完全に絶望した。▼
【メギド ファイの町】
完全にキレたライリーはカナンの身体を魔法で攻撃した。
感情任せの滅茶苦茶な攻撃だった。
ライリーの放った炎の魔法がカナンの身体を焼くが、カナンは死なない。
もう死んだ方が楽になるレベルで苦痛を感じているであろうカナンは、勝ち誇ったように高らかに叫んだ。
「どうです!? 俺は死なない身体を手に入れたんですよ! これでも貴方は俺を殺せるんですか!?」
カナンは嘲笑うかのように私たちに問いかけた。
その姿はあまりにも悍ましく、そして哀れだった。
私はただ嫌悪感に顔を歪ませるしかなかった。
この狂気的な男にこれ以上関わりたくないという気持ちでいっぱいだった。
そんなカナンを蓮花は心底見下した目で見ていた。
蓮花の冷たい瞳はゴミを見るかのようだった。
そこには慈悲も同情も一切なかった。
「それはちょうどいいですね」
蓮花はそう言ってカナンを賞賛した。
「そうでしょう!? 貴女もせっかく不死の身体を得たのに!! 馬鹿な事をしましたね!!?」
カナンはそれを自分の狂信的な信仰が認められたのだと勘違いし、得意げな表情を浮かべ尚も叫んでいる。
しかし、その得意げな表情は次の瞬間、絶望へと変わる。
「自分の能力じゃないのに、随分得意げになれるんですね」
蓮花はカナンの身体に歪に取り込まれているゴルゴタの細胞を、魔法によって一瞬で全て切除した。
その手際は正確で一切の迷いもなかった。
蓮花の魔力はカナンの肉体を構成する細胞の一つ一つを認識し、異質なものだけを切り離した。
「む、無駄ですよ!! 『死神の咎』はもう既に俺の体内に……――――」
カナンは虚勢を張って叫んだ。
だが、その言葉は蓮花によって簡単に覆された。
蓮花はカナンの身体に魔法を展開すると、カナンはあまりの苦痛に絶叫した。
「ぎゃぁあああああああああああああああっ!!!!」
そして、カナンの身体から『死神の咎』が完全に分離した。
銀色の水銀のようなものが少々、蓮花の手に握られていてる。
一握りもない程度の量の『死神の咎』だ。
カナンはそれを見て唖然としていた。
「……は……?」
「コレは馬鹿には不相応の代物です。自分の力でもないのに勝ち誇ったようにして、頭悪すぎますよ」
蓮花は無機質な声でそう告げた。
その瞬間、カナンの身体から力が抜けていくのがわかった。
カナンの傷は塞がらなくなり、その顔は絶望の色一色になる。
ヤツは初めて自らの命が危険に晒されていることを理解したのだ。
ライリーはそんなカナンを見て怒りに震えていた。
顔が紅潮するほど怒り、拳がわなわなと振るえている。
「お前みたいなゴミが蓮花に弟子入りしたのに、蓮花の実力も知らなかったのか?」
蓮花はゴルゴタの『死神の咎』を剥がせるとかねがね言っていた。
試したことはなかっただろうが、カナンを実験台として使い、実現できることを証明した。
ライリーは怒りに任せて何度もカナンを殴りつけた。
ライリーの拳にはカナンへの憎しみがただ込められていた。
殴る事以外に様々な苦痛を与える方法がある。
それを考える余裕もないほどライリーは怒っていた。
――蓮花の力量を軽視されたことはそんなに憤る程の事なのか?
「な、なぁ……こんなことしてていいのか……?」
タカシは不安そうに私におずおずと聞いてくる。
止めに入りたいようだったが、ライリーがあまりに鬼気迫る表情でカナンを殴っている為に口を出せないようだった。
「放っておけ。当然の末路だ」
私がタカシにそう言っている間に、蓮花は激高しているライリーを静止した。
「死なない程度にして」
無機質なその声はライリーの行動を止め、新たな恐怖をカナンに与えた。
カナンは「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝るが、もう既に遅い。
カナンの謝罪は誰にも届かなかった。
私はカナンに近づき、冷たい声で言った。
「お前たちが殺さなくとも、そいつは私が殺す」
蓮花はそんな私の言葉に無感情な目で答えた。
「できるだけ苦しむ殺し方にしてください」
普段ならそんな残酷な注文は受け付けない。
しかし、この時の私は蓮花の意見に同調した。
カナンがこれまで犯してきた罪を考えると、安らかな死を与えるわけにはいかなかった。
私は、カナンを水攻めをした後、身体を爆炎で焼き、また水攻めして息を奪うという工程を何度も繰り返した。
カナンはそのたびに絶叫し、その絶叫はやがて弱々しい呻き声へと変わっていった。
アザレアらが止めようとしたのをライリーが妨害し、私はこの拷問を成し遂げた。
「はぁっ……はっ……ぁ……はーっ……」
カナンはもう虫の息になった。
私はカナンがもう少しで死亡するところまで追い詰めた。
こんなに痛めつけても気持ちは晴れない。
余計に気分が悪くなるだけだった。
こんなことを嬉々としてする蓮花やゴルゴタの気持ちは私は分からなかった。
もう十分だと私は思ったが、蓮花はそれを許さなかった。
蓮花は周囲にいる『真紅のドレス』の死亡している人の肉を使い、カナンの身体の傷をほぼ完全に治した。
腕と脚は治していないので、カナンは動けない。
しかし、その身体は再び命を吹き込まれて回復していた。
カナンは死にかけていたところから回復されて、信じられないような目で蓮花を見た。
その表情は私からは見えなかったが、余程冷たい表情をしていたのだろう。
カナンはもう息が正常にできるようになっていたが、恐怖でヒュッ……と息が詰まっていた。
「やっぱり、貴方の言っていた通り“死”って救済ですよね? なんで私たちが貴方を救済してあげなければいけないんですか?」
「あぁああああ……ぁあああぁああああ……!!」
冷たくそう言う蓮花に、カナンは絶叫して拒否をする。
「…………」
カナンの瞳はもはや恐怖と絶望に満ちていた。
蓮花はカナンの死を許さない。
カナンの精神はもはや限界を超えて崩壊し、本当に狂ってしまったようだった。
そんなカナンを見て、蓮花は深いため息をついた。
周りに炎が揺らめき、熱風が吹き荒れる中その熱風を肺の中から吐き出している。
「これ以上人間に失望させないでください」
蓮花はそう呟いた。
蓮花の言葉には人間に対する深い絶望と、それに伴う虚無感が込められていた。
これ以上人間に失望したら、蓮花がまた人間を滅ぼす等と言い出しかねない。
「なぁ……もうそこまで来てるんじゃないか!?」
タカシは焦ったように言う。
私たちがそうこうしている間についに地響きが最大になり、巨大な異形になった母上の姿が目の前に現れた。
センジュとゴルゴタが母上の身体をなんとか止めようとしていたが、それも殆ど意味を成さずにここまで来てしまった。
その母上の姿は、言葉を失うほどの絶望的な姿だった。




