須佐之男(スサノヲ)の願い
朝日が西東とアコの顔を照らす。
朝から涙で腫れた顔を洗面所で洗う西東の姿がそこにはあった。
そんな西東は、アコの焼いた目玉焼きとトーストを無言で食べていた。
西東が負い目を感じている姿にアコは何も言わずにただ静かに朝食を済ませると限界に達した。
「あーーー! もう、何で西東はそうなのよ! ヤっちゃったんだから仕方ないでしょ!」
いきなりのアコの発言に『ぶっ』と吹き出す西東。
「汚いわね。全くもう、いいのよ……私は許してあげたんだから、西東も笑いなさいよ……このまま喋れなくなる方がずっと嫌なんだから!」
そう言い泣き出したアコに慌てる西東がアコに触れた瞬間。
「ウリャア! 西東がそんなに気にしてるなら! 私で西東をいっぱいにするのみよ!」
アコが西東の腕を引き寄せ、そのまま押し倒した。
「あ、アコ……眼が据わってるよ……」
余りの事に動揺する西東をじっと見詰めるアコ。
「当たり前じゃない……いつまでもウジウジして、西東らしくないんだもん! 自信持ちなさいよ! スサノヲから私を助けたんでしょ!」
その言葉に西東はポケットにしまった櫛と髪の束を思い出した。
「アコ……眼が覚めたよ、ありがとう。一緒に来てほしいんだ」
「何処によ?」
起き上がる西東にそう訪ねるアコ。
西東はスサノヲが最後に口にした事を伝えた。
「え……西東、神様を消滅させたの……!」
驚くアコに頷き返す西東。
「だから、約束を果たしに行きたいんだ。一緒に来てくれないかな」
アコは驚きを隠せないまま、西東と共に、スサノヲが最後を迎えた出雲へと向かった。
「夜に山を登るから、其れまでゆっくりしよう」
二人はただ、出雲の地を堪能し、スサノヲの伝説や神社を回り歩いた。
「なんか、不思議な感じ……昨日まで敵として戦ってきたスサノヲの伝説を聞いたり、神社をみたりさ」
アコがそう呟きながら、おみくじを引く。
「あ、大吉だ!」
「天使が、おみくじを引くって見てて不思議なんだけど?」
「西東も引いて見なさいよ!」
アコに言われ、おみくじを引く西東。
「中吉……」
「アハハ、なんか西東らしいかも」
二人は久々に心の底から笑っていた。
夜になり、西東とアコはゆっくりと山道を頂上目指し登っていく。
そして、スサノヲとの約束の大樹の前にたどり着くと、西東は、大樹の幹の下を素手で掘っていく。
西東の爪の間に土が詰まり、爪の中から血が流れ出すが西東はひたすらに掘り進めていった。
「此れくらいかな、よし」
西東の掘った穴の中に櫛とスサノヲの髪の束を置くと西東は土を被せ確りと手で土を押し固めた。
すると、先程埋めた穴が輝きだし、光が人の形を成したのだ。
「約束を果たしてくれて、感謝する。我は今より本当の自由を手にした。クシナダと供に永遠を過ごすことができる」
光はスサノヲの姿になり、そう語る。
「スサノヲ、なのか……その為に! 自ら死を選んだのか!」
西東の言葉に笑いながら頷くスサノヲの表情は穏やかにして涼しい限りであった。
「クシナダを永く待たせ過ぎた、赦して貰えぬかも知れないが、我も自ら死を選ぶ自由は、持ち合わせて否んだ、大いなる輝きの名を持ちし者に出逢えた運命に感謝する。月読命に後を託す、愚弟の最後の願いならば、快く聞いてくれるであろう」
そう言うと天が輝き、スサノヲは天に飛び立った。雲の間から美しき女が現れるとスサノヲの手をとった。
「来てくれたのか……クシナダ……永き時を待たせたな」
「時が幾万、幾千流れようとも、生涯を供に、光となりて、無限の時を一瞬にしか感じませぬ、さあ参りましょう」
月夜にオカリナの音が突如鳴り響き、スサノヲとクシナダは姿を光として、消えていった。
西東とアコは、その場に呆然と立ち尽くしながら、全てが終わったことを理解した。
西東はスサノヲの最後の「 月読命に託す」と言う言葉が気になっていた。
月夜に照らされながら山を降りる西東とアコ。
山を出た時であった。
一人の男とも女とも取れる、美しい顔をした人物が二人を待ちかまえていたのであった。




