西東の覚悟、向かう先は天仙界2
最初に齊天大聖が行ったのは、西東の結界術の強化であった。
「今から行う修行は三日間の間生き残る事だ! よいな西東」
そう口にする齊天大聖に『はい!』と西東が受け答えをした瞬間に齊天大聖の瓢箪が西東に向けられた。
次の瞬間、西東の身体は縮み瓢箪の中に吸い込まれていた。
「え、これって!」
西東は、西遊記の話を思い出し瓢箪が吸い込んだ物を酒にしてしまう事を頭に連想させた。
「西東よ、この瓢箪の液体に永く漬かれば漬かる程、お前から記憶が消えていく! いいか、忘れるな記憶が全て無くなるまでが三日だ」
そう言われ、瓢箪に封がされると瓢箪の中は暗闇に包まれた。
暗闇の中では、朝なのか夜なのかすらも把握できない。
西東の時間感覚は次第に麻痺していき、時間がわからなくなった。
西東はそれから三日間の間を地面に結界を貼り、必死に集中しながら時が来るのを待ったのだ。
結界は本来乗る為に考えられていない。今まで西東が結界を使って移動や踏み台に使ったことはあったが、長時間結界の上に居続けるのは初めての事であり、結界が薄ければもって数分と言う事実に西東は、結界が消える前に新しい結界を貼らねばならない状況であった。
寝ることも、集中を解くことも赦されない現状の中、西東は意識を失うように眠りに落ちていた。
西東の夢の中にアコの姿があるのか、譫言の様にアコの名を呼ぶ西東が目覚めると暗闇にに慣れた目に結界の薄板から真下に見える液体、西東が知らぬ間に貼ったであろう結界は今までの物よりも強固でより薄く透き通っていた。
「これは、いったい?」
自分の作ったで在ろう結界の板に驚く西東を天高くから光が照した。
「時間だ! 生きておるか西東よ」
齊天大聖の声に上を向き叫ぶ西東の声に安心したのか「西東、そのまま、上ってくるがよい」と瓢箪の中に声が響き渡った。
言われるがまま、瓢箪の淵を目指し、光に触れた瞬間、西東は外に吸い出されるように放り出された。
「いてて」と西東が起き上がると齊天大聖の他に、猪八戒と沙悟浄の姿が其処にあった。
「今より、西東大輝を齊天大聖、改め孫悟空の弟子とする。猪八戒と沙悟浄も同様に師匠とし、以後我等を師とし、我等の弟子を名乗るがよい」
西東は其からの一ヶ月余りを三人の師と過ごすことになり、結界を応用し仙術を学んでいった。
仙術を使うことの基礎を沙悟浄から学び、術を猪八戒から授かり、孫悟空と実戦をする日々をひたすらに繰り返す。
倒れる度に玉龍が西東を復活させては、再度実戦をしながら仙力を高めていったのだ。
一ヶ月の修行が終わると孫悟空が普段と違う瓢箪を持ち出したのであった。
「これは、千賢瞬孑本気で短期間に強くなりたいならば使うがよい、中に入るは一人のみ、瓢箪の中の時は千年を天仙界の一瞬として過ぎていく。天界人の主ならば中で朽ちぬ限り、無限に修行できよう」
限られた時間の中で強くなろうとする西東にとって、選択肢はなかった。
直ぐに千賢瞬孑を使おうとする西東に対して、孫悟空が「お前なら出来る、闇に囚われるなよ」と口にした。
「ありがとうございます。行ってきます」
そう言い、中に入っていく西東。
孫悟空を含む三人は一瞬で出て来ると思っていたが、数秒待っても西東は、出てこなかったのだ。
孫悟空達に緊張が走る。
千賢瞬孑の真の恐ろしさは、時間ではなく、孤独であった。
一人でひたすらに千年の時を過ごす事は容易ではない。
空腹は無い故に睡眠よくも無いままに過ごす異常な時間に仙人でも、精神を病んでしまう者が現れる程であった。
孫悟空達が千賢瞬孑を開こうとした時だった。
中から西東が飛び出して来たのだ。
「おおお、西東! 余りに長く出てこないから心配したぞ!」
時間にして、十秒に満たなかったが、西東が過ごした時間は一万年を超えていた。
直ぐに西東に玉龍の仙人食が運ばれると西東は一気にそれを平らげたのだ。
余りの食欲に孫悟空すら呆気に取られていた。
そんな西東が食事を済ませると直ぐに孫悟空との手合わせが開始された。
「本気でいくぞ! 西東よ」
孫悟空の言葉に西東が頷き、実戦が開始される。
それは三名が驚く動きであった。
孫悟空の猛攻を容易く交わし、更に猪八戒から習った水術を使い、孫悟空を翻弄する西東。
孫悟空の周りを結界で覆うように囲みを作ると多重結界を一瞬で作り上げたのだ。
「ハァハァ、実戦なら俺の敗けだ。たく、とんでもないバケモンだな」
孫悟空の言葉に頷く猪八戒と沙悟浄、そこからは更に三名の術を学び再度、千賢瞬孑の中に身を置く西東の仙力は既に三名の域を超えてしまわんと言うばかりに跳ね上がっていた。
「西東! 今より、輝王千帝と名乗るがよい」
それは、孫悟空達が西東を仙として認めた瞬間であった。
「輝王千帝……ありがとうございます、本当にありがとう御座います」
西東は其からの直ぐに天界へと急ぐのであった。




