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叱られて、ケルルロッテ

「はぁ、久々に腰を伸ばしたわねぇ。さてお話は此のくらいにして、聞き分けのない子には、キツイお灸を据えないとね」


ケルルロッテの肌にピリピリと感じる殺気にも似た天御中主神(アメノミナカヌシノカミ)の怒り、ケルルロッテの手に握られた薙刀を伝い掌から出た汗が数滴地面へと流れ落ちる。


天御中主神は直ぐに本来の姿へと自身の身体を変えていく。


顔は若くなり、肌は透き通る雪解け水のように白、白髪の髪は一瞬で腰までの黒髪にかわり、艶やかに輝く、その髪はまるで日食の一瞬の輝きを封じ込めたかのように黒光りしている。


「少し待ってなさい、直ぐに済ますわ」


口調まで若返った天御中主神の声は雪原を吹き抜ける風のように透き通る声であり、ケルルロッテは、動きたくとも動く処か、その場から1歩として微動だに出来ない状態であった。


そんなケルルロッテの目の前で肌を露にする天御中主神、その美しい姿から漂う甘い薫りは芳醇な美酒のようにケルルロッテの全身を痺れさせる。


天御中主神の全身に光の衣が纏われ、徐々に形を成していく、美しい瑠璃色の着物を全身に纏い、光輝く羽衣はまるで全てを写し出さんとするように輝いている。


「さっきまでの威勢はどうした?娘よ、そんな物欲しそうに顔を火照らせて居ては叱るに叱れんではないか」


ケルルロッテは、既に天御中主神の姿に戦意などはなく、吸い込まれそうに輝く真っ直ぐな天御中主神の眼をただ、見つめていた。


「仕方ないわね、私は仏じゃない、私の物になるなら三回目をあげるわ、武器を置いて此方にいらっしゃい」


ケルルロッテは、震える手からゆっくりと力を抜き、地面に薙刀が置かれる。

そして、言われるままにケルルロッテは天御中主神の元に静かに歩きだすと1歩1歩確実に近付いていく。


天御中主神の前まで辿り着いたケルルロッテの全身は震えながらも何かを期待する生娘きむすめの様である反面、叱られる覚悟を確りと決めた幼子おさなごの様にも見える。

天御中主神は其れを見て微笑むとケルルロッテを抱き締めたのである。


「悪い子、でもちゃんと反省したのね。もう無理しなくていいのよ、頑張ったわね」


その瞬間、ケルルロッテが泣き出した、そんなケルルロッテの頭を優しく撫でる天御中主神。


「貴女はいい子よ、もし、私の元に来たくなったらいつでもいらっしゃい、私は来るものを拒まない」


「……はぃ……」小さな声でそう答えるケルルロッテ。


そして、全ての時間は動きだし空気は元に戻っていく。


西東とアコの時間が動き出す。


御婆さんが天御中主神と知らない西東は、ケルルロッテとのやり取りを警戒したが、次の瞬間ケルルロッテが小さな小刀を地面に置く動作が眼に入る。


「そうですね…… 護身用でも駄菓子屋さんに小刀を持ち込むのはいけませんね。すみませんでした」


「わかればいいんだよ……危ないから使ったらダメだよ」


御婆さんとケルルロッテの会話が終わるとケルルロッテが小刀を御婆さんに手渡した。


「ねぇ西東、ケルルロッテも反省したし大丈夫じゃない?」


「あ、うん、でも…… 」


西東は御婆さんが言った『得物』っと言う言葉が本当にケルルロッテの持つ小刀を指していたのかが気になっていた。

確かに手に持たれていなければ姿は消えない、たが、其れを調べる手段が天界人になった西東にはなかったのだ。


天界人になった西東は既に天鬼であり、武器を意識しなくても見える、つまり小刀が人間に見えるか見えないかを判断出来なかったのだ。


現に今も、西東とアコの目の前にいるケルルロッテの手には、薙刀を確りと握り締めている。


「いきなり、すみませんでした。大切な物だったので、むきになってしまいました。失礼を御詫びします」


「分かってくれたら構わないよ、其れより仕事なんだろ?」


「そうでした、アコ、西東さんお話があります、申し訳ありませんが御時間を宜しいですか?」


ケルルロッテに言われるがままに駄菓子屋の外に出る西東とアコ。


「話ってなによ?ケルケル」


不思議そうに尋ねるアコ。


「実は、私は天界のやり方に疑問を感じているの……近いうちにお仕置き人を辞めようと思うの」


二人は耳を疑った。


「ケルルロッテ?どうしたのさ、何があったのさ」

「そうよ!ケルケルらしくないわ、まさか?本気じゃないわよね」


「やりたいことが見つかりそうなの」

二人の質問に笑い答えるケルルロッテは二人に頭を下げてから、姿を消した。


「西東……?本気なのかな、ケルケル」


「わからないけど、『やりたいことが見つかりそうなの』って言ってたから多分本気なのかも知れないね」


西東とアコは複雑な思いと疑問を胸に家路を急ぐのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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