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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第4章 裏ストーリーをクリアしてください。▼
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人喰いアギエラが復活しました。▼




【メギド ファイの町】


 人喰いアギエラの封印が解け、その姿が目の前に現れた。


 尋常ではなく長い黒髪を地面に引きずりながら、ゆっくりと封印の場所から立ち上がってきた。

 私は言い伝えでしか聞いたことのなかったその存在を、肉眼で確認するのはこれが初めてであった。


 アギエラの容姿は言い伝えとは大きく異なっていた。

 純血の鬼族だとばかり思っていたが、彼女の背中には私と同じ悪魔の翼、細い身体から伸びる悪魔の尾があった。


 頭部には鬼族の特徴である角がいくつか生えていた。

 長い間封印されていたせいで、その黒髪は地面を這うほど長くなっていた。


「…………」


 緊張感が走る。

 人間を大量殺戮したアギエラがこの混沌とした状況でどう動くのか全員が凝視していた。


 アギエラは周囲を一瞥し、そして変わり果てたクロザリルを見て……――――


 ツーッ……と一筋涙を流した。


 その琥珀色の瞳から流れる涙は血涙のように見えた。


 ――何故涙を流す……?


 なぜアギエラが泣いているのか、この場の誰も分からなかった。


 私は恐る恐るアギエラに尋ねた。


「アギエラ、人間を滅ぼすつもりか?」


 これ以外の質問が思い浮かばなかった。

 人間を滅ぼす気があるのかどうか、その質問にそうだと答えた場合はこの場でアザレアらと対峙することになるだろう。


 返事を待っているとアギエラは涙を拭いながら冷たい声で返事をした。


()()()をこんなふうにした『真紅のドレス』は全員殺すわ……」


 ――姉さん……?


 変わり果てた母上を見上げながら“姉さん”と呼ぶアギエラの言葉に大きく混乱する。

 様々な可能性が頭の中によぎるが、どれも私の推測の域を出ない。

 私は疑問を解くために率直にアギエラに尋ねた。


「姉さんとはどういうことだ」


 私が問いかけるとアギエラは哀れむかのような目で私を見た。


「何も聞いてないのね……」


 その後、アギエラは信じられない事を言った。


「私はクロザリル姉さんの父親の()()()()()なの」

「何!?」


 その真実を聞いて衝撃が走った。

 ゴルゴタはあまりの動揺に私たちが兄弟だということを隠していることを失念し、母上のことを普通に話していた。


「お袋の妹!?」


 ゴルゴタの叫びにアギエラは呆れたような表情を浮かべた。


「あぁ、私を復活させて人間を皆殺しにしようとしてた貴方ね……今でも人間を皆殺しにしたいの?」


 その質問にゴルゴタは呆然として黙ってしまった。

 ゴルゴタの頭の中では、人喰いアギエラを復活させて人間を滅ぼそうとした過去の自分と、今の自分の考えとのギャップがあるのだろう。

 すぐに返事をすることができずに黙している。


 聞き伝えの人喰いアギエラと随分印象が違う上に、母上の腹違いの妹であることに驚きが隠せない。


「祖父のアッシュは強い純血主義だったと母上から聞いている。話が違うぞ」


 私がそう言うと、アギエラは急に自分の頭を抱えて「あああああああ!!」と叫び声をあげた。


 その鬼気迫る様子に私たちは警戒態勢をとった。

 何をしでかすか全く分からないアギエラが明確な敵なのかどうか、測りかねている状態だ。


「そうよ、だから私は姉さんを陰から見ているしかできなかった! 純血主義なんて建前……私はただ人間を蹂躙じゅうりんする術しか教わらなかった!」


 アギエラの叫び声には深い悲しみと怒りが込められていた。

 なにやら複雑な生い立ちがあるらしい。

 それに興味はあるが、この状況で詳しく聞く間がなかった。


「『真紅のドレス』っていう連中がこのあたりをウロウロしてて……私に話しかけてきたの。私がクロザリル姉さんの血族だってどうやって分かったのかしら。気持ち悪いわ……魔王信仰の連中は許されない一線を越えた。姉さんをこんな状態で蘇生した……! 許せないわ……皆殺しにする……」


 アギエラはフラフラと長い髪を引きずりながら、どこかへ消えようとしていた。

 その目は殺意に満たされている。


 私は漠然とアギエラを止めなければならないと感じた。

 野放しになったアギエラが何をしでかすか分からない。

 可能であれば近場に置いておくのがいい。


 本当に母上の妹であるなら、聞きたいことも沢山ある。


「待て! 母上を元に戻したいんだ。何か方法を知らないか? それに他の『真紅のドレス』の連中の場所は分かるのか?」


 アギエラはゆっくりと私の方を見た。

 じっくりとアギエラが私の隅々まで見つめる。


「私にとって貴方達は甥っ子って事になるのかしら……姉さんにそっくり」


 私はその言葉でアギエラが封印されていた理由についてやっと理解が追い付いた。

 魔族なら『血水晶のネックレス』で魔王家の者が縛ることができる。

 しかし、魔王家の血筋の者には効力を発揮しない。

 だから人喰いアギエラはわざわざ封印されていたのだろう。


「時代の流れは速いわね……私が知らないうちにこんなことになってるのだから」


 アギエラはそう呟くと、再び『真紅のドレス』への殺意を露わにした。


「他の『真紅のドレス』の奴らの場所は知ってるわ……だってあいつらが私の前でベラベラ喋ってたから」


 アギエラにとっては母上の現状をどうにかするということよりも『真紅のドレス』の殲滅の方が優先順位が高いようだった。

 私は『真紅のドレス』がアギエラの前で色々話していたなら、少しでも情報が欲しい。


「なんでもいい、母上を治す為の情報はないのか」


 アギエラは私の問いに答えることなく、カナンの方をじっと見つめた。


「…………」


 アギエラは、木にもたれかかって訳の分からない笑いをして完全に気が狂っているカナンの方を見ている。


「そいつが結構知ってたみたいだけど、壊れてるわね」


 アギエラの言葉に蓮花が冷静に答えた。


「壊れていても問題ありません。記憶を読み取ることは出来ますし、最悪“ダイブ”もできますよ」


 蓮花が言っていた“ダイブ”……互いの意識を意図的に繋げる方法だったか。

 こんなイカレたヤツの意識と繋がるなど冗談ではない。


「とりあえず、なんとか止まってるお袋の身体の状態を調べろ」


 ゴルゴタは蓮花に母上の身体の状態を調べるように指示した。


「分かりました。私だけでは手が足りないのでライリーとエレモフィラさんもいいですか」

「これは手間がかかりそうだな」


 ライリーは巨大な母上の身体を見上げて難色を示した。


「私は怪我をしている方の回復をします」


 エレモフィラは全身血まみれのセンジュを見てそう進言した。


「もう少し付き合ってもらうぞ、『真紅のドレス』を皆殺しにされては情報が聞き出せなくなるからな」

「……一刻も早く皆殺しにしたいのに……甥っ子を邪険にもできないわね」


 蓮花とライリーとエレモフィラは母上の状態を調べ始め、私はアギエラを引き留めて話を聞くことにした。




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