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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第4章 裏ストーリーをクリアしてください。▼
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蓮花の所業を聞きました。▼




【メギド 魔王城 蓮花の部屋】


 私は、これ以上空間転移の負荷に耐え切れないと判断した。

 身体の奥底から込み上げるような倦怠感と、頭を直接殴られたかのような頭痛に、私は険しい表情をしている。

 母の遺体の回収はゴルゴタに任せるしかない。


「遺体の回収はお前に任せる。空間転移はもう私には無理だ」


 私の言葉にゴルゴタは不満そうな顔をした。


「俺様に丸投げかよ……ま、俺様が行けば簡単なハナシだろうしなぁ……」

「気をつけてくださいね。『真紅のドレス』はゴルゴタ様やメギドさんの遺伝子情報も採集していたようですから、厄介なのが出てくるかもしれません」


 それは背筋の凍るゾッとする話だった。

 魔王信仰は本当に気持ちが悪いと感じる。


 カナンの記憶を読み取った蓮花は他の事も読み取って伝えてくる。


()()()()、メギドさんやゴルゴタ様の髪の毛や血液を集めていたようです」

「どこまで気持ち悪ぃんだよこのカス!」


 ゴルゴタはカナンの腹部を力の調整をして死なない程度に何度も蹴った。

 カナンはよもや無言で蹴られている状態に甘んじる。

 抵抗しようものなら更に苦痛を与えられると理解しているのだろう。


「行けるか?」

「早くしやがれ」


 ゴルゴタが急かすので、私はゴルゴタに空間転移魔法を展開した。

 ゴルゴタは一瞬で空間転移の魔法の中に消え、エータの町へ行った。


「ふわぁ……」

 

 ゴルゴタが消えた後、蓮花はまだ眠そうだったが床に転がっているカナンに最低限の回復魔法処置を施した。

 カナンの失われた両腕両足にほんの少しだけ表面の皮膚が再生し、止血もされる。


 痛みは残るだろうが、一先ずはこれで死ぬことはないだろう。

 処置が終わると蓮花はカナンの服を掴み、部屋の外に乱暴に放り出した。

 鈍い音を立てて廊下を転がるカナンは悲鳴もあげなかった。


 部屋が静まり返ると、蓮花はベッドに戻り座った。

 面倒臭そうに話し始める。


「とりあえず、天使族が一刻も早く帰りたがっていたのでセンジュさんとアザレアさんたちに協力してもらって結界を少し開けて帰ってもらいました。後で私が行って色々問題を解決しなければいけません。だから今休んでおきたかったんですけど、馬鹿が馬鹿な事をしたせいでまだ疲れが取れていないです」


 蓮花は私の方を見ずに、若干厭味っぽく言った。


「地下牢の人間たちの件はアザレアさんたちに丸投げしました。エレモフィラさんが中心に色々やっているようです。散々厭味を言われました。ライリーとは相変わらずギスギスしてますし、タカシさんの呑気さが救いで地獄の空気にはなっていません」


 蓮花は淡々と状況を説明した。

 それでもまだ説明するべきことは説明しきれていない。


「で、庭の死神はそのままになっているが」


 私は一番気がかりなことを尋ねた。

 死神が閉じ込められている漆黒の立方体が魔王城の敷地内にずっとある状態で、どうしたらいいかも分からない状態だ。

 封印された後はずっと沈黙をしており、一切喋らなくなった。

 あれだけベラベラと喋っていた死神が黙っているとかなり不気味だ。


「敵は近くに置けって言うじゃないですか、結構目障りですけど、監視下にある方が調整しやすくて楽です」

「最初から詳細を話せ。こちらは訳が分からないままだ」


 私の言葉に蓮花は諦めたようにため息をつき、蓮花は他人事のように淡々と語り始めた。


「うーん……聖域の中で天使族に特定の条件になったときにだけ思い出す記憶抑制魔法をかけたんですよ。聖域の中は特殊な空間で三神の介入すら避けるものでしたからそれを利用して、あとは見た通りです」


 相変わらず説明が雑だ。

 そんな説明では私はまだ納得していない。


「説明が雑過ぎる。報告連絡相談をしっかりしろ」

「天使族には、私が死神を抑えられたらイドールさんの件や天使族を死の花の件を解決するという条件を出しました。三神と戦うときに力を貸すように言って取引は成立です」


 蓮花は淡々と説明を続けた。

 黙って私は蓮花の怠そうな説明を聞く。


「アザレアらを生き返らせたことについては?」

「ノエルさんに異世界に行くための魔法式について聞いて、アザレアさんたちの核を一時的に異世界に送ったんですよ。異世界でギリギリ繋がっている状態と言うか……それで、死を偽装したんです。偽装というか肉体から核が離れてたから本当に死んでいたのかもしれませんが、死神の目を欺くにはそのくらいしなければいけませんでした」

「では死の法に抵触する可能性もあったということか」

「その部分は賭けでした。死神を封じられたら死の法を犯しても大丈夫になる方に賭けて結果的に問題なかったので、運が良かったです。タカシさんだけでは魔神と渡り合えるとは思ってませんでしたから、苦肉の策というやつです」


