最悪の別れ、スサノヲ再び。
西東の体が徐々に蝕まれ、手足が動かなくなり、アコと歩く事すら出来なくなってしまっていた。
毎日を泣かないように過ごしていたアコの精神は既にボロボロであった。
「アコ、僕は大丈夫だから、少し休みなよ。アコの方が倒れちゃうよ」
西東の日に日に小さくなっていく声をアコは必死に耳を澄ませながら聞き取ると、泣きたい気持ちを全力で押さえ付け、静かに頷いた。
「ありがとう……西東は優しいね……」
アコが握る手を西東が握り返す事はなかった。
静かに眠る西東はまるで屍の様であり、アコの心を抉るように現実が其れを突き付ける。
「西東……私ね……お仕置き人を辞めようと思うの……だってね、西東と少しなんだよ、少しだけ離れただけで、こんなに私の世界がかわっちゃったんだよ……」
西東の口が微かに動くが、既に声はなく、西東がその瞬間に喋れなく成った事を理解したアコは泣きながら笑っていた。
アコの精神の限界が越えたのだ。
「やあ、前切アコ。随分と素敵な表情に為ったじゃないか、最高に絶望的な場面に立ち会えて嬉しく思うよ」
アコの後ろから西東を覗きこむ様に姿を現したのはスサノヲであった。
「オマエ……西東を元に戻せ……私の西東を元に戻せェェェ!」
血走った目でナイフを握り締めスサノヲを押し倒したアコ。
そんな状況を楽しむ様に笑みをアコに向けるスサノヲ。
アコのナイフがスサノヲの首に突き付けられる。
「どうした? 私を殺したい程憎いんだろう、前切アコ」
下卑た笑み浮かべながらそう語るスサノヲをアコは殺せずにいた。
「西東を元に戻せ……今すぐに戻しなさいよぉぉぉ!」
「戻してやっても構わないぞ? 私なら簡単に西東大輝を元に戻せるからな」
その言葉にアコのナイフを握る手が一瞬緩んだ。
スサノヲがその一瞬でナイフを奪い取り更に馬乗りになっていたアコの首を片手で掴み、力任せにねじ伏せる。
「ウワァァァ、グハァ」
「呆気ないなぁ、前切アコ? 簡単に状況が変わってしまったじゃないか?」
「ぐそ、オマエなんか……ごろじてやる……」
苦しむアコの発言にスサノヲが笑い出した。
「今の状況で何が出来る! なんなら? 愛する西東の前でお前を辱しめても構わないんだぞ、前切アコ」
その言葉にアコの顔がひきつる。
「あはは。本気にするな、そんな事はしないさ、だが、このまま終わるには詰まらなすぎると思わないか?」
スサノヲが西東の方を向くと、必死にアコの方を見つめる西東の姿があった。
「やあ、西東大輝、大切な者を助けられない気分はどうだ?」
言葉を発せなくなった西東の表情は怒りと憎しみに歪んでいた。
「そう怖い顔をしないでくれ、私は君達とゲームがしたいんだよ」
スサノヲが西東とアコに語り出したのは、ルールであった。
「最初にどちらかに、私の元に来てもらわねば為らない、どちらが来るかな?」
アコと西東に拒否する余裕はなく、アコが自ら志願した。
「私が行くわ」
西東が首を横に振るうが、アコもまた、西東に対して首を横に振った。
「ならば、前切アコを連れていきましょう。ルールは簡単ですからよく聞いてください。西東大輝」
ルール、前切アコを西東大輝が解放できたら、西東の勝ち。只それだけであった。
西東は、話が終わった途端に急に激しい睡魔に襲われ、意識を失った。
西東が目覚めた時、アコとスサノヲの姿はなくなっていたのであった。




