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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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遠隔転移魔法を展開しますか?▼




【メギド 魔王城 中庭】


 地下での蓮花との会話から、半日ほど経った。


 センジュは出かけたきりで帰ってこない。

 そしてどこに行ったのかすらも分からないので、私は今、この時間を無駄にしないためにどうするべきか考えた。


 ゴルゴタは地下で私と蓮花に何があったかも知らずに、蓮花と共に行動を共にしている。


 蓮花が庭に括りつけられている人間の生命活動の維持をする作業をしている間、ゴルゴタは雑談をしながら蓮花の横をついて回っている。


 すこぶる機嫌が良いようで、刀蛭とうてつで作った剣を人間に刺して吸血させて、存分に楽しんでいる様子だ。


 蓮花がサティアの元へ行ってしまわないように、地下牢の魔法式の鍵の形は変えておいたが、それがどの程度蓮花に通用するかは分からない。


 だから、こうして私は遠巻きに見張っている。


 ダチュラはというと、私の監視の任も解かれて雑用をさせられているようだ。


 私を見失ったことがゴルゴタに知られた時点で、首が床に落ちなかっただけで奇跡というものだ。

 そこに、私からダチュラに蓮花が地下牢奥に行かないように見張るように言っておいた。


 具体的なことは言わなかったが、蓮花が怪しい動きをしたらすぐに止めろと言ってある。


 ――まぁ、蓮花が本気を出せばダチュラの監視など無意味だろうがな……


 だが、蓮花の方も私が「待て」と言った言葉を反故ほごにするつもりはない様子だ。


 何より、ゴルゴタがべったりと貼りついている以上は下手なことはできない。


 監視が外れて自由に動けるようになった私は、センジュを待つ間にも何かしらしなければならない。


 死の花の成長がどのようになるかは分からないが、ただじっと待っていても刻一刻と状況が悪くなるだけだ。


 ――呪われた町へ行って調べてみるか……? いくら魔族といえど、あの町は入ると気分が優れないのだが……だが、死神を捕縛しようとした何かがまだ残っていればヒントになるかもしれないな


 幸い、呪われた町までここから遠くない。


 飛んで行けば20分以内くらいだ。


 飛んで行くのは疲れる。

 しかし、空間転移の負担を考えると空間転移するほどの距離でもない。

 歩いていくには道が悪い。


「まぁ、仕方ない……動けるうちにやっておくか」


 天使族のところに死の花の詳細を聞きたいという気持ちもある。


 これを和らげる何かがあれば聞き出したいところだが、私は天使族がその辺の虫よりも大嫌いだ。


 それに、私につけていた四大天使の2人はゴルゴタにさっさと始末されてしまった。

 焼き尽くされて骨すら残っていない。


 そこに顔を出せばネチネチと厭味を言われるに決まっている。


 そして、また別の天使を私につけるなどと言いかねない。


 まぁ、色々な私の事情を考慮して、天使族の元に行くのは却下だ。


 ――私が城から外出している少しの間、また同じことにならなければいいが……


 ゴルゴタに殺されかけた時のことを鮮明に思い出す。


 正気を失っているゴルゴタ、消えた蓮花、姿を戻したサティア、サティアを守るセンジュ……


 だが、あれは蓮花を止めた此度の私の行動によって阻止される未来のはずだ。


 今、蓮花の方を向いてみても、ゴルゴタとあれこれと話しながら普通にしている。


 しかし、死神に脅されながらも決行したあの執念はあなどれない。


 ――そうだ、()()を試してみるか


 私は魔王城を出る前にゴルゴタと蓮花の方へ向かい、話に割って入った。


「私は少し外に出てくる」

「あぁ? ンだよ。そんなこといちいち俺様に言ってくんなよ。気持ちわりぃな」

「そんなことを言って、何も言わなかったら何も言わなかったで文句を言うくせに」


 ゴルゴタに言いに来たわけではない。

 その隣にいる蓮花に釘を刺しに来たのだ。


「私のいない間、余計なことをするなよ。分かったな」

「俺様に指図すんな」


 ぐいっ……とゴルゴタは私の服の襟元を掴んでくる。

 私が言っているのはゴルゴタにではないが、体裁としてはゴルゴタに言っているふうでなければ不自然になる。


「ゴルゴタ様、そろそろ剣を抜かないとこの人死んじゃいますよ」


 刀蛭の剣を指さして蓮花がゴルゴタに言うと、私の服から手を放してその剣を荒々しく人間から抜き取る。


 飛び散った血すらも刀蛭は余すことなく吸収していた。

 剣を刺されていた人間の傷を蓮花が素早く塞ぎ、その人間の一命は取り留められたと言えるだろう。


「まだ5分の1も終わっていませんので、そんな人……人じゃないけど、に構っている暇はありません。私たちはバイタルチェックで忙しいのです。どこかへ行くなら、勝手に行かせたらいいじゃないですか」

