喧騒が激しいなら力で静謐にするまで!
キルナプール帝国の楼閣城は天高くそびえ立ち、全体の大きは西洋風の城と比べると少し小さいかなと感じるほど、周辺との調和を一切考えない独自のスタイルの城である。
勿論だが城の前には多くの守護兵がズラリと城を取り囲んでいる。
さっきの栄えてるところからは少し離れた所にあるので、人々の喧騒などは聞こえてこない。
どうせ弱いだろうから無理やり入ろうかと思ったけど一応交渉しようと思い直した。
「ちょっといいかしら?」
私が物陰から出ると一気に警戒態勢に入られた。
東側の兵士全員が私に視線を向け眉を吊り上げ各々の武器を構えている。
しかし話しかけても反応が一切返ってこない。
「聞こえてる?」
「ここの城主は言葉も話せない半端物をしか集められないような雑魚なのかしら?」
兵士の何人かはピクッと反応したが、煽ってもリアクションがない。
「じゃあ無理やり通らせてもらうわ。」
兵士が石像のように動かないので無理やり通ろうとすると周りを囲まれた。
「何のつもり?」
私は腕を組んで見下すように威圧してやる。
「ここから先には何者であろうと通すなと言われております、さっさと帰ってください。」
言葉遣いは丁寧を装ってるが武器を強く握りしめて、敵意がむき出しだ。
「私はここに用があるのよ。」
忠告代わりとしてもう一度言ってあげた、忠告とは思っていないかもしれないが。
「主上は『例え我の知り合いだとしても絶対に追い返せ』との仰せです。」
この警戒は私にあてられたものか?それとも偶然か?ここでは大きな騒ぎなどは起こしてないはずだが?
そもそも私の存在を知っていたとしてもなぜ異常に警戒する?
だがここで考えていても埒が明かない。
「ここで私を拒むというのなら全員殺すわよ?」
私のなかでの最大の忠告であり最大の脅しを仕掛けた。
周囲の兵達は流石にざわざわと相談していた。
暫くしてリーダーのような威厳のある無精ひげを生やした男が前に出てきた。
「我々で争議したがやはり主上の命に従うことにしたゆえ、早々に立ち去ってくれ。」
答えは予想していた通りだ。
「じゃあ殺してくれってことね。」
私は顔を変えた。
自分では見えないので分からないが、ペラが言うには残忍な顔らしい。
詳しくは聞かなかったがなんとなくどういう顔かは予想している。
この顔にしたら相手の顔色が青くなり、表情が引きつるから。
今も目の前には顔を真っ青にして慌てふためいている者、歯を食いしばって耐えている者、表情一つ変えない猛者等等が見えている。
しかし肝心の武器がないのは問題だ。
剣なんか持ってたら帝国に入れるかも危ういし、話題になって目立つに決まってる。
だがまぁ相手から奪えばいいか!
「ほらほら、かかってきなさいよ。」
私が幾度となく煽ろうとも向こうから動いてくる様子は最後までなかった。
仕掛けるのが怖いのか、それとも丸腰だからと舐めてるのかもしれない。
「最後まで動かない気?なら遠慮なくやらせてもらうわ!」
目の前にはいい武器がたくさん並んでいて武器のコレクションルームに来ている様だと考えるとそうとしか見れなくなった。
素早く目の前の槍を奪い取るとそのままの勢いで振り回し周囲を囲っていた兵を薙ぎ倒した。
聞き飽きた平凡な悲鳴が周囲から聞こえてきてうざったい。
本当なら一人一人に突き刺して黙らせたいが、同胞を潰されて静かに怒ってる奴らを先にやらないとね。
「やっとやる気になってくれたのね!」
私は嬉々として集団に突っ込んだ。
奪った槍で牽制すると怯んだ兵から刀を取り上げると一応感謝の言葉を伝えておいた、聞こえていないだろうけど。
体勢を整え、素早い動きで囲まれている状況を打破しようと考えた。
こいつらも戦闘においては無知というわけではない集団なのだろう、周囲を囲まれて逃げ道すらない。
まぁ私にとってはただの悪あがきにしか見えないが。
私は刀を自身のスピードに乗せて一番脆そうな一点を狙う。
刀が肉に食い込む感覚を味わう暇もなく刀身と私自身が真っ赤になった。
さっきより一層悲鳴が大きくなり耳を塞ぎたいほどだ。
「ああ、五月蠅いわ……」
思わずつぶやいてしまった。
気付けば陣形を変えていた、まるで鳥の様子を体現した鶴翼の陣を逆さにしたような陣形だ。
相手は「必ず敵を打ち倒せ!」なんて士気を上げてるけど意味ないのよ。
だってその言葉を発してる間に十人は殺傷したからね。
卑怯だとか思うかもしれないけどこれは立派な殺し合い、殺した奴が勝ちなゲームよ。
血飛沫が幾度となく顔にかかってうざったい。
顔の血を腕で拭い、ワンピースの裾から滴らせている様は恐怖を植え付けるのに十分だろう。
現に相手は足取りが鈍って行動と心境がチグハグになって崩壊している。
そこに刀筋をさっと足せば死体の山と大きな血だまりが残って静謐が訪れるのよ。