第12話 夜空
私たちはあの城を出た後、私たちはしばらく走ったのちに、平原で休憩していた。
あの城がどうなったのか。それは気にならなくはなかったが、振り返るわけにはいかなかった。
「リーナ。このあたりに町はあるの?」
「いえ、見つかりません。多分、今夜はここで野宿するしかないかと」
「……そっか」
野宿、という言葉は聞いたことがある。
なんでも、夜は星空の天井に見守られ、快適な睡眠を得ることが出来るらしい。
正直なところ、物凄く興味がある。
「それじゃあ、木を探しましょうか」
「木が必要なの?」
「当たり前ですよ。襲われたらどうするんですか?」
……確かに、よく考えてみるとそうだ。
「それじゃあ、探しに行きましょうか」
「これだけあれば十分ですかね」
「十分じゃなくても、もう暗くてこれ以上は危険だと思う」
既に周りは真っ暗で、明かりといえば夜空に浮かんでいる星々だけだった。
「そうですね。それじゃあ、少し失礼して……」
リーナはそう言うと、バッグの中から変わった色の石を二つ取り出す。
そして、それを打ち合わせていると、火花が飛び散り、彼はに燃え移る。
「リーナ、これは?」
「確か、火打石と言われている石の一種です。先ほどのようにこすり合わせると、火が出るんですよ」
「そうなんだ」
「そうですよ」
私たちは火を囲うように座ると、沈黙が流れる。
「……思えば、遠いところまで来ましたね」
「……そうだね」
「もう、旅も終盤なんですね……」
「うん……」
私は草原に寝転がり、空を見つめる。
そこには、黒い夜空にいくつもの色々な光が輝いていた。
「ミコトは、旅を終えたらどうしますか?」
「……うーん、ごめん。考えてないや。ミコトは?」
「私もです。もしかしたら、またこの旅を続けるかもしれません」
「……そっか。じゃあ、その旅を手伝わせてよ」
私の提案に少しだけ声を漏らすと、少し笑って返すリーナ。
「はい、是非お供してください」
「……よかった」
私はその言葉を聞いて、少しだけ安心する。
どうやら、私は一か所に留まる質ではないらしい。
「そういえば、リーナの過去について聞いてなかったね」
「……そう、面白い者でもありませんよ」
「それでも聞きたい。この旅が終わる前に」
「……わかりました。それじゃあ、長くなりますが」
私は、今から千年前に両親の間に生まれました。
私の周りには、祖母や兄。そして、幼いころのジェノがいました。
ジェノは、小さいころから悪戯が好きでしたが、根はいい子でした。
そして、私は同年代ということもあり、次第に彼と打ち解けていくようになりました。
ですが、ある日ジェノに連れられて森の奥深くまで遊びに連れていかれました。
しばらくそこで遊んでいると、彼は急に「かくれんぼをしよう」と言い出しました。
特に断る理由のない私は、その提案を受け入れ、木の陰に隠れることにしました。
ですが、しばらくたってもジェノは私を探しには来ませんでした。
「ジェノが行方不明になった」と思った私は、急いで村に戻ると、もう村は火の海に包まれていました。
私は、それでもジェノがどこかにいるか探していると、すぐに気づいてしまったのです。
もう、この村に人なんていないのだと。
それからは、長い間旅をしました。
家族を、兄を……そして、ジェノを探して。
それで、しばらく旅を続けていると、私は私たちの村にいなかった観測者を見つけました。
それが、ティースさんです。
彼は、忍者のようなお面をかぶり、ただの一言も文句を言わず、人を助けてきていたのです。
そして……彼から、ジェノという『悪党』の名前を聞きました。
最初は信じられませんでした。彼はよく悪戯をしては親に怒られていましたが、そんな人を殺すような人ではないことは知っていましたから。
私はそれが嘘だと証明するために旅を続けていると、ジェノは旅先に立っていました。
血の湖の上で。
最初は、偽物だと疑いましたが、残念ながらそこにいた彼は本物の彼でした。
ですが、その時の彼の言葉はいまだ心優しい彼のままでした。
「隠れてろ。お前の家族は必ず見つけ出す」。
きっと、この言葉が彼の最後の言葉なのだと思います。
私は、その言葉を信じて山や村を転々として隠れていると、ある日、ジェノが私の隠れていた村を滅ぼしたのです。
そこから、私は彼を憎み始めました。
それに、彼に任せてはいられないと思い、私は山奥を飛び出したのです。
「――そして、その旅先で出会ったのがミコト。あなたなんです」
「……そうなんだ」
「はい。あんまり、面白い話ではなかったですかね」
「……ううん。話を聞けてうれしかった」
私は寝袋を肩までかけて、リーナの方向に寝返る。
「……きっと、家族は生きてるよ」
「そう、だといいですけど……」
「うん。絶対生きてる。……だから、今はお休み」
「はい。おやすみなさい」
私は目を閉じて、風に耳を傾けながら眠りについた。
『正しい事』。それを、リーナのために成すために……。