駄菓子屋の御婆さん
日にちは瞬く間に過ぎていった。
西東とアコはその日のお仕置きを終了させると何時も立ち寄るスーパーで買い物を済ませ、夕陽を背に帰り道を歩いていた。
「ねぇ西東って、ずっとコンビニ生活だったの?」
アコの急な質問にに西東が少し申し訳なさそうに頷いた。
「まぁ、一人だとコンビニ生活が楽だからね、野菜もサラダとかで食べれるし」
「それって私が言うのもなんだけどさ?あんまり良くないわよね」
二人は互いの今までを振り返ると大きな溜め息を吐いた。
そんな二人も今では料理をして“禁コンビニ生活”をしている。
「そうだ、最近あっちの角に駄菓子屋さんを見つけたのよ、西東行ってみよ」
アコはそう言うと西東の手を引き少し早歩きになる。
西東は言われるがままにアコについて行く。
到着したのは普段通る道から二つ先の角にある小さな駄菓子屋だった。
駄菓子屋に書かれた文字には『あまなか』っと書かれており、小さく最中の文字が書かれている。
「西東、早く」っとアコに言われ中に入ると外装とは違い店の中はとても綺麗に整頓されており、入った途端に清々しい柚子の清々しい薫りが鼻の中を通り抜けていくようようであった。
西東はその不思議な雰囲気に何処と無く懐かしさすら感じていた。
「いらっしゃい」っと小さな掠れた声が店の奥から聞こえ、ゆっくりと小柄な御婆さんが顔を出した。
アコが満面の笑みで微笑むと直ぐに「いつもの」っと一言。
御婆さんが「はいよ」っと出したのは瓶のゴーラであった。
其れを受け取るとアコはポケットから150円を渡す、そして腰に手を当てて、嬉しそうにそして、豪快に飲み始めた。
「アコ…… ?いつものって何度も来てるの?」
「西東の居ないときに週に4回くらい?かな……あはは」
そんな会話を聞きながら御婆さんが笑いかける。
「いつも、こんな年寄りの店に来てくれるから嬉しいんだよ」
「なんのなんの、それに瓶のゴーラが置いてあるのは、お婆ちゃんの御店だけだから毎日でも来たいわ」
その時、駄菓子屋の扉が勢いよく開かれる。
そして、息を荒げたケルルロッテが姿を現したのだ。
予想外のケルルロッテの姿、そしてその手に確りと握られた薙刀は刃先は既に布が取られ、夕陽を浴びて光輝いている。
西東とアコが目を丸くする中、御婆さんの眼が鋭くケルルロッテを見詰める。
「おやおや、随分と物騒な得物を拵えて、此処は子供に御菓子を売る店だとわかってそんなもんを手にきたのかい?」
その言葉にアコは気づいていなかったが、西東はその言葉を聞き直ぐに気づいたのだ。御婆さんが人間ではないと言う事実。
ケルルロッテは天鬼の上であり、武器である薙刀は人間には見えないようになっているからだ、そして御婆さんには其れが確りと見えている事実、西東は直ぐにアコを後ろに下がらせる。
「ちょっと、西東?どうしたのよ、それに何でケルケルが此処にいるのよ」
「アコ、多分だけど、御婆さんは人間じゃないと思う」
いきなりの西東の言葉にアコが驚き御婆さんの顔を見る。
御婆さんは、アコの視線に気付き何時もの穏やかな顔をアコに向けるがケルルロッテに対する雰囲気は変わらない。
西東はその雰囲気に以前戦った閻魔天と同じものを感じたが、御婆さんは其よりも遥かに涼やかな雰囲気でありながら、より存在感のあるオーラにも似た雰囲気を出していたのであった。
「失礼を承知で来させていただきました。ですが!此方も仕事なので、どうか御理解を頂きたく思います」
ケルルロッテの額は既に冷や汗で頭に着けている鉢巻きは西東から見ても汗が滲んでいるのが容易にわかる。
「何度も言わせないでおくれ、此処は戦う場所でもなければ、得物を持って来る場所でもないんだょ、直ぐに其れを収めるか帰るかしなさい、三度目はないよ、お嬢ちゃん」
「私も子供の使いではないのです、どうか御聞き入れいただけませんか」
そう言うと御婆さんが深く溜め息を吐き、眼を見開く。
その瞬間、空気の流れが変わり、西東とアコの時間が止まる。
「さて、此れでこの子達には、私達の会話は聞こえないよ、そして、三度目だねぇ」
そう言うとケルルロッテと御婆さんの時間軸だけが流れを変える。
ケルルロッテが気づくと西東とアコの姿はなく、ケルルロッテと御婆さんだけの空間に転移していたのである。
「流石ですね、天御中主神様、御力は健在の御様子、嬉しく思います」
「なぁに、単なる年寄りにさせてくれない天界のせいじゃよ、哀しいが平穏な暮らし程、手に入りにくい物はないと随分と後にしったからねぇ」
そう口にした天御中主神は、曲がった腰を伸ばし、ケルルロッテに優しくも冷めたような眼で見つめ続けるのであった。
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