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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第4章 裏ストーリーをクリアしてください。▼
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解析してください。▼




【メギド 魔王城 屋根の上】


 私は目の前で繰り広げられる絶望的な光景に、思考が完全に停止していた。

 母上の変わり果てた姿は私の心を深くえぐり、怒り、悲しみ、そして恐怖が入り混じった複雑な感情が渦巻く。


 しかし、いつまでも呆然としているわけにはいかない。

 私はかろうじて理性を保ち、センジュに指示を出した。


「蓮花を連れてきてくれ」


 私の声はひどくかすれていた。


 センジュは何も言わずに静かに頷いた。

 センジュも私と同じくらいこの状況に動揺しているはずだが、その顔には一切の感情が表れていない。

 私の動揺を見て努めてそうしてくれていたのだろう。


「周囲の状況はどうなっている?」

「手あたり次第皆殺しだぜぇ……グッチャグチャになってやがる……」


 私はゴルゴタと話しながら、呆然と変わり果てた母上の様子を見ているしかできなかった。

 遠くからでもかろうじて分かる。

 あの巨大な肉の塊が周囲の建物を叩き潰し、悲鳴をあげて逃げ惑う人間たちを無差別に蹂躙していっていた。


「やべぇな……どうなっちまうんだ……コレ……?」

「私にも分からない……」


 私はゴルゴタの問いに答えることができなかった。


 しばらくして、センジュが蓮花を抱えて戻ってきた。

 この非常事態に蓮花はまだ眠そうに目を擦っている。


「蓮花、あれはどういう状態か分かるか」


 私は蓮花に尋ねる。


「なにやら大変な事になってるようですね」


 私は蓮花の視力でも遠くが見られるように水のレンズを蓮花に向けて調整した。

 蓮花はそれを確認した後に目を細めた。


「死の法が覆った弊害が早速出てますね」


 蓮花はまるで当たり前のことを言っているかのように冷静に言う。


「分かりやすく話せ」

「詳しく調べた訳ではないので分かりませんが、核が仮に戻っていたとしても、核を十分に活かせるような知性が欠落したままの状態になっているのではないでしょうか」


 何を言っているのか漠然としか分からない。

 しかし、蓮花はそんな私を無視して自分の好きなように話を続ける。


「亡くなってすぐならアザレアさんたちみたいに比較的成功しやすいでしょうけど、死後70年経った遺体を無理やり生き返らせようとして……」


 若干言いづらそうにしていたが、それでも蓮花ははっきり言った。


「簡単に言うと失敗したんだと思います」


 蓮花の言葉に私はやはり母上の復活は難しかったのだと痛感した。

 蓮花はそれが分かっていたが、『真紅のドレス』はそれを理解していなかった。


 ヤツらは自分たちの信仰心と力があれば、死者すら蘇らせることができると信じていたのだろう。

 だからこそ、中途半端に生き返ってあぁなってしまったのだ。


 私はそんな母上の姿を見て胸が張り裂けそうだった。


「あれを止める方法は?」


 私は最後の希望を託すように尋ねた。

 蓮花なら様々な方法を知っている。

 母上をなんとかする方法も知っているのではないかと一縷いちるの望みで問う。


「普通に殺せば止まりますよ」


 蓮花は冷酷に淡々と答えた。

 あまりに配慮に欠いたその言葉に、私は怒りがこみ上げてきた。


「殺す以外の方法に決まっているだろう」


 自分の肉親を手にかけたくないという気持ちでいっぱいだ。

 生き返って欲しいと思っていた母上が、こんな形であれ生き返ったのだ。

 なんとか意思の疎通ができないものかと私は期待を抱く。


 しかし、蓮花は私の期待を簡単に打ち砕いた。


「脳の部分が再現されていないからあんなに暴れているんでしょうから……脳の一部分の機能を停止させるか、あるいは神経系統……ですが、神経系統はあの状態ではどうなっているか分かりませんね」


 蓮花は比較的冷静に状況を確認している。


 しかし、どちらにしても正気に戻す方法は考えていないようだった。


「あれを正気に戻すことはできないのか」


 私の問いに蓮花は冷たく答える。


「物理的にないものはないでしょうし、詳しく調べられませんから望みはかなり薄いかと。それに巨大化してるので元々の細胞がどこにあるかもわかりません。上半身は出ていますが……あれが本体かどうかは怪しいところですね」


 ゴルゴタは蓮花の言葉に返事をした。


「どうにかならねぇのか、テメェは三神を下した実力があるだろ?」

「うーん……カナンに聞いてみましょうか、どんな魔法式なのか分かれば糸口になるかもしれません」


 私たちは一度魔王城の屋根から蓮花の部屋に戻った。

 蓮花の部屋に窓から入り、廊下に続く扉を開いたところに蓮花はカナンを捨て置いた。


 しかし、その場所からカナンがいなくなっていた。


 私は驚きを隠せない。


「四肢がない状態でどこに行ったというのだ」

おぞましい執念ですね。這って移動しようと思えばできなくもないですが」


 私は気配探知の魔法でカナンの居場所を調べた。

 すると、何故かもう魔王城の外に向かっていた。


 それもひとりじゃない。


 数十名の気配がカナンと共に魔王城の外へ向かっていた。

 カナンは四肢がないのだから走れるはずがないのに、カナンは走っているようだった。


 ――また手足が再生している……?


 私はすぐさまカナンを追おうとしたが、蓮花に静かに止められた。


「どこにいくのか、何をするのか泳がせてみませんか。念願の前魔王クロザリルさんの復活の後、何をするのか」

「人様の不幸については随分冷静になれるものだな。私は今すぐ『真紅のドレス』の全員を皆殺しにしてやりたいところだ。目的くらい記憶を読み取ったときに分かっただろう」


 私の苦しみを理解せず、ただ冷静に状況を分析する蓮花に私は怒りを感じていた。


「記憶を読み取るの難しいんですよ。それに邪念が多すぎて必要な情報だけ読み取るの大変ですし」

「お前の言い訳など聞きたくない」


 憤っている私に対して、センジュも冷静に私に声をかけてきた。


「わたくしがゴルゴタお坊ちゃまと合流し、クロザリルお嬢様の状態を確認いたします。メギドお坊ちゃまはご無理をなさらず……」


 空間転移の負荷がまだ身体にかなり残っている。

 全く本調子ではないが、この状況で落ち着いて休憩をとることなどできない。


「こんな状況で休んでなどいられるか」

「間抜けな事に追跡魔法はまだかかっています。今すぐに追いかけたらすぐに気づかれてしまいますし、少し待つ間に休憩をとられては? 休憩が落ち着かないなら、その間にタカシさんたちに話をしてはどうですか。力になってくれるかもしれません」


 蓮花はそう言って私に選択肢を提示した。


 ――タカシやアザレアらの力を借りるという事は、母上を殺すという選択だ……


 しかし、すぐに私ができることなど何もない。

 すぐにでも母上の元へ行きたかったが、それも叶わない。


 私は蓮花の言葉に渋々納得した。


 今、感情的に動いても何も解決しない。


 私はタカシとアザレアらと話す為に、奴らのいるところへと向かった。




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