 蓮花はとてつもないリスクを冒してこの作戦を遂行したようだ。

 確実性を捨てて賭けに出るとは蓮花らしくはないが、9割は確信あっての行動だったろう。


「死神を誘き出して本体を閉じ込める必要がありました。だからゴルゴタ様に死神の身体を壊してもらいました。魔機械族の身体があるままだと対象の特徴指定が難しくて」

「ゴルゴタを死神の元にわざと差し向けたのか」

「これも、まぁそうなるだろうという程度に思っていただけですが」


 蓮花は髪の毛を鬱陶しそうに払いながら、説明を続ける。


「私だけの魔力では無理だったのでメギドさんの魔力を借りました。しかし、思考に干渉してくる死神を欺くためには自分の記憶を弄るしかなくて、条件付きで思い出すようにしました。記憶抑制状態で咄嗟に死神を封じる膨大な魔法式を組み込むことは出来なかったので、自分の足に魔法式を刻み込んでおきました。結果として脚が犠牲になりました」

「犠牲にしたところですぐに戻せると分かっていての事だろう。自己犠牲を美化して語るな」

「当然ですよ。回復魔法士の身体に欠損があったら腕を疑われますからね」

「もうただの特級咎人で回復魔法士ではないだろうが」


 蓮花の淡々とした言葉に、私はある程度を理解した。

 全てが死神を欺くための仕込みだったのだ。


 敵を欺くにはまず味方からということだろうが、独断が過ぎる。


「……って感じですよ。後はサティアさんの件とイドールさんの件と死の花の件……あ、そう言えばメギドさんの身体に死の花が残ってましたよね」


 蓮花は思い出したかのようにそう言った。

 そして、またもや私の許可を取らずに勝手に私の身体の死の花に魔法を展開した。


 その魔法にかなり身体の方に違和感があったが、私の身体の死の花は簡単に枯れた。

 死の花を身体から抜く瞬間、多少周りの肉が持っていかれて激痛を感じたが、蓮花はすぐに回復魔法でその傷を塞いだ。


 私の扱いまでもが雑過ぎる。


「これで実力100%のメギドさんになりましたね」


 蓮花は私から取り除いた死の花をテキトーにその辺に投げすてた。


「勝手に私に魔法を向けるな、許可を取れ。痛覚を遮断してからするなど方法はいくらでもあるだろう。いい加減にしろ」

「いいじゃないですか。“少し痛いですよ”、“我慢してください”、“大丈夫ですからね”なんて言われた方が不安にあるでしょう」


 それでも一言くらい何か言え。


「今回の作戦、独りで抱え込み過ぎじゃないのか。不確定要素が多すぎる」

「三神相手でしたからね、考えた時点で負けなんですよ。結果的に倒せて良かったじゃないですか。それに、メギドさん天使が嫌い過ぎて到底作戦に組み込めませんでした。チームワークとか無理そうだと思ったので」


 ぐうの音も出ない正論だった。

 烏合の衆の私たちが綿密な作戦を立てて結構できたかというと、それは無理だったのかもしれない。


「それはそうだが、結果論だろう。かなり危ない状況だったぞ」


 私の不満の言葉を聞いても右から左に聞き流しているようで、全く響いていない。


「アザレアさんとタカシさん、ノエルさんたちにゴルゴタ様とメギドさんセンジュさんもいましたし、あのタイミングが良かったと思いました。あの面々でいつまでもいたら内乱が起きていても不思議じゃなかったですから」


 確かに三竦さんすくみ状態であった。

 全く属性の違う私たちが共闘できたのは、強敵を目の前にしたからというだけに過ぎない。


「そうだな。それで、今はタカシとライリーらはどこで何をしているのか」

「アザレアさんたちは勇者連合会の解体や、この国の改革をしようとしているらしいです。残りの寿命でどうにかできるかは分かりませんが、彼らなら大丈夫でしょう」


 腐り切っている勇者連合会をアザレアらなら解体することもできるだろう。

 あの愚かな王政もアザレアらが表舞台に出たら瓦解する。

 伝説の勇者を無理やり保管していたなどと知れたら大問題になる。


 ――人間社会はこれから混乱に陥るだろう


 魔族も……これからどうやってまとめていったらいいか具体的な策はまだ考えていない。


「タカシさんは基本的に何もしていませんが、勇者の剣を使う者ですから何かはしようとしています。手伝いとかしてるみたいです。センジュさんは複雑な気持ちなんでしょうけど皆さんの生活サポートをしているようです」

「そうか」


 私は概ね状況は把握した。


 複雑な状況には変わりないが、母上の遺体の件が解決すればやっと一息つける状態になる。

 ゴルゴタが『真紅のドレス』を瓦解させればすぐに片付く話。


 ――私は少し身体を休めよう……


 と考えていたところ、『現身の水晶』でゴルゴタから通信が入った。


「オイ……俺様だ。返事しろ」

「なんだ? どうかしたのか?」

「なーんか……」


 言いづらそうに少し沈黙があった後、やっとゴルゴタは言った。


「やべぇことになってるぜぇ……」


 私はその報告に物凄く嫌な予感がした。




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