ポーズ
ウーマン「ポーズ」
ピタッ、
秘書課の佐藤さんは、ポーズが決まっている。
ピタッ、
バランスのとれた、カッコイイポーズ。
書類を運ぶ時も、
コピーをとる時も、
まるで、モデルのようなポーズ。
本人は気づいていないのか、意識はしていない。しかし、回りの人たちは、そのポーズに魅了されている。
その指先、足先、ギリシャ彫刻のようなポーズ。
ピタッ、
またポーズが決まった。
すらりと伸びた脚、しなやかな腕の仕草は、バレエダンサーの様に綺麗だ。
「美しい」
また、誰かがつぶやいた。
みんなの注目の的、会社の花、佐藤しおりさん。
美しい…
ある日の日曜日、
コンビニで、ジャージ姿の怪しい女性を見かけた。
巨大なマスクにビン底メガネ、帽子をかぶっているが髪の毛はボサボサ。寝癖がはみ出している。メイクもしてないし、顔を洗った様子もない。明らかに寝起きだ。
必死に漫画を熟読している。
ポリポリポリ、お尻をかいている。
最低な女だ、
側から見ても恥ずかしい。
こんな女性もいるんだ、近寄るを避けよう。
私は、出来るだけ離れて横を通った。
ピタッ、
あれ?このポーズ見たことがある。
ピタッ、
女性は、漫画を読みながらも見事なポーズをしている。
このポーズ、もしかして、佐藤しおりさん?
観察してみる。
ピタッ、
やっぱり、間違いない。佐藤しおりさんだ!
髪型も違う、服装も違う。まるで別人のような佐藤しおりさん。
普段は、こんな格好をしているんだ。
よくよく観察してみる。
ハハハハハ、
佐藤しおりさんは笑いながら漫画を熟読していた。
最後まで読み終わる。
すると、アンパンとコーラをレジまで持っていく。
ふんふんふん、
鼻歌を歌いながらお金を払う佐藤しおりさん。
そのまま帰って行く。
私は、見てはいけないものを見てしまった…
次の日、会社。
ピタッ、
相変わらず、ポーズが決まっている佐藤しおりさん。素晴らしい、モデルのようだ。
仕事をしている姿も美しい。
「佐藤先輩、今日のランチご一緒しませんか?」
後輩の高橋が声をかけた。
「ごめんね、今日はお弁当なの」
「佐藤先輩が、お弁当?」
「家庭的なんですね」
「そうかしら…」
昼休み、
屋上で、お弁当を食べている佐藤しおりさんを見かけた。
影から観察してみる。
ええっ、
あれは、あの時のアンパンとコーラ。あれは、今日のお昼ご飯だったんだ。
いったい、どんな食生活をしているんだろう。アンパンとコーラだけ、そんな食生活でどうやってあのスタイルを保っているんだ。
皆んなは、健康食品やら、エステやら、スポーツクラブやら、あらゆる美生活をしていると思っている。
しかし、まったくのダメ生活。不健康極まりない。
これは、秘密にしておこう。
皆んなの夢を壊してはいけない。
憧れの人、佐藤しおりさんの、秘密…
ある日、
佐藤しおりさんが、会社を辞めた。
一身上の都合らしい。
「辞めないでよ、佐藤さん」
「辞めないで下さい、佐藤先輩」
皆んなは悲しんだ。
数ヶ月後、
漫画喫茶で働いている佐藤しおりさんを見かけた。
巨大なマスクにビン底メガネ、帽子をかぶっているが髪の毛はボサボサ。寝癖がはみ出している。メイクもしてないし、顔を洗った様子もない。明らかに寝起き。
仕事の合間に、漫画を熟読している佐藤しおりさん。
でも、楽しそう。笑っている。
「何をしているのかな、佐藤先輩」
「どっかで、セレブになったのかな?」
皆んなは、まだ佐藤しおりさんの噂をしている。
私は、影でフフフと笑う。
そんなこんなで、
佐藤しおりさんは、自由になったんだよ。本当の自分に……