西東の怒り 輝王千帝
西東が飛び立つ際に孫悟空から渡された物があった。
亡き三蔵の形見と言える宝珠で作られた数珠であった。
若き日の三蔵が法力を高めるのに使用していた品であり、『仙力と結界の力を更に強くする』と言われ渡されたのだ。
西東の肉体は、天鬼の領域を遥かに越えており、天界に入ると直ぐに神軍が西東を取り囲んだ。
「止まれ! 貴様はいったい何者ぞ!」
西東に向けられる大量の槍と弓、更に後方には結界師の軍団が敵を捕縛せんと言わんばかりに身構えている。
「時間無いんで、すみません!」そう口にすると西東は巨大な結界を造り出し、前方から一気に後方に向けて結界を押し出した。
まさに神軍からすれば悪夢のような光景であった。
素晴らしい陣形は無惨に押し流され、更には後方の結界師達が一斉に逃げ走る、そんな結界師も巻き込み、まるで雪崩のように襲い来る前方の神軍、まさに悪夢でしかなかった。
そんな彼等を無視して、西東は天界の中を一気に走り抜く。
風の如く走り抜ける様を目の当たりにした神軍の兵達は自分達が何と対峙したのか分からぬままに震えていた。
西東が目指したのは、天御中主神その人であった。
西東の接近を感じた天御中主神は、全ての戸を開かせるとゆっくりと椅子に腰掛けた。
「西東さん、どうしたのです? 貴方はまだ、監視下の筈であり、今や前切アコ共々、手配中の身になっているのですよ?」
そう淡々と語る天御中主神に西東は只一言「アコは何処ですか?」と口にした。
「何の話ですか? 西東さん、意味がわからないのですが」
「アコと僕の居場所は限られた者しか知らなかった筈です。其れをアッサリとスサノヲが見つけるのは可笑しいと言っているんです!」
「私にも分かりませんが、確かに西東さんの言い分はごもっともです」
西東の言葉に頷きながらそう語ると直ぐに天御中主神が天界のモニターをスクリーンに出した。
「此れが貴方達がスサノヲと接触した時の映像です」
西東はその映像に不可解な点を見つけた。
「何れも顔が写ってない、それにこの位置、アコが家に走っていく所もアベコベだ……」
「アベコベ?」
「僕達の家が逆さなんです、この画像、全部逆さまなんです! だから顔が写らないんだ!」
「意味がわからないのですが? 詳しく話してください」
画像に写し出された敵の姿は全て作られた残像であり、逆さまに写し出された部分に本来の敵の姿がある、と西東は語った。
「こんな事を容易く出来る神は一人だけだ!」
西東は直ぐにその場を飛び出した。
「まて、西東! く、人の話を聞かぬやつめ」
西東が目指したのは、天照大神の元であった。
「なんで、直ぐに気付かなかったんだ! 天照は過去にもスサノヲを助けてるのに!」
スサノヲが悪事を働き暴れた際に、其れを庇ったてされるのが天照大神である。
天照大神とスサノヲの繋がりは不明であったが西東には、関係無かった。
アコを取り戻す為に西東は神すら殺める覚悟を持ち、ひたすらに天照大神の元に急ぐのであった。
そんな西東の動きを知り、笑う者が一人、スサノヲであった。
「いよいよ、クライマックスか、永かった実に永遠とも言える時の中においてやっと此処まできたんだ……失望させないでくれよ! 西東大輝」




