西東の無意識の裏切りとアコの心
西東の指も完全復活したと同時に西東の処分が決まる、三カ月間のお仕置き行為禁止と天界の監視下での生活を言い渡される事になった。
西東はその日から天界での一時的移住をすることになったのだ。
「さあ! 西東着いたわよ。此処が今日から私達の家よ!」
西東の監視役には、アコが選ばれていた。理由として、アコ以外の者が西東を制止するのが難しい事と無意識の西東がアコの存在のみを求めていた為であるとケルルロッテに言われた。
ケルルロッテに、風伯と鳴神の報告した内容から出された苦肉の策だと、西東は言われた。
しかし、西東はそれを笑顔で受け入れたのである。
西東からすれば、アコとまた暮らせる事実が何よりも嬉しかったからであった。
そんな西東が質問をする。
「それより、アコ? 神兵の方はいいの?」
「それがね、今回の西東の件が意外に大事みたいで、西東の警護も任されたのよ。嬉しいでしょ」
どや顔で西東を見つめるアコ。
「其れはごめんね、アコにまで迷惑をかけちゃったんだね」
西東は、自分のせいでアコの仕事内容が変わってしまった事実に少しショックをうけていた。
そんな西東にアコが「いいのよ、それに私は西東といれるの幸せだし」と一言口にした。
「ありがとう、アコ」
その日、必要な家具などは新しい天界の家に用意されていたので、仰々しい引っ越しはなく、西東の体一つで天界に引っ越す事になった。
西東は、長い悪夢から目覚めたような気持ちだった。
実際に西東の十日間の記憶は、曖昧でうっすらと覚えているのはアコの存在だけであった。
そんな西東は、若干だが、手に残るナイフの感覚と生温い血液の温度を覚えていた。
西東は、自分が何をしていたのかを思い出そうとしても思い出せず、頭を抱えていた。
天界に夜がやって来る。
「なぁ、アコ……僕は何をしたんだろう……数日間の憶が無いんだ」
料理をしていたアコの手が止まった。
「何してたっていいじゃない……西東は西東よ……だから忘れたままで、いいんだよ」
寂しそうな口ぶりでそう語ると、悲しそうに涙を流すアコ。
ーー何をしたんだろう……僕がアコを泣かせたんだ……
思い出せない事に対する自分への怒りに苦しむ西東の日々がそれから数日続いた。
そんなある日、天界の中を散歩していた西東とアコは、久々に神父の元を訪れていた。
軽い挨拶と世間会話を済ませ、帰ろうとする西東とアコ。
そんな西東を見て大声をあげる女の姿があった。
「殺してやるぅぅぅ!」
いきなり西東に飛び掛かってくる女。
状況が分からないままに結界を貼りガードしたが、女は無我夢中で西東に対して怒りを露にし続けていた。
「お前なんか死んじまえ!」
興奮する女は西東を何度も罵倒する。
「僕がいったい何をしたって言うんだ!」
西東が尋ねると女は鋭い目付きで西東を睨み付けると口を開いた。
「お前に私は!…………」
女が喋り始めた瞬間、後ろからアコが女を叩き斬ったのだ、余りの状況に女を地上に帰す為に警護していた天使と天鬼数人がアコを取り囲んだ。
「私に勝てるなら掛かってきなさい!」
ゆっくりとした口調で語られる言葉と更に怒りに満ちたアコの表情は天使達を凍りつかせた。
そんな中、現れたケルルロッテが事態の収集にあたった。
「アコ、何故! あんな事をしたの」
「私は、任務を果たしたまでよ! 西東に飛び掛かって来た時点で、あの女は敵よ」
アコは、間違ってはいなかったがケルルロッテはアコの言葉に違和感を感じていた。
「アコ、二人で話しましょう」
西東を他の天鬼に任せるとアコとケルルロッテが二人だけで話始めた。
「アナタ、西東さんの記憶を戻したくないのね……でもね!」
「ケルケルには、分からないと思う、分かる訳ない! たった十日で私の大切な人が他の女に取られたのよ……その愛する人が……他の女を抱いたのよ……」
「其れは…………」
言葉を掛けて解決するなら何度でも思いを言葉にして喋り続けるだろう、言葉の力を借りて解決するならばこの一瞬で一生文の力を借りたい、ケルルロッテはそう思いながらも、現実はそうではなかった。
「私も、わかってる……わかってるんだよ! でもね……赦せないの西東を一人置いてった自分も、西東を寂しくした自分も、自分が赦せないんだよ!」
涙を流し、叫ぶアコの姿を前に、ケルルロッテは下を向いて唇を噛み締めた。
「西東てさ、凄い奴なのよ、何でも直ぐに覚えるし、強いし、優しいし、頼りになるの……でも、凄く真っ直ぐで不器用で自分を責めちゃう奴なんだよ……」
眼に涙を溜めながらそう語るアコ。
「アコ……自分も、西東さんを赦せないの?」
アコがケルルロッテの問いに首を横に振り下を向く。
「西東が事実を知れば、きっと私を避けるわ……目も合わせてくれなくなるかもしれない……怖いのよ、それが一番怖いのよ!」
アコの知る真実は余りに衝撃的であり、アコは西東にその事実を只、隠したいとそう願っていた。




