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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
最終章 裏ボス攻略をしてください。▼
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状態異常:悪寒




【メギド 魔王城 クロザリルの部屋】


 ついに目を覚ました母上は、私たちを認識してくれた。

 そのことに私は心底安堵していた。


 心の奥底に巣食っていた母上が私たちを覚えていないかもしれないという不安が、音を立てて崩れ去る。


 しかし、話をしていると母上の記憶は断片的で、覚えていないことも結構あるようだった。

 それはある意味私たちにとって都合の良いことだった。


 母上は人間に受けた残酷な仕打ちを忘れているようだった。

 それがどれほどの苦痛と絶望だったのか……――――


 それを忘れているのならそれで良い。


「姉さんは……私の事覚えてる……?」

「勿論覚えているわ。私の妹のアギエラよね?」


 母上がアギエラを腹違いの妹だと理解していた。

 アギエラは母上が自分のことを覚えているということを知り、その場で号泣していた。

 アギエラがどれほどこの瞬間を待ち望んでいたのかが伺える。


 もしかしたら、この都合のいい記憶は蓮花がそう采配したのかもしれない。

 母上が生き返ったとしても、私たちの事を一切分からず人間への憎しみしか残っていなかったらもっと話がややこしくなっていたところだ。


 母上はサティアに私とゴルゴタのことを説明した。


「メギドとゴルゴタは、貴女の弟たちなのよ」

「お兄ちゃんじゃないの!?」


 サティアはその言葉に物凄く驚いていた。

 何度も私とゴルゴタの顔や身体を見て、不思議そうな顔をしている。


 当然だ。


 私とゴルゴタはサティアと全く似ていない。

 私は鬼族と混血で、ゴルゴタは龍族との混血。

 サティアは天使との混血であり、見た目が似ているわけがない。


 イドールはその言葉にサティア以上に驚きを露わにした。


「え!? 僕の他にも夫がいるの!?」


 母上はイドールの言葉に苦笑いを浮かべた。


「夫じゃないわ。もうあの二人にはずっと会ってないし……まだ生きてるの?」


 母上は父たちのことを夫だとは認識していないようだった。

 この場で母上と父たちが夫婦だったという話になれば、さらに混乱が深まるだけだ。

 サティアを失った悲しみを埋めるための存在として、昔馴染みと子供を作ったなどとは言いづらいだろう。


「なんとか生きているようだ。アガルタも生きていると聞いている」

「えええ!? アガルタの子なの!?」


 ますます驚いて間抜けに驚いているイドールにゴルゴタは若干苛立っているようだったが、その苛立ちを見せることはなかった。


「てことはもしかして、君の方は蘭柳の子?」

「…………そうだ」

「確かにちょっと似てるかも」


 イドールは母上の別の男の子供である私たちに一切の嫌悪感を示すことなく、あっけらかんと話をしている。


 どうにも調子が狂う。

 やりづらい。

 嫌悪している白羽根であることも要因の一つだろう。


 なんとか話を逸らそうと私はゴルゴタの方に話が行くように仕向けようとした。


「ゴルゴタはアガルタに似ているか?」

「そうだね、面影はかなりあると思う」

「そうね、鱗の色とか艶が似ているわよね」


 私が話を逸らすとゴルゴタは「余計な事言うな」と軽く私を小突こうとした。

 私はゴルゴタの一撃を華麗に避けた。


 それを見た母上は優しい声で言った。


「メギドとゴルゴタの仲が良くて良かった」


 私たちはその言葉に気まずくて、互いに視線を逸らした。

 私たちは仲が良いわけじゃない。

 しかし、母上の前では仲が悪い素振りをしたくなかった。

 母上に心配させたくない。


 センジュはこの場の空気を察したのか「お食事をご用意いたします」と言って、席を外した。

 ゴルゴタもこの場の空気に耐え切れなかったのだろう。


「俺様は用事がある」


 と、明らかな嘘をついて母上の部屋を出て行った。

 私には「逃げるな」と言ったくせにゴルゴタは逃げていったことに納得できない。


 イドールはそんなゴルゴタの背中を不思議そうに見ていた。

 そして私に話しかけてきた。


「そうかぁ……ってことは、僕の息子でもあるってことかな?」


 私は無意識だったが、白羽根のイドールに息子などと言われて殺気立った。

 しかし、その殺気にイドールは気づかずに呑気にヘラヘラしている。

 これには耐えられずに私は否定の言葉を口にした。


「悪いが、私の父は別にいる」


 私はイドールにそう言い放った。

 こんなことは言いたくなかったが、私の父が白羽根になるくらいなら蘭柳の息子である方がまだマシだ。


 イドールは私の言葉にも動じることなく、前向きに言った。


「そっかぁ……僕の方はいつでも“お父さん”って言われるの待ってるから!」


 前向きなイドールに私は悪寒がして背筋が凍った。

 イドールの言動は私の理解を遥かに超えていた。

 普通、異父の子など自分の息子などと思えないだろう。

 少なくとも私だったら思えないはずだ。


 私はこれ以上、イドールと話していられないと感じた。


 「食事の準備の手伝いをしてくる」


 そう言ってその場から逃げ出した。


 ――はぁ……


 部屋を出たとき、様々な複雑な感情が渦巻いていた。


 母上が目を覚ましたという何物にも代えがたい喜び。

 しかし同時にイドールという存在が入って来た事への苛立ち。

 そして、ゴルゴタと私が母上を心配させないために「仲が良い」という嘘をついているという事実への違和感。


 私はこの複雑な感情を整理することができず、ただひたすらに食堂へと向かっていた。




 ***




 私が食堂の方に向かって行くと、途中で蓮花に会った。

 恐らく席を外した後にこの辺りで私を待っていたのだろう。

 蓮花は私を見て、いつも通りの冷たい声で話しかけてきた。


「今まで見たことないほど、顔が緩くなってますよ」


 サティアに話しかけていたあの優しい回復魔法士の面影は全く残っていなかった。

 いつもの無機質で冷徹な蓮花だ。

 こちらが本性であることに安堵するほどの変わりようで、私は呆れる。


 蓮花にそう言われて、私は険しい表情で蓮花に反論しようとした。

 だが、母上やサティア、イドールが生き返ったのは蓮花の功績だ。

 その事実に私は言葉を失った。


「……」


 蓮花を褒める言葉が素直に出てこない。

 なんと言えばいいのか「よくやった」「感謝している」「お前のお陰だ」そんな言葉が浮かんでは消えて行く。


「水を差すようで悪いですが、死神の件。さっさと解決したいのですが」


 蓮花は私を急かすように言った。

 その言葉に褒める言葉などすぐに言う気にならなくなった。


「今まで散々私を待たせていたくせに、私を急かすな。そもそも解決できるのか」

「まぁ……やるだけやってみようかなと。完全に封印して、異空間に放り出したいと思います」


 ――は……?


 またもや、私は蓮花が何を言っているのか理解が及ばなかった。


 完全に封印して、異空間に放り出す? そんなことが可能なのか?


 私は蓮花の言葉に再び戸惑いを覚えた。

 生意気な事に蓮花の言葉は常に私の想像の遥か上をいく。


 だが、その想像を絶する言葉の裏には、いつも蓮花の確固たる自信が潜んでいるのだった。




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