織っていた服を脱いだ。
「……偽物って事かしら。」
「そういうことだ、ちなみに俺は一番王に似ているとされていたが無意味だったな!」
こうなると迂闊に手が出せない、こいつを殺すのは簡単なのに。
「もどかしいな。」
こいつを殺すのはできると思うが何が起こるか分からない。
そのせいで足が張り付いたように動かない。
「ではこれにて失礼させてもらう!」
そう言い残して影武者と布の奴は急ぎ足で出ていく。
私はそれを茫然と見ていることしかできなかった。