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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
最終章 裏ボス攻略をしてください。▼
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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼




【魔王城 メギドの部屋】


 死神を葬り去った興奮と徹夜明けの疲労がどっと押し寄せ、私は風呂に入った後にベッドに倒れ込むようにして眠りに落ちた。


 久々によく眠れた気がする。

 次に目覚めたときにはもう夕方になっていた。


 しかし、私が目覚めたのは自然覚醒ではなく、扉を乱暴に開ける音で起きたのだった。


「大変だ、メギド! 起きろ!」


 もう三神もいなくなったというのに何が大変なのか……

 と、身体を起こしている間にタカシが部屋のカーテンが大きく開けた。


 窓の外には鏡鳥がいた。

 その鏡鳥には見慣れた二つの影が映っている。


 それはゴルゴタと蓮花だった。


 ――は……?


 何が起こっているのか分からない私は、慌ててベッドから出て窓を開けた。

 すると鏡鳥から2人の声が聞こえてきた。


「毛のない猿ども、もう集まったかぁ……?」


 怠そうに話すゴルゴタに、今にも死にそうなほど疲労困憊の蓮花が返事をする。


「あと2分くらい待ちましょう」

「クソ猿どもにそんな時間割けるかよ、俺様は暇じゃねぇ!」


 蓮花はそんなゴルゴタの言葉を他所よそに、欠伸あくびをしている。


 どういうことだ。

 この映像はいつのものなのかと私は推測する。


 2人は服をそう頻繁に着替えているわけではないが、この服は白羽根どものところに行っていた頃の服だ。

 これはそのころのものであり、少し前に撮られたものらしい。


「毛のないクソ猿ども、俺様は人喰いアギエラを宣言どおり解放したぜぇ……? これでクソ猿ども全員皆殺しだ!! ざまぁみやがれ!」


 ――何を馬鹿な事を……! 


 全く状況が分からなかった。


 すぐにこの放送を辞めさせたいが、鏡鳥の一羽を止めてもこの放送は止まらない。

 鏡鳥の映像ではアギエラ本人も映っていた。

 とはいえ、それが本当に伝説に残る人喰いアギエラかどうかは人間たちには分からないだろう。

 アギエラは無理矢理付き合わされているのか、一言も喋らない。


「……って思ってたんだけどなぁ……? 気が変わったから、こうやって丁寧に伝えてやろうって訳だ……ありがたく思えよ、ヒャハハハハハハッ!」


 私はタカシと共に鏡鳥の映像から少しでも情報を得ようと耳を傾ける。


 タカシは私の隣りで焦りを露わに共に見ている事しかできない……――――わけではない。

 その気になれば、もうタカシは勇者の剣を振るってゴルゴタらに挑むこともできたはずだ。

 だが、タカシはそこまで思考が回っていないのか、相変わらず慌てた様子で映像を見ているだけだ。


 ……要するに、力を手に入れても阿保ということだ。


「なぁーんか、クソ猿どもを散々ぶっ殺してもう飽きちまったぜぇ……キヒヒヒ、俺様はいつでもクソ猿どもを皆殺しにすることなんざ簡単だからなぁ……? 最近だと『真紅のドレス』とかいう魔王信仰の連中を皆殺しにしてやったぜ」


 そう言いながらゴルゴタは誰かの人間の生首を映像に映した後、それを乱暴に握りつぶして画面外に捨てた。


「うわっ……」


 グロテスクな映像が映ってタカシは悲鳴をあげている。

 しかし、一瞬しか映っていなかったが生首は偽物だと分かった。

 蓮花が雑に作成したものだろう。

 それも、見る者が見れば偽物とわかる程度にわざと作っているようだった。


「前魔王のメギドが俺様のところに来て死闘を繰り広げたけど、捻り潰してやったぜ! ヒャハハハハハッ!」

「……でも、かなり苦戦してましたよね」

「してねぇよボケ!」


 ――?


 何の話をしているのだ?

 私とゴルゴタは、死闘と言われるような死闘を繰り広げた覚えはない。


「つーか、魔王になってみて分かったけどよぉ……スゲー退屈だったわ。クソ猿どもを殺すのもマジで飽きちまってさぁ……もっと面白れぇ事ねぇワケ……?」

「この国では、私たちに勝てる人も魔族もいないでしょうしね」


 ――なんだこの茶番は……!


