初めてのエスカレーター
「早く下ろしなさい!」
研究室を出た後、研究員とすれ違うたびにそういわれる。
「もうちょっとしたら下ろしてあげるから。」
未来にとってはお姫様抱っこされるのがそんなに嫌なのだろうか。
「いいから早く下ろして!」
私はそれから数歩歩いたところで下ろしてあげた。
未来は顔を赤くして恥ずかしいんだか起こってるんだかわからないような顔をしている。
「ちゃんと立てるの?」
「もとから直立二足歩行は可能であり私はその機会を一時奪われたに過ぎん!」
(歩けるならよかったけど……あの時は倒れそうだったからね)
「ならいいわ、ちゃんと歩きなさいよ。」
「そうだ、さっきの話でそろそろお昼の時間だったことを思い出したんだった、そろそろ食堂に行こう。」
「それは嬉しいけど二人にも来てもらわないと……」
「なるほど、なら監視室に連絡を入れて招待客の二人を食堂にいる私の元に連れてきてもらうっていうので大丈夫か?」
「それならいいわ、私も動いてお腹空いていたし。」
「なら解決だな、こっちだ。」
私はまたも未来に従って後ろをついていく。
「ここでは基本的に食堂に集まり食事をとるよう規律にしている、あそこに塞ぎ込んで研究ばかりしていては時間間隔や身体の悪化が起こるのは明白だし、大切な交流の場でもあるからな、交流によって新たな発見ができる場合も多い。」
「さっき研究室で食べ物を運んでもらってたところがあったけど、あれはいいの?」
「あれは新たなAIの働きの研究も兼ねているし、あの時間はお昼じゃなかったから良いのよ。」
「ふーん、お昼じゃなかったら自由でいいのね。」
「そういうこと。」
そんな他愛もない話をしながら歩いていると、何やら奇妙な階段が出てきた、まるで自動で動く階段。
「ああ、貴女がこれを見るのは初めてだったか、これはエスカレーターって言って、電力で階段部分を動かして自動で目的の階まで届けてくれる機械だ。」
「へぇ、便利なものね、ちなみにここは何階まであるのかしら?」
「ここは吹き抜けになっていてエスカレーターの行方を見ると結構高いところまで蛇腹で続いているのできになった。
「ここは20階ほどはあるはず……実はどんどん階数を増やしてるから正確に今何階まであるかは断言できない。」
「ここはあなたが責任者のはずでしょう?勝手に階層を増やして良いの?」
「階層に関しては必要なら私に階層を増やすという報告をしてくれたら容認しているからね、基本的には私が管理してるけど、勿論こんな広大な空間は私一人で末端部まで正確に管理するのは厳しいのでね、管理室の人間や最新のAIに管理をしてもらってるのがだんだん多くなってきてしまってね。」
「なるほどね、結構自由にさせてるのね。」
「縛ってはいいアイデアも素晴らしい発明も出来はしないからな、自由にのびのびとすることでいいものができると私は思っている。」
「そんなことは後で話そう、それよりエスカレーターに乗ってみてくれ。」
まぁ確かに食べながら話せばいいことか、それより未来は私の反応を知りたいらしい。
私は軽い気持ちで乗ろうとしたが動く足場に乗るのは初めての経験で、意外と慎重になってしまう。
「意外と怖いわね……足場が外れたり、足が引っかかったりしないでしょうね!」
「勿論心配ご無用だ、安全性に関しては自動でメンテナンスされているし、これまで事故など一度も起こったことがないからな。」
私はその言葉を信じて足場に両足で飛び乗ると、足場は微動だにせず平静を保っている。
「な、大丈夫だろう。」
後ろからどんなもんだと自慢気な未来の声がする。
「ええ、大したものだわ。」
私は左の手すりに摑まりながら上に登りきったところで、またも両足で動く足場から下りた。
(慣れるのに時間がかかりそうね、ここにいる以上何回か乗るだろうから自然と慣れると思うけど)
「ちなみに食堂は1階だからまたエスカレーターで戻るよ。」
「じゃあ何のために乗らせたのよ!」
「別に私は乗れなんて一言も言っていない、ただエスカレーターについて説明して、乗って欲しいという目をしていただけだ。」
「なっ!騙された気分だわ。」
「ほら、早く行くぞ。」
そう言って1人スっとエスカレーターを降りていく。
私も慌ててエスカレーターに片足ずつ乗ろうとするが、慌てたことにより前のめりになり過ぎて転びそうになった。
…と言うよりも転んでいたはずだったが安全装置のようなものが働いて、私の体を正常な位置に正してくれた。
(下まで下ろしてくれるわけじゃないのね)
「なっ、安心だって言っただろう?」
未来が勝ち誇った顔でこちらを見る。
そのまま降りる時は片足ずつで降りることが出来た。
「まぁ、私にとっては慣れるのも時間の問題よ?すぐに順応できるわ。」
(あっぶな!完全に頭打ち付けて死ぬかと思った~)
「それよりお腹空いたわ、早く食堂に連れて行きなさいよ。」
「わかってる、もう少し歩いたら見えてくるから。」




