サトリ、サトラセ、サトラレ、る
アコが西東に真実を言えぬまま、二日が過ぎた天界の朝の事、天界に投獄されたサトラセを脱獄させようとする、二つの影が刑務所に近づいていた。
「困った子ね、簡単な仕事の筈だったのに、私に手間をかけさせるなんて」
「本気に困った御姉様だよね? 見捨てちゃおっか!」
「駄目よ、早く助けないと、喋っちゃイケないことまで喋っちゃいそうだから」
二人の名は、サトラセの姉サトリと、その妹のサトラレであった。
サトラセを取り戻す為に姿を現した二人は、刑務所に堂々と正面から入ると、サトリが刑務所内の警備をしている人数と名前を読み取る。
サトリの心と精神の読み取れる範囲は半径二キロであり、刑務所に働く大多数の警備の名前をあっという間に調べあげた。
その情報を基にサトラレが呼び出し次々に、偽りの情報を流し続けたのであった。
『○○は、西ゲートに緊急集合せよ』
『○○の部隊は所長室に』
『○○は、今居る持ち場を決して離れてはならない』等内容は様々だが、サトラレの感情を乗せた言葉に逆らえる者は無く、皆が訳の分からぬままに逆らえず、サトラレの言葉を受け入れた。
「サトリ御姉様。準備OKだよ」
「なら行きましょうか、サトラレ」
二人は混乱する刑務所内に堂々と入り込み、サトラセの捕まる檻の前まで向かうとサトラセも、既に看守の一人に暗示を掛け檻の外に出てきていた。
「あら、自力で出れたのね?」
「えーー! せっかく来てあげたのに! サトラセ御姉様空気読まなすぎだよ」
サトラセと合流したサトリとサトラレは、直ぐに刑務所を後にした。
三人は、西東の居場所を調べると、直ぐに西東の元に向かうのであった。
「私、マジにあの子欲しくなっちゃったの、あのアコって女を今度こそ殺して、私が西東のアコになるんだから」
そう語るサトラセを見て、ニヤつく二人。
「そんなに面白い子なの? 飽き性のサトラセが随分と御執心じゃない」
「サトラセ御姉様は、人の物を取って壊すのが趣味な最悪の悪趣味女だから仕方無いですよ」
西東の元に向かうサトラセ達が最初に狙ったのは、アコであった。
アコの存在を消すことで、西東の精神を再度コントロールしようとしたのだ。
西東とアコを別々にする為にサトリがアコの精神を調べる。
調べ終わった後、サトラセが情報を基にアコへと暗示を掛けたのだ。
アコの目の前に居るサトラセを神父だと思わせたのだ。
サトラセの偽神父が、アコの元に行き、外に呼び出そうとする。
そんな偽神父にアコは、紅茶を出した。
「話はわかりました。では、御茶を飲み終わったら直ぐに外で話ましょう」
アコはサトラセの暗示を疑うこと無く偽神父の言葉を聞き外で話す事を了承した。
サトラセ達の思惑は、全ては上手くいっていた。一杯の紅茶を口にするまでは……
偽神父が、紅茶を口にした瞬間「アマ!」と声を出したのだ。
「甘い? 砂糖は健康的に普段の半分の量ですが?」
サトラセは、甘いものが苦手だった。
更にアコが一緒に出したケーキを無理矢理一口食べた瞬間に余りの甘さにサトラセの表情は険しくなる。
「神父様の大好物ですよね、『歯がなくなる程に愛してる』でお馴染みの『甘い堂』の激甘ケーキ。本当は、西東と伺うつもりで買っといたんですよ」
アコの言葉を聞く程に口に広がるココナッツミルクとメープルシロップの味にサトラセは我慢の限界であった。
「そろそろ、話をしにいきましょう」
ケーキと紅茶を残し、席を立つ偽神父にアコの目付きが変わった。
「アンタ誰! 神父様じゃないわね」
アコの言葉に動揺する偽神父。
アコは、神父が甘い物の為に世界を敵に回す存在だと知っていた。
そんな神父が甘い堂の激甘ケーキを残すなど天地が引っくり返っても有り得ない事であった。
直ぐに外に飛び出すサトラセ、その後に続くようにアコがチェーンソーを握り後を追う。
外には、偽神父の姿がなく、代わりにサトリとサトラレの姿があった。
「アンタ達は何者!」
アコの言葉にニヤリと笑うサトリ。
「私はサトリ、この子はサトラレ、よろしくね。前切アコさん」
サトリはそう言うと指を鳴らす。するとボロボロになった西東が姿を現したのだ。
「な、西東、なんで」
「アコ……ごめん、助けて……」
そう語る西東の元に走るアコ。
そして、アコは西東の元に走りながらチェーンソーのモーターを起動させた。
「え?」「え、!」「え?!」サトリ、サトラレと倒れている西東が声をあげた。
「教えてあげるわよ! 西東は私に助けなんか求めない! 最初はあんなに私を頼りにしてたのに、今は私を守ろうとするのよ! だから!」
アコのチェーンソーが西東の体を切断した。
「うぎゃあぁぁぁ」
断末魔と共に西東に化けていたサトラセが絶命する。
その光景にサトリとサトラレが慌ててその場を後にする。
恐怖であった、偽物とわかっていても簡単に切るなど有り得ない事である。
それを意図も容易く実行するアコにサトラレは、恐怖しか感じていなかった。
『ヤバイですよ、あんなの普通じゃない』
「丸聞こえよ、私が泣くほどお仕置きしてあげるわ」
「ひぃ、いや、イヤァァァ、来ないで!」
アコがニヤリと笑みを浮かべた。
「イヤァァァ!!」
サトラレの絶叫を聞き慌てるサトリ。
そんなサトリの前に一人の男が姿を現わした。それはスサノヲであった。
アコがサトリを捜していると、サトリの断末魔が響き渡った。
急ぎ駆けつけたアコが眼にしたのは、サトリの心臓を貫くスサノヲの姿であった。
スサノヲがアコに気付くとニッコリと微笑んだ。




