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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
最終章 裏ボス攻略をしてください。▼
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【メギド 魔王城】


 すべての騒動がひとまず収束し、私は目覚めない母上の様子を毎日確認しながら魔王城の立て直しを始めた。

 母上の顔は相変わらず穏やかで、まるで長い夢を見ているかのようだった。


 その顔を見ていると、いつか母上が目覚めたときに美しく再建された魔王城を見せてあげたいという気持ちが私の中に強く湧き上がった。


 既にセンジュは魔王城の修復を始めてかなり進めていた。

 私はセンジュの仕事を邪魔しないように、修繕が終わった部分の美化の提案をする程度に過ぎない。

 以前よりも更に美しい魔王城にしたい。


 センジュは魔王城の再建を急ぐために、魔機械族に依頼を出していた。

 魔機械族らの助けもあり、城の修復は驚くほど順調に進んでいった。


 センジュがもう死神の身体を作り続けなければいいのなら、新たな魔機械族を作って魔王家に仕えさせたらセンジュの仕事も減るのではないか。

 ゴルゴタが大暴れしたせいで魔王家に仕えていた魔族らは誰もいなくなっている状態だ。


 メルは魔王城専属画家として、サティアと共に絵を描いて過ごしている。

 無邪気なサティアと純粋なメル。


 2人が笑い合う声は静かだった魔王城に、ようやく活気と温かさをもたらしてくれた。

 センジュがサティアの笑顔を見ているとき、本人は気づいていないがこれまでにない程穏やかな笑顔をしている。

 やはり、センジュにとってサティアはかけがえのない存在だったのだろう。


 タカシはついた筋肉や剣の腕が落ちるのを嫌がって、毎日鍛錬に励んでいた。

 タカシはいつかまた、誰かを守るために剣を振るう日が来ると信じているのだろうか。

 タカシしか扱えない勇者の剣は、タカシの部屋のベッドの横に置きっぱなしになっているようだ。

 あんな物騒で忌むべき剣を魔王城に置いておくのは反対だが、あれをどこか遠くに捨てるという選択もできなかった。


 センジュは魔機械族に修復の指示を出しつつ、荒れ放題の庭の薔薇の再生を図っていた。

 長らく手入れをしていない薔薇の花は花が枯れた状態でも放置されているのもあるし、魔法で争ったせいで散々な状態になっていた。


「せっかくの薔薇が台無しになったな」


 私は以前の完璧な庭を思い出し、不満げに言った。

 しかし、センジュはそんな私の言葉に動じることなく静かに言う。


「また挿し木にして一から育てていきましょう」


 私も母上も庭の薔薇の花が好きだった。

 薔薇の甘い香りがすると心が穏やかになる。

 そんな城を復活させたい。


 植物に私が魔力を注げばすぐに育つだろうが、センジュはゆっくりと自然に任せて育てたいとのことだった。


 私は魔王城の再建と同時に、残された問題の解決にも取り組んでいた。


 私は時間を作って魔族の楽園にいるミューリンと琉鬼に会いに行った。


 琉鬼はこの世界の母親と一緒に、これからは一生懸命生きていくと言っていた。

 琉鬼の表情は、以前の引きこもりだった頃とはまるで違う生き生きとしたものだった。


「いつでも我を呼んでください! あ……いつでもっていうのは建前というか、状況は見て欲しいです」


 と、口ごもりながら言う琉鬼に、私は水を強めにぶつけて鼓舞して追い出した。

 それでも琉鬼は


「あの顔に刺青の可憐な君によろしく」


 などと言っていたので、更に強く水をぶつけた。


 ふざけているようだが琉鬼の言葉の裏には、人間たちの町の復興に貢献したいという立派な考えが秘められていた。

 琉鬼はタカシたちとの出会いを経て、大きく成長していたようだ。


 ミューリンの娘のミザルデはもうかなり成長していた。

 以前は言葉を理解できていないようだったが、もうしっかりと言葉が分かるようになっていた。


 ミザルデは最後にみたときから変わらず『嫉妬の籠』に入ったままになっている。

 私はミューリンにどうするつもりなのか尋ねた。

 ミューリンは不安そうな顔で言葉に詰まる。


「怖くて聞けないんです」


 私は魔道具を作ったセンジュの元を訪ねて直接尋ねた。


「『嫉妬の籠』を何も差し出さずに開けられないのか」

「籠を清めれば、嫉妬心を失うという作りになっております」


 私はその言葉の意味が分からなかった。

 ミューリンもどういう意味なのか分かっていない様子。


 ――どういうことだ?


 センジュはミューリンとミザルデを交互に見てさらに言葉を続けた。


「無償の愛を注がれ続けていたことで、『嫉妬の籠』はもう十分に嫉妬心を失ったということです」


 私とミューリンはその言葉に驚きを隠せないでいた。


 そんなことが可能なのか? 


 と疑問に思いながら私はミューリンにやってみるように言う。


 ミューリンが恐る恐る籠の扉を開こうとした。


 するとビクともしないと思われた『嫉妬の籠』の扉がすんなり開き、ミューリンは目を見開いて驚いていた。


「お母さん!」


 籠から出たミザルデは母親であるミューリンに抱きついた。

 驚くべきことに『嫉妬の籠』は愛の力に満たされて、そのまま昇天するように消滅していった。


 ミューリンたちは魔王城でタカシやメルと再会し、かなり安心しているようだった。


 しかし……問題はまだ残っている。


 行方不明になっているダチュラと、地下牢にいる佐藤の問題だ。

 私は地下の人間を次々と回復させているカノンに尋ねることにした。


 少しずつではあるが、地下牢の人間の解放が進んでいる。

 カノンは蓮花のように倫理観の欠落した方法はとらなかった。

 個人の人権を尊重した衣食住の提供のため、カノンも魔機械族に少し頼っていたがほぼカノンの力で解決しているようだった。


 とはいえ、心の傷を癒すことはまだまだできていない。

 やはり記憶を消すしかないのだろうか。

 そこも私はカノンに一任していた。

 蓮花にやらせるとろくでもない事を言い出しかねない。


「お前の兄が所属している『真紅のドレス』が、魔王家に仕えていたダチュラという悪魔族の女を連れ去ったと聞いた。それがどうなっているのかカナンに確認できるか?」


 カノンはその言葉に顔を曇らせた。


「……兄はまともに話せる状態ではないです」

「蓮花なら記憶を読むことができるが、お前はできそうか?」


 そう問うとカノンはかなり複雑そうな表情をした。


「できなくはないと思います。でも、兄の記憶を読むのが怖くて……」


 その気持ちも分からなくはない。

 だが、ダチュラと佐藤をこのまま放置しておくわけにはいかない。


 そんな話をしているときにアギエラがやってきた。


「そろそろ『真紅のドレス』の殲滅せんめつに行くわ……はらわたが煮えくり返って落ち着けないのよ……」

「ダチュラという女の悪魔を『真紅のドレス』が連れ去ったらしいのだが、その女の悪魔もついでに見つけてきてくれないか」


 私が頼むとアギエラは静かにうなずいて、翼を羽ばたかせてどこかへ消えて行った。

 これで、ダチュラの行方も分かるかもしれない。


 そして……最後の問題――――


 庭のど真ん中にある、漆黒の立方体……――――死神の処理をしなければならない。


 私はその立方体を睨みながら、今後のことを考えた。




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