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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第4章 裏ストーリーをクリアしてください。▼

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容疑者5:カナン。▼




【メギド 魔王城】


 私はカナンが魔王城の敷地内にいないという事実に緊張が走った。

 嫌な予感が確信に変わった瞬間だった。


 この魔王城からかなり離れた場所である可能性が高い。

 私の魔力探知では、魔王城の周辺までしか届かないからだ。


 ――あの無能な男が我々をあざむき母の遺体を持ち出したというのか?


 私が考え込んでいると、蓮花が細々と食事を続けながら言った。


「こんなこともあろうかと、カナンがどうしても信用できなかったので追跡魔法をかけておいたんですよ」


 その言葉を聞いたゴルゴタは満足そうに笑う。


「キヒヒヒヒ……流石蓮花ちゃん、そうこなきゃなぁ……」


 ゴルゴタは再び蓮花の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。

 ゴルゴタが乱暴に撫でるせいで蓮花の髪の毛はめちゃくちゃになっているが、蓮花はそれを整えようとしない。


 蓮花はずっと怠そうだが追跡魔法を発動した。

 蓮花の手元から細い光が魔王城から北西の方角を示している。


「えーと……カナンは悪魔族の住む近くのエータの町の付近にいるようです」

「正確な場所は分かるのか?」

「分かりますよ。紙取ってもらえますか」


 私は蓮花の部屋に散らばっている無数の紙のうち、数枚をとって蓮花に手渡す。

 蓮花が魔法を展開して紙に一瞬で地図を焼き入れ、そこにペンでバツ印をつけた。


「この辺りですね」


 蓮花から紙を受け取り、私は場所を確認した。

 確かにエータの町の近くだ。

 悪魔族が住んでいる場所の目と鼻の先というところだ。


「すぐに追う」

「俺様も行くぜ」


 ゴルゴタ蓮花が起きたことで自由になった。

 ゴルゴタは母上の遺体の件よりも、久々の戦いに飢えたような獰猛な笑みが見える。


「蓮花の指示通り、カナンの身体には遠隔操作で爆発する魔法を仕込んでおいたよ」

「やっぱり保険はかけておくものだよね」


 ライリーの言葉に蓮花は当然のように頷き、尚もゆっくりと食事をしていた。


 私はその用意周到さに呆れると同時に少しばかり賞賛の気持ちを抱いた。

 疑り深い蓮花の冷徹な性格が功を奏す。

 蓮花は常に最悪の事態を想定し備えている。


 母上の遺体を持ち出したのがカナンであれば、爆破しても何ら異論はない。


「事情を聴きだしてから爆破させて殺しましょう」

「いーや、順番に手足を引きちぎって花占いの刑だぜぇ……」


 ゴルゴタは楽しそうに笑いながら指をカリカリと噛んでいた。


「何を占うんですか?」

「殺されるか殺されないかでも占ってやるかぁ……キヒヒヒ……」

「手足千切って行ったら普通に死ぬので占いにならないと思いますが」


 蓮花はやっと食事を終え、コップの水を飲んで一息ついた。

 ライリーは蓮花の前から丁寧に皿を下げる。

 これではまるでカナンに変わる召使いだ。


「問題は……少し泳がせて根こそぎいくのか、それとも即効でとりあえずカナンを捕まえるのか……どちらにするのですか?」

「仮にカナンが魔王信仰の『真紅のドレス』の一員だとしても、私たちはその組織には興味がない。遺体が戻ってくればそれでいい」

「今まで眼中になかったけどよ……あのクソ役に立たねぇカスだけぶっ殺しても、また別の狙ってくるんじゃねぇかぁ……? 目的が分かんねぇしなぁ……」


 蓮花の前に差し出されたクッキーの皿から、ゴルゴタは勝手にクッキーをとって食べながら言う。


 ゴルゴタの懸念はもっともだった。

 目的が全く分からない。

 仮に何か目的があったとしても理解したくもない。


「信仰する対象の身体の一部を手に入れたいと思っている人はいます。過去にそういう患者を見たことがありますが、最悪のケースは相手の事を殺して食べてましたね」


 そんなことをする者がいるということに背筋がゾッとする。

 吐き気を催す動機に、私は胸の奥の方がゾワリとした。


「気持ち悪ぃなぁ……やっぱ根こそぎ皆殺しにしてやるぜぇ……」


 本当にそんな理由であったら、私もそうしてやりたい気持ちでいっぱいだ。


 ――まて……


 魔王信仰というのは、母上だけを信仰しているのか?

