十六
朝方、王子が迎えにくる前にナターシャとキッチンで、昼食用のサンドイッチを作っていた。
ナターシャが焼いたパンにバターを塗り、ハムとチーズ、ゆで卵を挟んだ物と、鳥ささみと野菜をふんだんに使った、具沢山サンドイッチを作りバスケットに仕舞う。
飲み物は桃の果実水を作り、デザートに果物を選んだ。
「これでよし」
格好は、一見お淑やかに見えるふんわり生地、一見ドレスにも見える水色ワンピースにした。
(この姿なら、王妃殿下の前に出てもいいはず)
長時間の馬車移動は普通のドレスだとキツい。王子だって窮屈な軍服、正装では来ないだろうと踏んだ。
「ミタリアお嬢様、リチャード殿下がお着きになりました」
「いま行くわ」
ナターシャに呼ばれてバスケットを片手に向かうと、屋敷前に王子が乗るには飾りがなく黒く、大きめな王家専用、馬車が止まっていた。
(昨日、王子が乗ってらした馬車とは大きさが違う?)
言うならば、ゴツい要塞の様な馬車だ。
「おはようございます、ミタリア様」
「こ、ごきげんよう。今日はよろしくお願いします」
馬車の入り口で待っていた王子の側近リルに挨拶をして、手を借り馬車に乗り込む。
乗り込んだ王家の馬車は座席が広くとられていて。中で王子は靴を脱ぎ、クッションを背に本を読み寝そべっている。反対側の座席には似つかわしくない、ふかふかなオフトゥンがひいてあった。
175センチくらい(ゲームの資料推奨)の王子が余裕で足を伸ばしていた。
中を見て呆気に取られる、私に王子は笑い。
「このような格好で悪いな。おはよう、ミタリア」
「お気になさらず。おはようございます、リチャード様。あの、このオフトゥンはどうされたのですか?」
「ふふっ、俺がミタリアの為に用意した。さぁ好きなように寛いでくれ」
裸足に、ベストとスラックス姿のラフな格好の王子。その反対側に座った。これは王子のベッドに敷かれていた高級なオフトゥンだ。
(座り心地、触り心地、最高!)
「ふかふか……」
「ははっ、そのオフトゥンを気に入ったようだな。リル! いいぞ、出発してくれ!」
「かしこまりました!」
王子の掛け声だ走り出した馬車。この馬車を操る従者席に側近リルと従者、馬車の後ろに近衛騎士だけ。王子は第一王子なのにこの人数は少ないのでは。
もしかして離れて他の騎士が着いてきている。
私のそわそわ感が王子に伝わったらしく。
「ミタリア、俺を守る騎士が少ないと思ってる? 何かあれば、俺が獣化して戦うから安心して」
獣化ーー狼の姿で戦うと言った王子。
「い、いくら獣化して傷の治癒力が上がるからって、リチャード様が戦うなんて」
(獣化の元から備ええいる特殊能力の一つ。傷を癒やす治癒力が、他の獣人よりも上がるけど)
王子が自ら、戦うなんて。
「危険を予測したトレーニングは常にしているし。いざとなったら、ミタリアを担ぎ駆けることもできる」
「……そうでは、なくて」
(私だってわかってる。獣化した私たちは捕らわれると酷い目に遭う。だからといって王子が戦い怪我をしてほしくない)
「ミタリアは俺を心配してくれているのか、ありがとう。まぁ俺が獣化するのは最終手段だからな。一緒に着いてきている近衛騎士、リル、従者は俺よりも腕が立つぞ」
(側近リルの腕前は知っている。ゲームの中でだけど、リルは足音なく近付きミタリアを取り押さえた)
「どう、安心した? 馬車も余分な宝飾を全て外した。遠慮なくオフトゥンに寝転んでくれ」
「では、お言葉に甘えて」
バスケットを置き。こてん、ともふもふオフトゥンに横になった。天日干しされた良いオフトゥンだ。肌触りも気持ちいい。オフトゥンを楽しんでいると、クスッと小さく笑う声が聞こえた。
オフトゥンからチラッと見ると、読んでいる本を胸の上に置き、瞳を細て私を見つめる王子がいた。
(その笑顔!)
内心ドキドキで、見ないふりをした。
「ミタリア、お昼の時間になったら起こすから、寝てもいいぞ」
「はい、お言葉に甘えて」
ヒールを脱ぎ、本当にお言葉に甘えて、ゴロンと横になった。




