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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第4章 裏ストーリーをクリアしてください。▼
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おまえは わたしのかおに ドロをぬった。▼




【メギド 魔王城】


 私はゴルゴタとカナンと共に空間転移魔法を発動し、一瞬にして魔王城に帰還した。

 目の前がぐにゃりと歪み、胃の腑から何かがせり上がってくるような不快感に襲われる。


 私は短時間で2度も空間転移を繰り返したため、身体は悲鳴を上げていた。

 視界が血で赤くなる。

 耳や口からも血が出て、口の中に血の味がいっぱいに広がった。


 私はすぐさまポーションを取り出し、身体に射ち込む。

 血液にポーションが流れ、身体の負荷が瞬時に回復していく。

 しかし、完全には回復せずかなり身体の怠さが残ったし、心なしか音が遠くに聞こえるように感じる。


 満身創痍のカナンは当然空間転移の負荷に耐えきれず、目や耳、口からも血が流れ、過呼吸におちいっていた。

 そのままでは死亡すると判断した私は、自分の後にすぐさまカナンにポーションを射ち込んだ。


 カナンの寿命がポーションによってどれだけ減っても構わない。

 ポーションを使っても尚、カナンはうめき声をあげながらガクガクと身体が震えていた。


「運んでやるから人殺しに楽にしてもらえ」


 ゴルゴタは私を抱え、カナンを乱暴に掴んだまま軽々と蓮花の部屋へと飛んでいく。

 正面から入る訳ではなく、蓮花の部屋の窓にゴルゴタは爪を引っ掻け、窓を乱暴に叩いた。


 ゴンゴンゴン!


 と蓮花の部屋の窓を叩いて少し待つと、蓮花が眠そうな顔をしながらカーテンを開いてこちらを見てきた。

 恐らくまだ眠っていたのだろう。

 髪は乱れ、瞳はまだ夢の中にいるかのように虚ろだったが、窓を開けて私たちを部屋に入れた。


「もう帰って来たんですか……?」

「地図の情報が正確だったからなぁ……で、()()


