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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第4章 裏ストーリーをクリアしてください。▼
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容疑者2:ノエルとその伴侶。▼




【メギド 魔王城】


 私はノエルらの部屋に向かった。


 ノエルらは食堂にいたときに挙手をさせて既に確認済みである。

 念のためもう一度詳細を聞きに行く程度だ。

 正直あまり疑っていない。


 ノエルの部屋の前に着くと、ちょうどレインが扉から出てくるところだった。

 日に日に大きくなっていくレインにとって、魔王城の部屋はかなり窮屈そうに見える。

 あと少し大きくなれば魔王城の個室には入ることは出来なくなるだろう。


「あ、魔王だ」


 レインは呑気そうに私に話しかけてきた。

 相変わらず何の危機感もない口調であった。


「ねぇ、僕たちもう帰ってもいい? ノエルはもう危ない事しなくてもいいよね?」


 レインは心配そうにノエルを気遣う様子を見せた。

 ノエルはあれだけ強いのだから危ないという概念が霞んでしまう。

 神を超越したノエルに勝てる者などこの世界にいるのだろうか。


「あぁ、かなり助かった。だが、遺体がなくなった件で確認がしたい」

「どういうことなの? ノエルはずっと僕と一緒にいたよ?」


 レインは、心底不思議そうな顔をしている。

 あまり疑っていないが、形式的に確認はしたい。


「そうだろうな。ノエルの伴侶の男にも改めて確認したい」

「あの人間はノエルの事しか考えてないよ。ここからも早く出たいって言ってたし、むしろノエルに危ない事をさせた魔王に怒ってたよ」


 レインの言葉に私は頭を抱えたくなった。

 伴侶の方が面倒くさいと思いながらも、私はレインとすれ違いでノエルの部屋へと足を踏み入れた。


「勝手に入ってくるなよ」


 部屋に入るとノエルの伴侶が私を睨みつけた。

 その顔には警戒と明らかな敵意が宿っていた。

 相変わらず、ゴルゴタに似た喧嘩早い性格をしていることに私は頭痛がした。


「簡単な確認が済んだらすぐに出ていく。魔王城の王座の間の遺体を動かしたか?」


 私の問いに、ノエルの伴侶は苛立ちを露わにした。


「またその話かよ。そんな訳分かんねぇ事する訳ねぇだろ。てかなんで死体置きっぱなしにしてるんだよ」


 伴侶の言葉にノエルが口を挟んだ。


「ご……ご主人様、それぞれ事情があると思いますし」

「大体、ノエルを危ない事に関わらせるな。俺たちはもう出ていくからな」


 ノエルの伴侶は私にそう言い放った。

 ここで食事の世話もされ、安全な場所を提供されているにもかかわらず、なぜこんなに大きな態度ができるのか不思議で仕方なかった。


「出ていっても構わない。遺体の件について関わっていないと分かったらな」


 私の言葉にノエルの伴侶は更に苛立ったようだった。


 しかし、何かを思い出したように言った。


「あ……そういや、怪しい奴見たな」


 ――怪しい奴……?


「どんなやつだ?」

「全身服で隠してる奴」


 私は、その怪しい奴とは佐藤のことかと思ったが、ノエルの伴侶が言う話はどうやら佐藤とは違う者のようだった。

 佐藤は浮浪者のような外見だったが、ノエルの伴侶が見た人物は違うという。


「どこに向かって行った? 他に特徴は?」

「つけ回した訳じゃねぇからどこに行ったかは知らねぇ。使用人かと思ったから何も思わなかったし。改めて言われると怪しいっちゃ怪しい感じだったってだけ」


 ノエルの伴侶は私にそう言って、興味なさそうに視線を逸らした。

 やはり嘘ではない。

 嘘を見抜くための魔道具のピアスは正常に作動している。


「どちらの方向かくらいは分かるだろう」

「この部屋から食堂とは反対側の方向だったな。もういいだろ? ずっとここにいたらまたこいつが危ない事に加担させられそうだから出ていきたい」


 この部屋から反対の方向は地下牢のある方向だ。


 ――地下の人間らが脱走して何か手引きしたのか……?


