三十八 乙女ゲームの始まり
のんびりオフトゥンに包まれていた、コンコンと従者席側の壁が叩かれた。
「リルか、どうした?」
「リチャード様、もうすぐ王都に着きます」
「そうか……ミタリア起きろ、学園にもうすぐ着くぞ」
狼姿の王子は長い鼻で起きろと私の頬を突っついた。オフトゥンの上で寝ていた私はのっそり起きた。
欠伸をして目を覚まして、前足でうにうに顔を洗う。
「学園にもう着いたの?」
「そうだ。俺も着替えるから、ミタリアも制服に着替えろよ!」
「ふわぁい」
うちの屋敷から獣化した私を連れて、馬車に乗り込むと王子まで腕輪を外した。そのあとは二人寝そべり、王子は隣で眠っていたのか知らないけど、私たちはは学園までぐっすり寝ていたようだ。
いま腕輪を付けて、いそいそと馬車の中。
背中合わせに学生服に着替え中だ。
「俺は着替えが終わったが、ミタリアは終わったか?」
王子には背中越しに聞かれて「はい」と振り向くと、サラサラな王子の黒髪がピコンと跳ねていた。
(寝癖だ、王子もぐっすり寝ていたのね)
「リチャード様、ここに寝癖が付いていますよ」
「ん? ここか?」
「違います、ここです。少しかがんでください」
目の前てかがむ、王子の髪を直した。
「これでよし寝癖が直りました。リチャード様、学園に行きましょう」
「待て、ミタリア」
今度は王子の手が伸び、私の後頭部を優しく撫でた。驚きピクッと体が反応したけど、頭を撫でられるのは嫌いじゃない。むしろ気持ちよくてもっと撫でてと擦り寄せてしまう。
(やばい、王子の手って気持ちいい)
「ふふっ、ミタリアの寝癖も直ったよ」
「あっ、寝癖? ありがとうございます、リチャード様」
「あ、待って、ここにも寝癖だ」
「ひゃっ、ま、待って、そこは耳です……うっ!」
敏感な耳を触られると体が動かなくなる、王子はそれを知っていて、いいだけ私の耳を触った。
「あっ、ごめん。寝癖じゃなくミタリアの耳だった」
「もう、最初から知ってるくせに。リチャード様の耳も触っちゃいますよ。リチャード様も耳を触られるのお嫌いでしょ?」
偶然、指が耳に触れた時、私と同じく体が強張ったもの。王子はうんうんと頷き。
「そうだな、ミタリアにだったらいいぞ。二人きりの時に今度触らせてやるよ」
「言いましたね、約束ですよ」
「あぁ、約束だ」
+
王都の西側にある学園、ここで乙女ゲームが始まる。学園の門を潜ると学校に通う学生たちは、みんな私たちの登場に振り返った。
(この風景、ゲームのスチルで見たわ)
「お似合いの二人だわ」
「リチャード王子殿下とミタリア様、素敵」
「お近づきになりたいわ、ミタリア様」
令嬢たちが頬を赤らめてリチャード様を眺める。中には嫉妬して睨みつける令嬢もあれっ、いない? 私を含めてみんな見ていた。
そして、みんなに和やかに挨拶された。
「なんて、お似合いの2人なのでしょう」
あれれっ?
「どうした、ミタリア? 周りの目が気になるのか?」
「いいえ、皆さんその……穏やか瞳? 温かく私たちを見守ってくださってるから」
(もっと、嫉妬の目を向けられると思っていた)
「当たり前だろ、舞踏会でのチョココの一件、食糧難の一件でミタリアの株は貴族会、国民の中で上がり続けているのだからな」
私の株?
「そ、そうなのですか?」
「みんなはミタリアに話しかけたくても、俺と後ろから着いてくる側近リルが側にいるから、側によることも、話しかけもできないからな。まっ、話しかけなどさせないけどな、クックク」
横で王子は楽しそうに笑い、意地悪そうな顔をしていた。
(王子のこういう顔は初めて見た)
そんな私たちのところに「そこ、どいて!」と叫び、一匹のピンクが突っ込んできた。
(えっ、長い耳、丸い尻尾、う、うさぎ?)
ゲームの時とは異なる、ヒロインの登場の仕方だった。




