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決着……笑うスサノヲと西東の涙

 スサノヲは強かった。単純に振り下ろされた剣の重みに結界が容易く切り裂かれ、次々に西東の目の前を掠める刃。


 明らかに余裕を見せるスサノヲの剣には、迷いが微塵もなく、ただ楽しんでいると言う感覚に西東は絶句した。


「西東? お前はまだ悩んでいるのか! 私が憎くて堪らないのではないのか! そうだ、お前の手足を斬り、死なないようにしてから、前切アコの体をお前の見ている目の前で堪能しようじゃないか!」


 剣を振るい、そう口にするスサノヲは、更に激しく西東を斬りつける。


「ふざけるな……汚い手でアコにこれ以上触れるなぁぁぁ!」


 西東から放たれる仙力が空気を震動させ更に大地がその震動に共鳴し、山鳥達は巣から飛び立ち、獣達が山から一斉に走り出した。


「それだ、それだよ! 西東、怒れ怒れ怒れぇぇぇ! 憎いだろ! 悔しいだろ? 惨めだよな、いや、惨めでしかない!」


 スサノヲの挑発にも取れる罵倒が津波のように西東にぶつけられる。


「お前は、僕が叩き斬って息の根を止める! スサノヲォォォォォォ!」


 西東は結界を細く更に薄く何重にも重ね合わせると一本の剣へと姿を変えさせた。

 結界を剣にし、更に仙力で結界を包み込み、輝く刃へと変貌させたのだ。


 その輝きは、まさに太陽の如き光を放ち、山の天辺を照らし、真夜中の山の中に朝を造り出したのだ。


「それだ! 西東大輝、さあ! 決着の時だァァァァァァァ!」


「砕け散れェェェ! スサノヲォォォォォォ!」


 互いが一気に加速し、光となりぶつかり合った。


「アハハハハハハ、最高だ! なんと楽しい夜なんだ、こんなに胸が踊ったのはクシナダと出逢って以来、初めてぞ」


 無惨に地面に突き刺さる砕けた剣先、地面を真っ赤に染め上げる程の致死量の血液、それを見て笑いながら立つスサノヲの姿が其処にはあった。


「クシナダよ、我が愛しき妻よ……我は今解放された! 素晴らしき夜に……そなたと酒を飲めぬ、ことが口惜しい……」


 血溜まりに背中から倒れるスサノヲ、その脇腹には激しく生々しい斬り傷が刻まれ、倒れてからも出血は止まる事なく続いている。


「スサノヲ……何故だ……わざと切られに来たのは何故だ!」


 西東はスサノヲが自身の体をあえて、刃に向けた事、剣で斬りつけなかった事実に寧ろ怒りを感じていた。


「言ったよな! アコの為に僕は全力でお前を叩き斬るって、最後まで戦えよ! スサノヲ!」


「アハハ……まさか……そんなに怒るなんてな……西東大輝は熱くならないと思っていた……すまない……最後のわがままを聞いてほしい頼む……」


 スサノヲは一本のくしを西東に手渡し、必死に自身の髪を握り、地面に突き刺さる剣先で其れを切り落とすと、髪で其れをくくった。


「肉体が消滅したら……其れをあの樹の下に埋めてくれ……頼む……前切アコは……今頃、下界のお前達の家に時を渡りたどり着いているだろう……前切アコの安全を確認してからで構わぬ……頼ん……」


 そう語りながら絶命したスサノヲの肉体が光になり、天に消えていく。


 荒神となり追放されたスサノヲは、復活不可とされており、肉体が復活する事はない。


 西東は、櫛とスサノヲの髪をポケットにしまうと急ぎ、孫悟空達の元に走り出した。


 孫悟空達は、既にその場に座り、煙管を吸っていた。

 戦いの最中に、三姉妹が突如笑いながら光になったと語られ、スサノヲが完全に消滅した事実を確認した西東はその足で急ぎ、家に向かった。


「アコ!」


 玄関の扉を壊し、中に入る西東は直ぐに家中を捜した。

 そして、西東のベットに横たわるアコの姿を見つけると、西東は大粒の涙を浮かべ号泣した。


「あれ……西東……なんで、私……! 私……拐われてそれから、記憶がないの」


 スサノヲは、アコを拐い直ぐに時間転移を行っていた。


 西東はアコを抱きしめると「ごめん……」と泣きながら呟いた。西東はスサノヲが消滅した瞬間に忘れていた記憶が全て戻っていた。


 其れはまさに悪夢であった。

 最愛の人を助けた事実と裏切った事実が同時に西東の心をのみ込んだ瞬間でもあったからだ。


「僕は……ごめん……アコ」


 泣きじゃくる西東の頭を撫でながら抱きしめるアコの表情は穏やかであった。


「いいんだよ……大丈夫だからね、私は居なくならないよ、だから泣かないで大輝」


 その日、アコに抱かれたままの西東は、その温もりに包まれて穏やかな気持ちのままに眠るのであった。

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