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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
最終章 裏ボス攻略をしてください。▼
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叔母の話を聞きますか?▼




【魔王城 メギドの部屋】


 タカシの部屋にメルたちを案内した後、私は自身の部屋に戻り風呂に入ることにした。


 カノンは地下牢に行きたがったが、今夜はもう寝ろと指示を出した。

 納得していなさそうであったがここは私の城。

 私のいう事を聞かなければどうなるかくらいは弁えていたようだ。


 風呂に入ると、私は身体を隅々までゆっくりと洗い、そして湯船に浸かった。


 最近はあまりにも目まぐるしく、風呂にゆっくりと浸かる時間すらもなかった。

 時として風呂に入れない日すらあった。

 1日に2回は風呂に入りたい私にとって、それは苦痛そのものだったが目の前で起こる怒涛の展開に風呂のことなど気にしている余裕はなかったのだ。


 湯船に身体を沈めながら、私はぼんやりと考えた。


 ──母上が正式に生き返り、サティアの件が片付けば平穏な日々が訪れるだろうか……


 始めの母上の夫のイドールの件も蓮花がどうにかすると言っていたし、母上は愛する夫と娘、そして私たちと共に生活できるだろうか。


 ――いや……私たちは邪魔になるだけか……


 もう母上には魔王家のいざこざからは離れて平穏に暮らしてもらいたい。


 ――……そもそも、この件が片付いたら魔王の座は白羽根どもに譲る約束だったな……


 その約束を反故ほごにしてもいいが、別に私も魔王をしたくてしている訳ではない。

 生まれついての魔王家の血筋だった私は選択肢などなかった。

 母上も魔王になりたかった訳ではないらしいし、この際白羽根にその地位を譲って私たちはゆっくり暮らしていけばいいのではないか。


 答えはすぐには出ない。

 いや、出すべきではない。


 私は細かい問題の全てを頭から振り払い、ただただ風呂を心ゆくまで堪能した。




 ***




【魔王城】


 翌日の昼頃に私は目を覚ました。

 身体に残る疲労はまだ完全には抜けきっていないが、久々の熟睡のおかげで頭はすっきりと冴えていた。


 ――母上の様子を見に行こう


 私は早速自分の身だしなみを鏡を見ながら整え、颯爽と母上の部屋へと向かった。


 カチャリ……


 母上の部屋を見るとそこにはベッドに横たわる母上と、アギエラがいた。

 アギエラはじっと母上の方を見つめていた。

 私が扉を開けてもこちらを一瞥もしなかった。


 やはり母上は眠ったように動かない。

 呼吸はしているもののその表情は安らかでも苦痛に満ちているわけでもない。

 ただ静かに眠っているだけだった。


 私はアギエラが昨夜からずっとここにいるのではないかと思い、声をかけた。


「ずっと起きていたのか」


 アギエラは私の声にやっとゆっくりと振り返った。


「封印されているときから、ずっと起きていたわ。私……眠れないの……」


 返答に困る内容に、私は一先ず母上のベッドの隣りに腰掛けて母上の方を見た。

 アギエラは私が座っても特に反応を示さない。

 聞きたいことが山ほどあったが、気がかりだったことを聞くことにした。


「……封印された経緯を聞いてもいいか?」


 アギエラは私の問いに静かな殺気を放った。


「…………親しくもないのにそんな踏み込んだこと聞いてくるなんて……甥っ子じゃなかったら殺しているところよ」


 空気が一瞬で凍りついたような感覚を覚える。

 アギエラの殺気はただの脅しではない。

 それは幾度となく人間を食らってきた本物の殺意だった。

 アギエラは私を殺すことなくゆっくりと話し始めた。


「『血水晶のネックレス』で魔王家の血筋に者は縛れないから……私は縛られずに人間を殺し続けたわ……お父様にそう教育されていたのもあるし……ずっと私は姉さんと接触しないようにお父様に言われてたし……姉さんは私に事知らなかったから……姉さんが初めて私を見たとき…………」


 そこでアギエラは言葉を詰まらせ、顔を押さえて泣き始めた。

 肩を震わせ、静かに嗚咽を漏らすアギエラを見て私は言葉を失った。


「姉さんは……私の事をバケモノを見るみたいな目で見てきて……っ……!」


 相当つらい出来事だったのだろう。

 アギエラはしばらくの間泣き続けた。


 反応に困る。

 慰める事に関しては私は全くの苦手範囲だ。

 かといって「泣くな」などと上から物を言える相手ではない。

 私はほとほと困り果て沈黙したままアギエラを見ているしかできなかった。


 ようやく涙が収まってから、アギエラは再びぼそぼそと話し始めた。


「……私は必死に説明したわ……私は姉さんの腹違いの妹だってこと……お父様の腹違いの妹だから『血水晶のネックレス』の支配に及ばないってこと……姉さんはそれを信じてくれた…………だから……っ……だから、姉さんは……私を殺せなかった……だから……封印って形をとったのよ…………」


 涙を手で拭いながらアギエラは話し終えた。


 私はアギエラの封印を勘違いしていたのかもしれない。

 アギエラの封印は閉じ込める役割と同時に、アギエラを守る役割も担っていたのだ。


「……封印はおま……叔母を閉じ込める役割と同時に守る役割もあったのだな」


 私は「お前」と言いかけたが、かろうじて「叔母」と言い直した。

 立場上もあるし、アギエラの言葉を聞いた後では軽々しく「お前」などとは呼べなかった。


「姉さんがあんな形で生き返ったのは本当に許せないけど……姉さんは真っ先に私のところにきてくれた……姉さんは不完全な状態だったけど……でも……私を開放しに来てくれた……どんなに変わり果てた姿でも、姉さんは姉さんだと私は思ってるわ……」


 アギエラの言葉を聞いて私は妙に納得したような気がした。

 母上が「不完全な状態」でアギエラの元へ向かったのは、母上のほんの少しの意志があったのではないか。


 母上はやはりどこかで記憶が残っているのだと、私は希望を持った。

 元の遺体の状態は良くなかったが、身体の欠損はなかった。

 特に脳の部位はそのまま残っていたはずだ。


 蓮花の腕なら……と、考えていたところに、部屋を叩く音が聞こえた。


 コンコンコン……


「入れ」


 私の部屋ではないが、私がそう返事をするとセンジュが頭を下げながら入室してきた。


「メギドお坊ちゃま、アギエラ様、失礼いたします」


 現れたのはセンジュ……――――と蓮花、そしてゴルゴタであった。


「サティア様の件、これから対応します。立ち会っていただけますか」


 蓮花のその言葉に、アギエラは静かに蓮花の方へと視線を向けた。


「人間は好かないけど……貴女は同族の匂いがするわ……」

「感が鋭いですね。私は大量猟奇殺人鬼です」

「気が合いそう……ふふふ……」

「それはどうも」


 なんとなく、私は蓮花とアギエラの間の摩擦間を感じた。

 明確に敵対している訳ではないが、どことなく牽制し合っているような空気だった。


「ご家族全員の目のあるところで失敗はできませんね。失敗したら殺されそうですし」

「侮らないでちょうだい……そんなことしないわ……」

「ならいいですけど」


 このどことなく居心地の悪い空気をゴルゴタは全く気付いていない様子で欠伸あくびをしていた。




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