 だが地下牢の人間らは自力で歩くほど体力が残っているとは思えない。


「裏切者が判明するまではまだ返すわけにはいかない。ノエルにはもう危ない事はさせない。元々危ない事に加担させるつもりはなかった」


 私はノエルの伴侶にそう説明するが、全く納得していない様子だった。


「そう言っても、結局コイツの力に頼るんだぜ? だから嫌なんだよ。まして裏切者とかってのがこの城の中にいるなら尚更安全な場所に行きたい」

「僕もご主人様の身の安全が保障されないなら、別の場所に行きたいです」


 普段あまり話さないノエルが、はっきりとものを言っている。

 ノエルの瞳には迷いの色が一切ない。


 仮に止めようとしても、ノエルの力で押し通られたら私に止める術はない。

 それにノエルの伴侶とゴルゴタは相性が悪い。

 ゴルゴタとノエルの伴侶が揉め始めたら、ノエルがそれを許すはずがないしここは穏便に済ませたいという思いが強い。


 ノエルらが嘘をついていないことも改めて分かった。

 私はノエルらが出ていくことを許可することにした。


「分かった。これからどこにいくつもりだ? もう白羽根どものところはいけないだろうし、鬼族のところにも戻れないだろう」


 私の問いにノエルの伴侶が答えた。


「龍族の住処の近いガンマの町に行こうかと思ってる。あのガキ龍最近デカくなって食い扶持探すのが大変だからな」

「僕たちじゃレインの食事の世話は結構難しいですからね」


 まるで自分たちの実の子供の話をしているように、ノエルらはレインの話をしていた。


「それでもレインはお前たちと共にいるのか? 種族も全然違うが」

「はい。レインは僕のこと、ずっと探してくれてたみたいですし……レインと沢山遊んであげる約束をしているので」

「そうか」


 ノエルらは母上の遺体の事については白だ。

 それに言う通り裏切者が潜伏している中、何かあってからでは手遅れになる。


「……いいだろう。ただ、無属性魔法の発動の際にはまた頼むこともある」

「コイツを道具みたいに使うんじゃねぇ」

「僕は大丈夫ですよ。その代わり、僕たちが生活に困ったら助けてもらえますか?」


 ノエルはしたたかにそう言った。

 これはノエルなりに伴侶の面子を潰さないようにする配慮だと私はすぐに分かった。

 私の顔も立てながら、当然伴侶の顔も立てる。


「分かった。生活に困ったらいつでもここを訪ねて来い。そのくらいの恩義はあるからな」

「ありがとうございます」

「ガキ龍が戻ってきたら俺たちは出ていくぜ」

「分かった」


 その後、レインが窮屈そうに扉を開けて入って来た。


「レイン、僕たち出ていってもいいって」

「そうなんだ。魔王ありがとね。魔王がいなかったらノエルに会えなかったかもしれない」


 レインはノエルの隣りに移動しながら私に礼を言った。


「大したことはしていないがな」

「僕、この世界で生まれて魔王に会わなかったら生きてなかったかもしれないし、またノエルに会えたから本当に嬉しい」


 ノエルの身体にレインは頬ずりしてノエルに甘えている。

 ノエルもそんなレインの硬い鱗の頭を優しくなでて優しい表情をしていた。


「三神が滅びた今、外は今混沌としているだろう。気を付けろ。レインとノエルの実力なら心配はしていないがな」


 私は一緒に魔王城の敷地の境界まで行き、ノエルらを結界を一部解除して外に出してやった。


「またねー魔王! 遊びに来るからねー!」

「いつでも来い」


 レインの背に乗って、ノエルとその伴侶はガンマの町のある北の方へと飛んで行った。


「さて……」


 次に確認するのは、地下牢の人間どもだ。




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