「俺様はこんな連中さっさと殺しちまえばいいって思ってんだぜぇ……? ぎゃーぎゃーうるさくねぇのはいいけどよ、こいつらクセェんだよ」


 くくりつけられているので、排泄物などは垂れ流しの状態になっている。

 そのせいで、ここら一体は糞尿の匂いがして異臭がしている状態だ。


 私としてもこんな場所に1分1秒いたくない。


「駄目ですよ。これは人質なんですから生きていてもらわないと困るのです。勇者たちが攻めてきたときも役に立ってくれたじゃないですか」

「けっ、わぁーったよ。さっさと終わらせやがれ。兄貴も鬱陶しいからさっさと消えろ」


 手を払うように動かして、ゴルゴタは私に対して消えろという。


 蓮花は私に対しては言葉を発しなかったが、「忙しい」ということは遠回しに「何もしない」と言っていると取って良いだろう。


 その言葉を聞いた私は呪われた町の方面に向かって翼を広げた。

 大きく羽ばたかせると私は上空へと飛び上がる。


 目的地である呪われた町付近まで私は飛んだ。




 ***




【メギド 呪われた町の周り】


 到着したはいいが、やはりここに入るとなるとかなりの抵抗感がある。


 ここには独特な圧力が常時かかっており、特に人間は無事に入って出てこれた者は蓮花くらいのものだろう。


 魔族ですら正気を失ったり、何かしらの体調の変化がある。


 それに、淡い期待ではあるが『解呪の水』の残りがある可能性があると踏んでいる。

 あるいは、『解呪の水』を作る装置があってもおかしくはない。


 センジュの話を聞く限りここは捜索された後だ。


 センジュはここから『解呪の水』を持ち帰った。

 なら、まだストックがあっても不自然ではない。


 呪われた町へと入ろうと私は試みた。


 1歩、呪われた町へと入ったところで私の肩の花がもぞもぞと動き出したのを感じる。

 肩の感覚はないが、服の中でそれがうごめいていることくらいは分かった。


 ――ここに入れば、花がこの膨大な呪いのエネルギーを外界から取り込んで急成長する可能性があるというわけか……


 1歩入った足を町の外に戻し、私は町の境界線を見つめる。


 そこの境界線は明白だった。


 途中まで雑草が生えているが、呪われた町の中は雑草1本生えていない。

 生命が活動できる状況でない不毛の土地なのだ。


 困った。


 せっかく私がここまで苦労してきたというのに、ただの時間の無駄で終わってしまうところだ。


「まぁ、それはそれで……」


 私が試したかったことはこの町に入る事だけではない。


 私はタカシらから離れるとき、1つ魔法を残してきたのだ。そ


 れは空間転移魔法の遠隔操作魔法式。

 遠くにいてもこの魔法を使えば近くに呼び寄せることができる。


 だが、空間転移魔法は人間にも魔族にもかなりの負担がかかり、短時間での空間転移の繰り返しは命を落としかねない副作用がある。


 だからこれは実用的でないと思っていたのだが、私の知る者で1人だけ空間転移の負荷がかからない人間がいる。


 ――さて、役に立ってもらおうか……


 私が魔法を展開すると、その男は魔法陣から現れた。


「わぁああっ! へぶっ……!」


 少し高めの位置に魔法陣を作ったのがいけなかったのか、その男――――花園琉鬼はなぞのるきは打ちどころが悪かったのか痛みにもだえて無様に転げまわっていた。


 それも、半裸で。

 下半身はかろうじて隠れているが、上半身はだらしない身体を露出させている。


 まぁ、私と別れたときよりはましな体型になっているが。


「うぅううう……」

「おい、いつまでもゴロゴロと転げ回っているな。私が呼んだらいつなんときも来られるように準備しておけと言ったはずだ」

「すみません……本当に突然だったもんで……この漆黒の天使たる我も、急に――――」


 バシャン!