 私は冴えてきた頭で推測し、これはゴルゴタらの気遣いだと気づいた。

 魔王の私の面子を潰し、後々人間にも魔族にも責められる私の事を想っての三文芝居だ。

 魔王城には私の他にも母上もサティアもいる。

 自分たちが悪役であり、自らが標的になるようにヘイトを煽っているのだ。


 そう分かるとセリフも棒読みに聞こえてきた。


「あ、コイツは最近手に入れた俺様の玩具おもちゃだ。クソ猿どもの間では有名らしいなぁ? 人殺しの回復魔法士様よぉ……」

「私は人間を滅ぼそうと思って、ゴルゴタ様のところに置いてもらうことになりました」


 下手過ぎる。

 こんな下手な芝居で他の者たちは納得できるのかと疑問に思う程の下手な棒読みだった。


「でもよぉ……この人殺しみてぇな革命を起こせるほどの天才が生まれるなら、クソ猿どもを皆殺しにするのも惜しくなってさぁ……魔王のシゴトもめんどくせぇし、俺様達は“待つ”ことにしたってワケ」


 ――待つとは……?


 蓮花がその言葉の意味を補足した。


「人間も魔族も簡単に滅ぼせるんですけど、滅ぼしてしまったら今より強い者は現れないので、その方々が私たちを殺しに来るのを待つことにしました」

「クソ猿ども、命拾いしたなぁ……ヒャハハハッ!」

「勇者連合会とかいう腐り切った組織の人たちに警告します。今までは魔王城に遊びに行く人がいたようですが、私たちに気軽に挑みにきたら、見るも無残な姿にして殺します」


 今までの下手な芝居ではなく、蓮花は本心からそう言っていた。

 顔のタトゥーが見えるようにわざと髪を耳にかけているし、この警告は偽りではないと信じさせるには十分すぎる。


「死んでも構わねぇと思う奴らだけ、俺様達に挑みに来い! 文句を言う暇もなく、ぶち殺してやるぜぇ……キヒヒヒヒ……」

「私たちは、しばらくもぬけの殻になってるオメガ支部にいます。文句があったら、オメガ支部まで来てください」


 そう言っているゴルゴタと蓮花はもう飽きたようにやる気が感じられない。

 演技というものが壊滅的に向いていない事に気が散る。


「そうだなぁ……それだけじゃぬるいか……俺様達に挑みにきた奴の出身の町の連中は連帯責任で全員皆殺しにするぜぇ……一族全部消える覚悟で来やがれ」

「……本当に大丈夫なんですか? 四六時中狙われる生活は疲れそうです」

「馬鹿かテメェ、元々死刑になる予定だったテメェが逃げ出してんだからどの道四六時中狙われるんだよ」

「それもそうですね」


 そんなやり取りがしばらく続いた後、とんでもない事をゴルゴタが言い出した。


「前魔王のメギドは、見込みがあったから俺様の舎弟にしてやったぜぇ……」


 ――な……なんだと……?


 それを聞いて私は絶句した。


 目の前にいたら怒りのあまり魔法の撃ち合いが始まってもおかしくない。

 私はゴルゴタの舎弟になった覚えはないし、お前は私の実の弟で、私が兄だろう。


 ――誰がお前の舎弟だ!?


 そう言いたかったが、映像に罵声を飛ばしてもゴルゴタには届かない。


「俺様の舎弟に手ぇ出したら、俺様に“いじめられたよ~助けて~”って泣きついてくるかもなぁ……? キヒヒヒ……」


 私はそんなことは絶対にしない。

 これは名誉毀損だ。


 こんなものを全国に向かって放送するなど……!