 それとも魔王ならば私やゴルゴタも信仰しているのか?


 だとしたら私は更に背筋の凍る思いだ。

 私がいくら美しくとも、私の事を執拗に追いかけ回されたら迷惑以外のなにものでもない。


「カナンを捕まえれば記憶を読む事もできるだろう。泳がせずともいい」

「くだらない理由だったらいいんですけどね。でも相手が団体ならそれなりに準備して行った方がいいんじゃないですか」

「準備なんざいらねぇよ。俺様がいれば何があっても大丈夫だろ」


 ゴルゴタはかなり自信があるようだった。

 しかし、蓮花はクッキーを食べながら冷静に返事をする。


「カナンは魔王城でゴルゴタ様の事を見て知ってる者ですし、何かしら対策してきそうなものですが。追っ手がかかることくらいは想定していそうですし」

「勇者の剣が抜かれてすぐの話だ。余程前から狙っていたのだろう。私たちの実力を知っていてなお決行したのだから余程の自信があるか、ただの阿呆かどちらかだな。だが、遺体を目的にして蓮花の弟子などというポジションを所望していたとしたら余程の妄執を感じる」


 次から次へと問題が起こる。

 一体、いつになったら私は優雅に暮らせるというのだと頭痛がしてくる。


「まぁ……カナンが無能なのはそうなのでしょうから、追い詰めたら簡単に捕まりそうでもありますけど」


 私も魔道具を通してカナンの無能ぶりは見た。

 あれが演技だとすれば相当なものだが、演技ではなく普通に無能であった。

 母上のひつぎには痕跡が残っている程の無能だった。

 それに、詰めが甘すぎる。


 私たちのような天才相手に、凡才はこの程度のことしかできないのか。


「私とゴルゴタで空間転移で移動して確保する。それでいいか」

「空間転移なんざしたら人殺しが死にかけるだろうが」


 ゴルゴタの言葉にライリーが口を開いた。


「私が見ているから行ってきていいよ」

「あぁ? テメェは信用できねぇ」


 ライリーはそんなゴルゴタを嘲笑しながら返事をする。


「私は蓮花の育ての親なんだけど。それに、裏切者が魔王城にいないなら蓮花は安全だと思う」

「自分の身くらい自分で守れるから。子ども扱いしないで」

「反抗期が長くて困っちゃうなぁ……」


 ライリーと蓮花のやり取りに私は呆れた。


「……お前のその妄執は背筋が凍る。お前のような妄執を持っている相手だと思うと更に気が滅入る」

「まぁ……ちょーっと肩慣らし程度にぶっ殺してきてやるかぁ……もう人間をぶっ殺したら駄目だって制約もなくなったしなぁ……キヒヒヒヒヒ……」

「情報を聞き出すのが先だからな、勢い余って即座に殺すなよ」

「腕の一本、二本なくなっても死なねぇよ。あぁ、片腕はもうなくなってたんだっけかぁ、ヒャハハハハッ」


 最終的にゴルゴタと私は、カナンのいる場所まで空間転移魔法でいくことになった。


 事情の分かっていないタカシやアザレアらへの説明はライリーと蓮花に任せた。

 他にも、地下牢の人間たちをどうやって町に戻したらいいのかという難題も蓮花とライリーとアザレアらに全て投げた。

 あれは私の手に余る頭痛の種だ。


「帰ってきたら全て話してもらうからな」


 私が蓮花にそう言うと、やはり嫌そうな表情をしていた。


「まだ説明してほしいんですか……その執念には感服しますよ」


 蓮花の厭味に苛立ちながらも、私はカナンのいる場所へとゴルゴタと共に空間転移魔法を発動した。




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