三十四 収穫祭(1)
十一月、収穫祭が王都の中で開かれた。
昨年よりも出店の数は減ったけど、国中て集められた新しいレシピのお陰か。見たこと、食べたことがない料理が並んでいる。
私と王子は腕に国のマーク入り腕章を付けて、収穫祭を視察していた。
ジャガイモのスコップコロッケ? じゃがいも、さつまいもの素揚げごま塩風味? 苺のヨーグルトかけ、桃と苺のコンポート。焼き芋、まんまるジャガイモどれも美味しそう。
色々な出店に目移りのなか、桃と苺の果実水のお店を見つけた。
「リチャード様! 桃の果実水と苺の果実水どちらが良いですか?」
「俺は桃がいいな」
「私は苺にしよっと、買ってくるので待っていてください」
「おい待てミタリア、一人で行くな! 俺も行く」
私の手を掴む大きな手のひらに、今までになかった豆ができていた。王子に騎士団との訓練を朝以外にも始めたと聞いている。だからお昼頃にお会いしても、王子は早めに切り上げて訓練に向かわれていた。
今度、訓練を見にくればいいと誘ってもらっている。
「ミタリア、そこのベンチで座って飲もうか」
「はい」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
結局、果実水のお金を出してもらった。
今日は日頃のお礼も兼ねて、絶対に奢ろうとお小遣いを持ってきたのに、王子は「ミタリアは黙って奢られなさい」なんて言うんだもの、こっちは何も言えなくなる。
ベンチに座っても繋いだ手は離さないし……あ、それはいいっか。
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「ふうっ、甘くて美味しい」
「あぁ、美味いな」
視察だけど楽しいし、収穫祭に訪れた人たちも新しい料理に顔がほころんでいる。もっともっと料理、保存食を工夫すればこれから訪れる冬を乗り越せるだろう。
ベンチに並んで座り、果実水を味わう私たちの近くで、喜びの声が上がった。
「これは凄い!」
「ありがたいわ」
「国王陛下、ありがとうございます」
みんなは国王陛下に感謝していた。
「リチャード様、あの出店すごい人気ですね。みんな喜んでいるわ」
大勢の人が集まり、手に本のような物を待っていた。
「あーあれか? あれは国中から集められたレシピをまとめたレシピ集だ、父上と重役とで話し合い作ったんだ。今日の収穫祭で無料で配られているよ」
集めたレシピのレシピ集、何ですって!
「私もレシピ集が欲しいわ、みんなと並んでくる」
「待て、ミタリア。そう言うと思って数冊、俺の部屋にとってあるよ、まあ作った者の特権でな。あ、でも紙が曲がったり表紙がインクで汚れた物だが、ちゃんと読める……新品じゃなくて悪いが」
「そんなことは気にしません。嬉しい、ありがとうございますリチャード様」
「おい、そんなに喜ぶなよ。お礼はブラッシングでいいぞ」
「はい、いくらでもブラッシングします。……そのブラッシングなのですが、リチャード様にお願いがあります」
「お願いとは、なんだ?」
「私もあのブラシでブラッシングして欲しい……です」
と、言い終わる前に王子がゴホッと果実水にむせた。
「ブラッシング? 俺がミタリアをブラッシングしてもいいのか?」
「いいですけど?……果実水が垂れてますよ、口元をお拭きください」
慌てている、王子にハンカチを渡した。
「ありがとう、何でまたブラッシングなんだ?」
「リチャード様が気持ちよさそうなので、他のブラシとはどう違うのかなって、気になっていたんです」
「わかった、いますぐ……いや、この視察が終わったら、いくらでもブラッシングしてやる」
「はい、お願いします」
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(この時、王子の心の中は荒れていた)
おい、おい、おい……待ってくれ。俺にブラッシングして欲しいと、いまミタリアは言ったよな。
まじか! 出会った頃は気になる程度の感情で、意地悪で腹に顔を乗せたこともあったが……。
いまはあの頃とは違う。互いに番紋が浮かび、ミタリアはまだ伝えていないが俺達は番なんだ。そんな俺がミタリアに触れて我慢できるのだろうか?
「リチャード様、美味しい」
俺の気も知らないで、呑気に苺の果実水を飲むミタリア……可愛い。なんでいい日だ、ブラッシングして欲しいと頼まれるは、この腕章のお陰でミタリアと堂々デートできる。
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果実水を飲んだ後、王子と視察の続きで出店を回っていた。
「リチャード様、アレ!」
「なんだ、袖を掴んで?」
「スコップコロッケを一緒に食べましょう!」
「いい匂いがしてると思ったら、スコップコロッケか美味そうだな」
炒めた挽肉、蒸したジャガイモをあえて大きなスキレットに引き、パン粉をまぶしてオーブンで焼くスコップコロッケ。
大きな鍋に作られたコロッケを、スコップで好きなだけお皿に盛り、その重さで値段を払う。味付けはソースかマヨネーズお好きな方をかけて、シャベルの形のスプーンで食べる。
「ミタリア、皿に盛りすぎじゃないか?」
「えっ、いい香りにお腹がすいてしまって……やっぱり、盛り過ぎですか?」
匂いに釣られて、つい山盛りにしていた。
盛り過ぎたと、楽しげに笑う王子。
「くくっ、一緒に俺が食べよう」
「一緒に? は、はい、食べましょう」
空いているベンチに座り、マヨネーズとソースをかけて、スコップコロッケを食べる。シャベル形のスプーンでコロッケを掘ると、サクサクのパン粉の下には、ほくほくのじゃがいもと挽肉が隠れていた。
見た目にも面白く、味も美味しい。
「あちっ、熱々で、ほ、ほいしい」
「ほいしい? あははっ、またそんなに熱々を口いっぱいに頬張るから」
「リチャード様も食べてましょう。口開けてください」
新しいスプーンにじゃがいもコロッケをすくった。
「ここでか!」
「えっ、あ、そうですね、失礼しました」
気付けば数人、足を止めてこちらを見ている。
楽しくてすっかり忘れていた。私たちは視察中で王子はこの国の第一王子だった。
「ほんとうは嬉しいが……やはり、外では悪いな」
「いいえ、お気になさらないくださいって、それは私が使ったスプーンです。こちらに新しいのがあります、あっ!」
「んっ、美味いな。これくらいはいいだろ?」
その笑顔で言うのは卑怯ですよ。
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「ふうっ、お腹いっぱいです」
「俺もだ」
その後もたくさんの出店を周り、最後の出店となった、そこは一人一回百モノ(円)で、じゃがいも、にんじん、さつまいもの袋詰めができる。どの野菜も詰め放題で、袋が破れるまで入れてもいいと書いてあった。
「リチャード様、野菜の詰め放題ですって」
「ミタリア……あの出店はこの前の詫びにと、人族の国王陛下が提供してくれた店なんだ。店番はカーエン王子と側近、近衛騎士がやっている」
ええっ、カーエン王子……この収穫祭に来ていたんだ。そっと覗くと笑顔で対応するカーエン王子の姿が見える。彼は私たちに気付くと笑顔で手を振った。
「げっ、向こうが俺たちに気付いて手を振っている……仕方がない視察だし寄って行こうか」
「はい、リチャード様。私、袋詰めしたいです」
「そうか、一緒にやろう」
出店に近付くと、カーエン王子はグリーン色のジュストコールを着て、黒色の付け耳と黒の長い付け尻尾の姿で、笑顔で対応してくれた。




