五十ニ
王子と仲良く庭園のテラスで日向ぼっこしている。
テーブルには王城のコック新作、焼きカボチャプリンと桃が乗ったミルクプリン、ブルーベリーのシャーベットが用意された。
このデザート全てにお砂糖は使われていない、卵と豆乳、果物そのままのプリンとシャーベット。王城のコックは凄い研究熱心で、私が王城に来るたびに新作お菓子を作ってくれるのだ。
「話してくれるか、ミタリア」
「はい、リチャード様」
デザートを食べながら、私は前世の記憶と王子に乙女ゲームのことを話した。黙って聞いてくれるけど、理解しがたい話だからか眉にシワがよっている。
「ふぅーん。前世の記憶か……この世界がその、前世にあった乙女ゲームというものに似ているんだな」
「はい、国の名前、私やリチャード様、周りの方の名前は同じでしたが……話はかなり違います。乙女ゲームの主人公、ヒロインはこの学園に現れなかったですし」
「ヒロイン? あの手紙を書いた子か……ゲームだと俺がその子のことを好きになって番紋が浮かび。ミタリアと婚約……は、き、するのか……絶対しないがな。あ、ああ、だからか。だから最初ミタリアは俺に関心を示さなかったんだな」
「そうです。記憶を思い出してリチャード様を好きになっても……最後には婚約破棄されてしまうと思ったから」
「それで、いまはどうなんだ」
いまの私の気持ち。
「私の気持ち……リチャード様は素敵な方だから、好きにならないなんて、できなかった……私はリチャード様のことが……好きです」
彼の瞳を見て告白したけど。
告白なんて昔もしたことがなく、恥ずかしくて、身体中が熱くて、溶けだしたブルーベリーのシャーベットを、一気に体の中に流し込んだ。
その様子を見ていた王子は。
「ハハハッ、俺を好きか嬉しいな……俺もミタリアが好きだ、大好きだ……この気持ちは生涯変わらない」
「……リチャード様」
「おい、泣くなよ」
「だって、嬉しくって、涙が止まらないの」
幸せで、お腹はポウッと温かくて、しばらく涙が止まらなかった。王子は泣き止むまで私の手を優しく握ってくれた。
「ミタリア、落ち着いた?」
「はい……あの、泣いてしまって、すみません」
「俺のことが好き過ぎて泣いたんだ謝るな。……それでチョココが食べてはならない食べ物だと、知っていたのは前世の記憶なんだな」
「……はい、チョコは好きでよく食べていましたから」
「そうか。たがらあの時、チョココを舐めようとしたんだな……ククッ。これで大体話はわかった。それで、前世のミタリアは誰を推していたんだ?」
「えっ、誰推し?」
いきなりの王子の質問に戸惑う。
「その乙女ゲームってのは好きな人を相手に選ぶんだろ? ……焼きカボチャと桃、どっちのプリンがいい?」
プリン?
「りょ、両方食べたいです」
「はははっ、ミタリアならそう言うと思っていた。じゃー俺と半分こな。……話は色々わかった。一番は前世のミタリアが誰推しか知りたい」
言えと言わんばかりに、ジッと王子の青い瞳を向けた。
「誰推しなんだ?」
「わ、私の前世の推しは……リ……ド様だよ(噛んだ)」
「はぁ? よく聞こえなかった、もう一度言って」
「リチャード様です!」
「ん? よく聞こえなかった、もう一度」
「……!」
嘘だ、口元が笑っているもの。
前世、一目で気に入り……それからずっと王子を選び続けていたなんて、笑顔に癒されていたなんて、さっきの告白以上に言えない。
「クックク、前世といまも一番は俺か。なぁ、ミタリア、キスしていい?」
「えっ、えぇ、きゃっ、リチャード様!」
驚きで尻尾の毛が逆立った。
だっていつの間にか近くに居て、いきなりテラスの床に押し倒して強引にキスするんだもん。
「もう、リチャード様!」
「ごめん、余りにも可愛顔をするから気持ちが暴走した。あっちい……お腹が熱いな、ミタリアもだろう?」
王子の指先がドレスの上からお腹のアザの場所ををなぞった。触られて、さらにアザが熱を帯びる。
「やぁっ、あつっ、熱い、リチャード様」
「コレは同じ番紋を待つ、俺たち二人にしかわからない熱だ……ミタリア、俺は父上を超えてもっと強くなる、すぐ側で見ていて欲しい」
真剣な王子の瞳に私はコクリと頷いた。
+
それから1週間が経ち。
王妃殿下と王妃似の可愛いお子様は無事に王都に戻ってきた。そして誕生会などを含めた舞踏会の日時が、私の誕生日五月十七日に決まった。
王子は執務、舞踏会の準備のなどが忙しく、学園に来れない日々が続いていた。会えなくて寂しいけど、私はプレゼントをするハンカチに狼の刺繍をしたり。ナターシャに頼んで、ルピナスの白い花を買ってきて貰いそれを押し花にした。
ルピナスの白い花で王子とお揃いの栞を作りたかったんだ。「つねに幸福」の花言葉が気に入ったから。
「リチャード様はハンカチと栞、喜んでくれるかな?」
彼の笑顔が見たくて、内緒でプレゼントを黙々と作っていた。
それはリチャードもだった。
五月のミタリアの誕生日に婚約指輪を贈りたい、もちろん手作りで。ミタリアの笑顔が見たくて彼もまた、空いた時間を使い彫金屋に通っていた。