 ゴルゴタはそう言って、私とカナンを蓮花の前に突き出した。

 カナンは無造作に床に放り投げられ、鈍い音を立てて転がった。

 私の方は多少雑に蓮花の前に置かれる。


 蓮花はカナンの方を見ても表情一つ変えなかった。

 首に手を当ててコキコキと首を動かしている。


 蓮花は眠そうな目を擦りながら、まず私に複数の魔法を展開した。


 その魔法は私の身体を包み込み、数秒すると身体の怠さが多少マシになった。

 喉の奥からせり上がってくる血の味もしなくなったし、音もはっきり聞こえるようになった。

 視界が赤いのも治り、はっきり見えるようになった。


 片手間で回復魔法を使う蓮花に私は少しばかり腹が立ったが、多少楽になったので文句は言わないでおいてやった。


「ポーションは万能じゃないですし、使い過ぎに気を付けてください。確実に寿命が縮んでますよ」

「言われずとも分かっている」


 私は不機嫌な声で答えた。

 蓮花は欠伸あくびをしながら髪の毛をガリガリと掻く。


「やっぱコイツが死体持ってったンだけどさぁ……口を割らねぇって叫び散らすから面倒になって連れてきたってワケ」


 ゴルゴタは簡潔に状況を説明した。


「でしょうね……両腕両足がなくなってますし」


 カナンはぶつぶつ何か言っていて、完全に正気を失っているようだった。


 ゴルゴタにかなりの苦痛を与えられ、自分の信じているものを叫んだりしていたしこうなっても仕方ない。

 もう話を聞くことは出来ず、蓮花の魔法によってでしか遺体の場所を聞き出すことはできないのか……――――


 と、考えていたところ、蓮花が自分の髪の毛の毛先を弄りながら言った。


「……まぁ、魔王城で四方八方を騙していた事は認めますけど、私の前で“狂ったフリ”は愚策ですね」


 蓮花の言葉にカナンはビクリと身体を震わせたように見えた。

 カナンの瞳に一瞬だけ恐怖の色が宿る。


 蓮花は指先一本をカナンの皮膚に触れ、魔法を発動させた。

 すると、カナンは急に絶叫した。


「ギャアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」


 その悲鳴は魔王城全体に響き渡るかのような、凄まじいものだった。


 蓮花が魔法をとくと、カナンは蓮花が触れた部分を凝視して確認していた。

 触れた部分に傷一つついていないことを確認すると、カナンは安堵と混乱が入り混じった表情をしていた。


「大丈夫ですよ。痛覚だけ刺激しただけで外傷はありませんから、まだまだできます」


 蓮花は努めて優しく微笑んだ。

 カナンはその言葉を聞いて完全に真っ青になっていた。


「話すのが嫌でも構わないですよ。記憶は覗けますし、本当に狂っても一向に構いません。前魔王の遺体を持ち去る異常者なんてどうなっても構わないです」


 また蓮花はカナンの皮膚にそっと指一本触れた。


「ヒイィッ……!」


 カナンは再び悲鳴を上げ、少しでも蓮花から離れようと暴れるが蓮花からは逃げられない。


「貴方が余計な事をしたせいで、私は寝不足のままこうして働かないといけないんです」


 蓮花は努めて笑顔を作っているが、静かに怒っていた。

 普段無表情なくせに、こんなときばかり笑顔を作っていて不気味過ぎる。


 そして蓮花は引き続き、容赦なくカナンに苦痛を与え続けた。


 何度も悲鳴を上げるカナン。

 苦痛を与えては少し時間を空け、また苦痛を与え続ける蓮花。

 穏やかな表情をしているが蓮花は相当怒っているようだった。


「は、は……は、話しま……す……か、かかか……から……」


 ついに、カナンは言葉もまともに話せなくなった。

 それでも苦痛から逃れる為に蓮花に助けを乞うた。


「感じているのは幻肢痛ですからいくらでも与えられます。遠慮しないでください。それともこっちのほうがいいですか?」


 蓮花はそう言いつつ、いつも持ち歩いている切れ味の鈍いナイフをカナンの傷口に突き立ててゆっくりゆっくりえぐっていく。


「あああああああああっ!!!」


 カナンは痛みのあまり何度も気絶しては、痛みで起きるということを繰り返した。

 それでも蓮花は全く容赦しない。


「幻肢痛とどっちが痛いですか?」


 蓮花は拷問を楽しむかのように尋ねた。

 もう目的が分からなくなっている拷問はしばらく続いた。


 カナンは話すと言っているのに、蓮花は相当苛立っているのかカナンに対して拷問を辞めない。


「こ……ここ……ころ、殺し……て……」


 ついにカナンは殺してほしいと懇願した。

 蓮花はそんなカナンに冷たく言い放つ。


「回復魔法士の私の()()が死んだなんて私の腕を疑われるじゃないですか? 私の顔に泥を塗るつもりですか?」


 ゴルゴタは、この状況を楽しんでいる様子で何も口を挟まなかった。

 むしろ、蓮花のベッドの隣りのテーブルに置いてあったクッキーを食べながら、余興を見ているかのように楽しんでいる。

 時々「もっとやってやれ」等とヤジを飛ばしていた。


 私は、本来この場で止めるべきだった。

 しかし、母上の遺体を愚弄された苛立ちが、カナンの苦痛の表情や叫び声で少しスッとする気持ちがあったので、私も蓮花の暴挙を止めなかった。


 カナンは私やゴルゴタにすがるように見つめてきたが、私たちがカナンを助けることはなかった。


「で……なんでしたっけ、結局遺体はどこにあるんですか」


 蓮花のその言葉にカナンは本当に狂ったように、嬉々として喋り出した。

 カナンは、この質問が拷問から解放される唯一の好機だと悟ったのだろう。


「え……エータの……ままま、ま……町のき……教会の、の、の……地下に……」


 蓮花はカナンの言葉を聞くと、カナンの頭を中心に魔法式を展開して記憶を読み取ったようだった。

 数秒後、再び紙に地図を焼き付けて転写した。

 そして、その用紙をゴルゴタに手渡す。


 やっとこれで解放されたと思っているカナンに対して、蓮花は冷たく言った。


()()、しばらく生かしておいてもいいですか? まだ気が済まないんですけど」

「!!!」


 その言葉を聞いてカナンは目をこぼれんばかりに見開いて恐怖を感じていた。


「好きにしろ」


 ゴルゴタはそう言ってクッキーをもう一枚口に放り込んだ。

 カナンはゴルゴタの言葉を聞いて、絶望に満ちた表情を浮かべた。


「誰を敵に回したか分かっていないようですね。私は大量猟奇殺人鬼ですよ」


 蓮花は自分の髪の毛に隠れがちな顔のタトゥーをカナンに見せつけた。


 蓮花の顔のタトゥーの数字の後の黒い星のマーク……


 それは「更生の余地なし」の証だった。




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