「じゃ、実験体がほしいので、挑戦者待ってまーす」

「じゃぁなぁ」


 そこで雑に映像が終わった。


 私は怒りで震えた。


 私たちを庇おうとしているのは理解できるが、その中に隠し切れない悪意が見て取れた。


 もしかしたらあのときゴルゴタが無言で部屋を去ったのは笑うのを堪えていたからか。

 あのとき蓮花がヘラッと笑ったのは私を馬鹿にしていたからか。


 連中のやり口にはいつも私は極限まで苛立たされる。


「……あれって、どういうこと?」


 タカシが間抜けな顔をして訪ねてくるが、そんなこと私が知りたいくらいだ。


「やってくれたな、ゴルゴタ……!」


 無性に腹が立ったので、私は空に向かって超火力の炎の魔法を撃ちあげた。

 恐らく、魔王城から最も離れたオメガ支部からでも見えただろう。

 それほどの爆炎を私は発生させ、無言の怒りをそれで表現するしかなかない。


 それを見て嘲笑っているであろうゴルゴタと蓮花に、暫く怒りが収まらなかった。





 ***




【一か月後】


 私は蓮花とゴルゴタが出て行って、まるで長い嵐が去ったかのように静かになった魔王城で優雅な生活を取り戻していた。


 ゴルゴタのあのふざけた放送の甲斐もあってか、私のところに責任がどうのこうのという輩は来ていない。

 それを思い出すだけで私は不快な気持ちになった。

 こんな陳腐なやり方がゴルゴタの仕返しだというのか。


 私はゴルゴタに心の底から悪いと思っているから言及していないが、今度顔を見たら恐らく死闘の喧嘩になるかもしれない。


 センジュの情報網で聞く限りは、ゴルゴタたちに挑みに行っている頭の悪い奴はいないらしい。


 当然だ。


 ゴルゴタの恐ろしさは魔族全体が知っているし、蓮花の恐ろしさは人間全体が知っている。

 それにわざわざ喧嘩を売りに行く連中はいないだろう。


 行くのは余程の馬鹿だけだ。

 その余程の馬鹿は今のところいないらしかった。


 他にも聞くところによると、勇者連合会はアザレアらとライリーの証言で解体になり、それから国王オリバーは完全に王座から引きずり降ろされたとのこと。

 愚かな王が退いて、ルクスの血筋の者が王座に座ることになったらしい。


 カノンはやっと地下牢に詰められていた人間たちを解放しきり、蓮花とゴルゴタがいるというオメガ支部に行くと言っていた。

 これが余程の馬鹿第一号になるかもしれない。


「殺されるぞ」


 呆れて私がそう言った。


「蓮花さんは約束を守ってくれる人だと思うので、話をしてもらいます」


 そう言ってカノンはオメガ支部に向かって旅立つのと同時に、魔王城から攫ってきた人間たちを先導して出て行った。

 生きていたら、兄の件もあるし魔王城で働きたいとのこと。


 佐藤は目標を失ったのか、地下牢から出すとどこかへ消えて行った。

 どこに行ったのかは分からないが、少なくともゴルゴタと蓮花の場所ではないらしい。


 白羽根どもが魔王の座を要求していたので、もう使えなくなった『時繰りのタクト』と共に魔王の座もくれてやった。

 白羽根どもが魔族の統治、ひいては人間の統治を試みているらしいが、思ったより上手くはいっていないと聞いている。

 魔王という立場は大変だという事を身をもって知れと思って約束どおり地位をくれてやった。

 とはいえ、ルシフェルが魔王になったという情報はまだ一部にしか伝わっておらず、魔王交代の情報はまだ暫く行き届かないだろう。


 母上とサティア、イドールは魔王城で暮らしている。

 母上とサティアは構わないが、私はどうにもイドールが苦手で邪険に扱っていた。

 ときどき父親らしいことをしたいのか近寄ってくるが、私はイドールに「近寄るな」と言ってある。


 蘭柳とアガルタも母上が生き返ったことをイドールつてに知り、母上に会いに来た。

 蘭柳はイドールとどちらが私の父に相応しいかというような話をしていて背筋が凍った。

 気持ちが悪い事このうえない。


 アガルタの話によるとレインがかなり身体が大きくなったようで、食べる量が尋常ではないと言っていた。

 一緒に住んでいるノエルとその伴侶を背に乗せて、結構遠くまで冒険に出かけているらしい。

 ノエルが暴走するような事態にもなっていないし、レインが元気そうで何よりだ。


 私は死の法が覆ったことで各地で様々な混乱があるだろうと思っていたが、そんな情報は入ってこない。

 死者の蘇生魔法を使えるレベルの者はほとんどいない上に、死者の蘇生魔法が使えるレベルの賢い者は死者の復活を望まない。


 いずれは死の法のようなものが必要になるであろうと、私はセンジュに『血水晶のネックレス』の改良を求めている。

 魔族を縛るだけではなく、全世界で死者が蘇生することのない世界を問題が起きる前に実現させるつもりだ。


