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西東の覚悟、向かう先は天仙界

 目覚めて直ぐに西東が気付いた事は、アコが居なくなった事と、自身の体が自由に動く事であった。


 西東が思い出すのは、スサノヲの『ゲーム』と言う言葉であった。


 西東は直ぐに天界から遠く離れ、険しい山道をひたすらに登っていた。


 西東が登っていたのは、単なる岩山ではなく、仙人山と呼ばれる山の一つ花果山であった。

 地上に存在する花果山と違い、天界から離れた天仙界に位置する花果山に西東は、一人訪れていた。


「あと少しで頂上か!」


 西東は、ひたすらに自らの腕を上に上に伸ばしていく。

 鋭い岩肌に指が切り傷で一杯になり、掴んだ岩肌に血が滲みでる。


 それでも西東は進み続けた。

 天界人からしても、天仙界の空気は薄く、人間ならば数分で息が出来なくなる程の濃度であった。


 天界の誰にも頼れない西東が最後に頼ることにしたのが齊天大聖であった。


 親しい訳でもない、助けてくれる保証も存在しない。


 西東の結界師の力をあげる為に悩んだ末の決断であり、しかし、そんな状況の中であっても西東の表情に迷いは微塵もなかった。


 頂上に辿り着いた西東の手は血だらけであり、至る所に鋭い岩の破片が突き刺さっていたが、西東はそんな事には目もくれず、西東は頂上に創られていた齊天大聖のやしろを目指した。


 社の前にある大岩の上に齊天大聖が座りながら西東を待ち構えていた。


「驚いたなぁ? 本当に来るとは思わなんだ」


 そう口にしながら、西東の前に降りてきた齊天大聖は、直ぐに西東を社の奥にある本殿に連れていく。


「え、あの……」


「良いから、取り敢えずは飯だ! 玉龍すまないが、とびきりの旨い奴を頼む」


「リュリュ龍!」


 訳がわからないまま座敷に座らされた西東に飯を食べろと口にした齊天大聖は、玉龍に厨房を任せると煙管(キセル)を一服つける。


「西東と言ったかな」


 そう言われ頷く西東。


「我が師、三蔵法師様が最後に感謝をしておられた。その際に礼も言えずに申し訳無く思っていた。しかし、此度の訪問には驚かされたぞ、西東よ」


「いきなり来てしまい申し訳ありません、実は御願いしたい事があり、来ました」


 そう口にする西東の話を黙って聞く齊天大聖は、再度、煙管に火を灯した。


 口から吐かれた煙が天井に向かって消えていく。


 西東の話が終わり、齊天大聖は、頭の中で西東の話を整理していた。


 西東の話は強くなりたいから、仙人の修行をつけて貰いたいと言う悲痛な想いを語った物であり、齊天大聖は、少し悩みながらも、『アコを助けたい』と言う強い思いと悔し涙に心をうたれ、修行をする事を決めた。


「言っとくが! 仙人の修行を軽んじるれば、死ぬ事もある。天界と天仙界では、時の流れが違う、本当に消えて無くなる。覚悟は出来てるんだな?」


 厳しい表情が西東に向けられる。その表情に迷いはなく、真っ直ぐに見つめる視線に曇は存在しなかった。


「今、アコを助けるために何もしないなら、僕は死んだも同然です。僕は今より強くなりたい!」


 真っ直ぐに齊天大聖を見る西東を止めるものはない。


 話が終わるのを確認して玉龍が料理を運んでくる。

 座敷に置かれた巨大なテーブルに次々に運ばれる料理。満漢全席まんかんぜんせきを次々に平らげる齊天大聖。


「確り食え西東! この料理には、仙の為の薬膳や山菜が使われてる。天界の者が短期間に仙人に成るにゃ、確り食って体内から体質を変えるしかねぇからな」


 そう言われ無我夢中で料理を平らげていく西東、皿を積み上げ続けた時にフッとあることに気づかされる。


ーーいくら食べても、満腹にならない……何で……


 不思議そうに料理を見る西東。


「不思議に感じるか?」


 その問に首を縦に振る西東。そんな西東に齊天大聖が料理について語った。


 西東に出された 満漢全席は、全てが薬膳食を基本に作られていた。

 それは仙人の力を高める為に用いられる食材を惜し気もなく使う調理法を用いた究極の仙人食と言える。

 本来ならば、上仙や、神仙しか口に出来ない程、貴重な食材が使われていた。


「仙人になるんだろ! 俺に後悔させるなよ。西東!」


 その言葉は文字にすれば容易いが言葉にすれば重く、西東の心を引き締める事になった。


 天仙界の時間は天界の十分の一であり、西東が過ごした今までの時間を考えても、天界の1日にも満たいない時間であった。


 此処から西東の本当の修行が始まった。


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