「へぶっ! ごほっ……ごほっかはっ……」


 久々に誰かに水弾を浴びせたが、最近は色々あってストレスが溜まっていたのでとても気分がいい。


「私の前で天使の話をするな。殺されたいのか」

「すびばせん……ごほっ……それで、何か我々にできることができたのでしょうか魔王様……けほっ……」


 私はタカシらに、如何なる場合にも備えておけと命じた。


 だが、琉鬼には私が直々に空間転移の遠隔魔法をかけておいた。


 この男はなんの取り柄もない、生きているだけでその辺りの空気が腐る程役に立たないと思っていたが、空間転移の負荷を受けないという特異体質であるようだった。


 それが唯一の転生者の才というものだろうか。

 ゴルゴタから私たちが撤退したときに1人だけなんともない様子であたふたしていた。


 無事でいたところで何の役にも立たないが、だがこうして遠隔での連絡役に使えてそれだけは便利だ。


『現身の水晶』は声だけ届けることができるが、琉鬼を遠隔の転移魔法で使えば道具の運搬などに役に立つ。


「あぁ、お前に2つ用がある。1つは、ちょっとそこにある町に入ってみろ」


 私が呪われた町を指をさして示すと、琉鬼は訳が分からないような顔をして首をかしげていた。


 琉鬼はこの呪われた町がどんなところなのか知らない様子で、周りの異様な雰囲気も感じ取らず、のこのこと町の境界線の辺りまで歩いて行き、そして足を踏み入れた。


「…………」


 特に琉鬼に変化はない。


 相変わらず太っていて禿げていて異臭を放ち不細工な顔をしてキョロキョロとしていた。


 私の隣を歩かせたら、あまりの美醜の差に絶望してしまうだろうなと私は考える。


「……魔王様? なんですか? このスラムみたいなところ……なんか気味が悪いんですけど……」

「なんともないのか?」

「え? あぁ……ふっ……この深淵なる闇をまとう我の呪われし邪眼がうずく――――」


 バシャン!


「ごほぉっ……がはっ……痛いです痛いです、ごめんなさい」

「真面目に答えろ」


 多少は役に立つが、無性に腹が立ってくるのが解せない。


「はい……特に何も感じませんが……?」


 ――思った通りだな


 直感に過ぎなかったが、恐らく琉鬼はこの世界の法則にある程度影響を受けない身体を持っている。


 ――これは、神をも超越するイレギュラーだ……蓮花と並ぶほどの才ではないが、使いようによっては無敵の盾になるだろう


 私の直感が外れていたら、琉鬼は町に入った瞬間に異常をきたし異形の者になっていたか、精神が崩壊してしまっていただろう。


 あるいは、血まみれになって倒れていたか……そのいずれにもなっていない琉鬼はやはり転生者というこの世界の異物。


 レインは空間転移の負荷を感じていたようだが、琉鬼はそれを感じない様子だった。


「よし、お前はその町の中をよく見て回って、書籍があったら片端から私の元へと持ってこい。あるいは、何か毒されていない液体があったらそれを持ってくるんだ」

「ええ、この町全体からですか? 書籍って言っても、そんなのどの家にもありますよ。全部持ってきてたら俺、腰やっちゃいますって」

「だったらカノンに治してもらえ。それに、この町には研究所があるはずだ。その研究所の書籍を中心に持ってこい」

「魔王様が直接見た方が早いのでは?」

「馬鹿め。この町は三神に呪われているのだぞ。いくら私と言えど、そんな呪われている町に入ったら具合が悪くなるだろう」

「えぇっ!? 俺入っちゃいましたけど!?」


 どたどたと琉鬼は町の外に出て私の近くに駆け寄ってきた。

 異臭がするので私は琉鬼から距離をとった。


「お前は何ともない。実際に入っても何の変化もないではないか」

「結果論じゃないですか!? 俺が呪われちゃったらどうするつもりだったんです!?」


 急に怒ったように琉鬼は息を荒げて私に抗議してくる。


「ほう、お前は自分で自分が呪われていると言っていたではないか。本当に呪われるチャンスだぞ。時間がないんだ、さっさと行け」


 風の魔法で無理やり琉鬼の向いている方向を変え、背中を押して呪われた町の中に追いやった。


「それから、言い忘れていたがこの町には異形の者が住んでいる」

「異形の者!?」

「異形の者と言っても害はない。それを見て情けない叫び声をあげたら水かけの刑だからな」

「は、はいっ!」


 そう言って私は琉鬼を強引に呪われた町へと放った。


 私が実際に入れればこんな手間をかけなくてもいいのだが、肩の花が急成長してしまっては本末転倒だ。


 ここで私は待つしかない。


 ――神を封じる魔法……あるいは、神を封じる器具……人間らは死神の捕縛に失敗したが、それが何なのかせめて分かれば解決の糸口も見えてくる……か……


 ただ待っていてもそれも時間の無駄なので、私は近くの木の根に腰を下ろして考え事を始める。


 琉鬼の悲鳴が聞こえてきたのは、私が考え事を初めて間もなくしたときだった。


 これは水かけの刑決定だ。




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