お酒が飲めない
ウーマン「お酒が飲めない」
私はキャバクラ嬢の紫音。
このキャバクラで働いている。
豊満なバストに、ほどよく括れたウエスト、魅力的なヒップ。
ゴージャスなスタイルに男どもは釘付けだ。そこいらの女優に負けることはない。
自慢じゃないが、この店のナンバーワンだ。
お客は私目当てに来店する。
ぶっちぎりのトップ、他店のキャバクラ嬢など足元にも及ばない。どんな若手でも問題外。
私の方が、美貌、品格、スタイル、接客、段違いに優っている。向かうところ敵なし。
したがって、この店の売り上げは私にかかっている。半分以上は私の稼ぎだ。
私がいなければ、この店は成り立たない。店長、マネージャーなど、私の思うまま。
私ぐらいレベルが高いキャバ嬢は、他にいないの?
それだけが悩みだ。
当然にして、当然の結果……
ある日のこと、
うげっ、
突然、吐き気をもようした。
妊娠?
憶えはない。
船酔い?
船には乗っていない。
他に考えられることは……
病院
「アレルギーですね」
「完全なるアルコールアレルギーです」
何だって?
「パッチテストに反応があります。もう、お酒は辞めた方がよろしいですね」
お酒が飲めないキャバ嬢なんて!
お客にお酒を注文させて、それを飲む。それがキャバ嬢の仕事だ。お酒の飲めないキャバ嬢など何の価値もない。
困った、
マネージャーに相談するか?
そんなことをしたら、私のナンバーワンの地位が脅かされる。私の顧客を他に回されてしまう。あのナンバーツーの茜に持ってかれてしまう。
どうしよう、悩む…
お店の時間
結局、誰にも言えなかった。この状態で接待するしかない。
「紫音さん、3番テーブルに〜」
黒服が案内する。
いつものお客だ。○○商事の社長さん。
このお客は気前がいい。いつもたくさんお酒を注文し、たくさんチップをくれる。特上の客だ。
「また来たよ、紫音ちゃ〜ん」(頭が光っている)
「社長さん、久しぶり〜」(営業スマイル)
久しぶりと言っても、3日前来たばかりだ。
あえて久しぶりと言って、もっと頻繁に来てもらう作戦だ。ちょっとした話術もお客の心理を突く(キャバ嬢テクニック)
「いっぱい頼んで、紫音ちゃんを酔っぱらせちゃおうかなぁ〜」
「は〜い、社長さん♡」
いきなり困った展開だ。(汗)
お酒と言われただけでも、軽くジンマシンが出る。
どうする私?
①お酒を飲む振りしてピッチャーに捨てる。
新人キャバ嬢がする技だ。お客にバレる可能性大。
②お酒を飲む振りをしてお絞りに吐き出す。
よくある手だが、私のようなナンバーワンはお絞りがいくつあっても足りない。
③飲んだ後、洗面所に行って吐き出す。
これは、一度アルコールが胃袋に入るので、少量のアルコールが付着しアレルギー反応が出てしまう。
う〜ん、良策が浮かばない。(腕組み)
「どうしたの紫音ちゃん?今日は飲みっぷりが悪いね〜」
「僕は、紫音ちゃんの飲む姿を見るのが大好きなんだよ〜」
「ありがとう、社長さん〜♡」
困った(汗)
ええい、社長にだけ飲ませる作戦だーー
「たくさん飲んで、社長さん〜」
ゴプゴプゴプ、ゴプ
「そ、そんなに飲めないよ、紫音ちゃん〜ゴプ」
「もっと、もっと飲んで社長さん〜」
ゴプゴプゴプ、ゴプ
「もう、飲めないよ紫音ちゃん〜ゴプ」
「もっと飲んで、もっと飲んで社長さん〜」
ゴプゴプゴプ、ゴプ
「もうだめ、もう限界。ゴプ」
「もっと、もっと〜」
ゴプゴプゴプ、ゴプ
ゴプゴプゴプ、ゴプ
「おい、もう飲めないって言ってるじゃないか!」(怒る)
バタン、
社長が倒れた。
ピーポー、ピーポー
救急車を見送る黒服と私。
マネージャーの怒りの顔…
その日以来、
○○商事の社長は来店しなくなった。
「こんなに酒を飲ませるキャバクラは初めてだ!」
「ひどいキャバクラだ!」
「もう、ここには来ないよ!」
「すいませんでしたー」
マネージャーが謝りっぱなしだ。
二人で、店前にたたずむ。
「最近変だよ紫音ちゃん、どうしたの?」
「……」
私の人生は終わった。
もう、キャバ嬢生活は終了だ。
こんな身体じゃ、キャバ嬢なんてできない。
今や、ちょっとしたアルコールでも敏感に反応してしまう。数滴の臭いでさえも解ってしまう。完全にアルコール反応女だ。
キャバ嬢の頂点に立ち、この界隈でお店を開く。そんな夢も消え去った。
私は、ただの、普通の、何処にでもいる女に成り下がる……
数年後、
「アルコール反応が出ました、所長」
「紫音さんは、本当に優秀だね。微量なアルコールでさえ完璧に解る。素晴らしいよ」
「そんな〜普通ですよ〜♡」
そんなこんなで、
私は今、研究所で検査技師をしている。
日々、検査に没頭する毎日。
「紫音さん、3番試験管に…」
天職か?