 魔王の座を退いたが、結局やっている事はそれほど変わりないように感じる。


 メルとサティアの描いた絵が、魔王城の壁に沢山かけられていた。

 メルは『具現化の筆』がかなり自在に使えるようになり、魔機械族と共に便利なものの開発に貢献もしていた。


 そして、タカシは母上やサティアの髪飾りを作るために材料集めに出ようとしていた。

 今やタカシは魔王家専属の髪飾り職人だ。


 それでも、あの物騒な勇者の剣を常に携帯している。

 ゴルゴタの言っていた事を冗談だと捉え切れていないらしい。


「メギドも一緒に行く? ていうか、その椅子に座ってるだけって疲れないの?」


 タカシに軽く話しかけられ、私は王座からタカシに返事をする。


「この椅子に座って優雅に紅茶を飲むのが、私の優雅な生活なのだ」


 それを聞いたタカシは、良く分からなそうな顔をしている。

 お前には一生分からないだろう。


「でも、アレだろ? なんとかって魔道具のせいでメギドは魔王城から出られなかったけど、もうそれがないから出られるようになったんだろ?」

「そうだが」

「旅の途中でさ、壺師を家来にしようとしてたじゃん? 名前聞き取れなくて気になってるんだよね」


 そう言えばそんなこともあったなと私は思い出した。

 渡した『炎帝の爪』を上手く使いこなせていたら生き残っているだろう。

 魔王城に見事な壺を置きたいと、ふと私は考える。


「はじまりの村に戻って道具とか一式持ってきたいし、里帰り一緒に行かない?」


 私は暫し考えていたが、もう『血水晶のネックレス』の呪縛もなく魔王城に閉じこもっている理由もなくなったので、タカシと共に少し外に出てみるかと考える。


「そうだな、では行こう」

「よっしゃ! じーちゃんもばーちゃんもメギドが行ったら大喜びだぞ!」


 魔王城正門から出ると、私は柔らかい日差しを全身に浴びた。

 ミューリンとミザルデ、そしてセンジュが庭で薔薇の世話をしていたので外出する旨を伝えた。


「少し出てくる」

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」


 センジュたちは丁寧に私に頭を下げている。


「んー、今日もいい天気だな……っとと!?」


 私は歩きたくなかったので、タカシの肩に乗って日傘をさした。


「いい天気が台無し! またこれかよ!? 魔機械族が移動用の車作ってくれたよね!? それで行くんじゃないの!!?」


 タカシは私の下から言いたい放題文句を言ってきた。


「やかましい。楽をしようとするな」

「一番楽してるお前が言うなぁ!」


 せっかくであるし、旅していない場所も旅してみたい。

 永氷の湖に帰ったクロの顔でも見に行くか。

 服も戦いでかなりの数が破れてしまったし、新しいものを買いに行きたい。


 魔法式の開発も意外と楽しく、私は時々空間転移魔法の改良をしていた。

 はじまりの村に向かうだけなら、私の改良した空間転移魔法を使えば安全に一瞬で行くことができるが、私はそれをタカシにあえて言わなかった。


 私は外に出てタカシの上に乗ると、行きたい場所ややりたいことが沢山頭に浮かんでくる。


「もう俺、メギドを乗せた状態でも走れるから!」

「じゃあ走れタ()シ」

「タ・カ・シ!!」


 タカシは私を肩に乗せたまま力強く走り出した。

 以前は移動するだけで音をあげていたのに、かなり成長したものだ。


 と、思ったがタカシはすぐに走るのをやめて私に向かって話しかけてきた。


「そういや、勇者連合会の残党っていうか……働きたくないからまだ勇者を名乗ってるやつらが村にくるってじーちゃんからの手紙に書いてあったんだけど、どうする?」

「まだそんな馬鹿がいるのか」


 勇者免責とかいうどうしようもない法律が変わるまで、どうやらもう少し時間がかかるらしい。


「なら、私が懲らしめてやろう。いい加減現実を見て働け」


 どうやら、勇者とかいう身の丈を弁えない無職がまだ世界にはびこっているらしいので、私は再びタカシと旅に出ることにした。





 END





 最後までお読みいただきありがとうございます!!


 エタってた時期が長かったですが、無事に完結して良かったです。

 最後までお付き合いいただいた方、よろしければブックマークと評価をお願い致します!

 もうエタらないように精進しますので、是非……!


 では、また別の小説でお会いできるのを楽しみにしております。


 改めまして、最後までお付き合いいただきありがとうございました!

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