合格者は0です
西東が意識を取り戻し目を覚ますと体が縛られた身動きが取れなくなっていた。
「これはいったい?」
「目覚めましたね。西東殿、実は御願いがあるのですが些か問題がありまして」
そう言うとコガノエが西東な近付いてきた。
「話は聞きますから、ほどいて貰えますか?」
「此れはすみません、直ぐに」
コガノエが西東を解放する。
西東は治療中も閻魔天とまだ戦っているかのように無意識に暴れていたので拘束されたのだ。
「西東様、本題に入ります、今回の1件他言無用に御願いが出来ないでしょうか、此方の勝手な言い分なのは理解していますがお願い致します」
コガノエが深々と頭を下げる。
「わかりました、其れに元々口外するつもりはありませんから」
コガノエは真っ直ぐにそう言う西東に質問をした。
「ならば何故?閻魔様に戦いを挑まれたのですか」
「単純に悔しかったからです」
「悔しい?」
「アコが最初からチェーンソーがあったならとか、あのナイフがもう少し長ければとか色々考えました。ゆづちゃんには悪い事をしました。アコとの試合後で疲れているのに無理に戦わせてしまいましたから」
「ならば他言無用の件は了承いただけた訳ですね。其れは此方としては喜ばしい限りです」
「あと、ゆづちゃんに会わせて貰えませんか?」
「構いませんが?私も同伴しますが問題ないですか、今の状況で二人きりにするのは些か」
「わかりました。では、お願いします」
西東とコガノエが閻魔天の部屋に近づくと部屋の中から物凄い威圧感が駄々漏れになっており、部屋の前にある通路にすら警備が立てない程であった。
「あの、コガノエさん?あれは何ですか」
西東が指差すとコガノエが頭を抱えるようにして口を開く。
「実は西東様に負けてからずっとあの調子でして」
西東が扉を開け中に入ると、部屋の中央に体育座りをしながら、ぶつぶつと下を向き独り言を言う閻魔天の姿があった。
「すみません、閻魔様、お客様が……」
「うるさい!妾は客に等会う気はない帰らせよ!」
「かしこまりした。では、西東様にはこのままお帰りいただきます」
西東と聞き、閻魔天が頭を上げ立ち上がる。
「やあ、会いたくないなら日を改めるよ。いきなり来てごめんね」
そう言い部屋を出ようとする西東。
「待つのじゃ!気がかわったのじゃ、話くらい聞いてやるぇ」
西東をそのままに閻魔天はコガノエを無理矢理、部屋の外に追いやる。
「それで?話とは何じゃ!褒美の事なら好きな物を申せ、約束じゃからな何でもくれてやる」
「なら?ゆづちゃんに僕の言うことを聞いて貰おうかな?」
「構わぬが何が望みじゃ?」
「簡単です、明日から行われる試験者にゆづちゃんの強さを示して欲しい」
「それだけかぇ?」
「それだけです」
「よく分からぬのぅ?取り合えず飯を摘まみながらに話を進めよう」
そう言うと閻魔天が事実に料理を運ばせる。
二人で食事をしながら西東は詳しく閻魔天に話をした。
「本気でそんな事をしろと申すか!アハハ!西東御主は恐ろしい事を考えるのう?だが面白い!その願い聞き届けるぇ」
「よかった、僕は恨まれても構わないので。其れに試験もスムーズに進みますよ」
西東と閻魔天の話し合いが終わり、次の日が来る。
会場の前に集まる試験者達にルール変更が伝えられる。
リング内での持ち時間は60秒。
リングから落ちるか戦闘不能になったら負けとする。
此れが新ルールであり。
次々に試験者が会場の中に通されていく。
中では閻魔天がリングに立ち、試験者と戦っている。
「ホレホレ!妾から1分逃げれば勝ちじゃぞぉ!」
「ウワァァァ」
次々に天に飛ばされる試験者達。
閻魔天が西東の存在に気づきチラッと西東を横目に見る。
西東は其れに気づくと手を振った。
「さあ!次じゃ」
最後には閻魔天が3人ずつを相手に数十秒で勝負を終わらせていた。
この日合格者は0であり、閻魔天との戦闘で30秒持ちこたえられた者は数名であり、殆どが最初の一撃でリングアウトか天界送りにされたのだった。
試験終了後の閻魔寮に西東が呼ばれ、閻魔天が西東に神父への報告書とアコへの手紙を託された。
「御世話になりました。またねゆづちゃん」
「天界に飽きたら、いつでも地獄に来るがよい!妾が一生面倒をみてやるからのぅ。去らばしゃ西東」
西東は軽く会釈をして地獄を後にした。
そして、天界に行き神父に閻魔天からの報告書を渡すと神父が苦笑いをした。
「まさか、これ程厳しい結果になるなんて、初日と違い二日目は合格者0ですか、参りましたねえ」
神父の溜め息混じりの声を聞きつつ神父の元をあとにする。
西東が帰った後直ぐに神父が事務に連絡をする。
「地獄から、前切 アコと西東 大輝を天鬼の上にする様にと連絡があってね?西東さんに関しては異例なんだけど、通してね。神父命令ね!」
神父は驚いていた。
閻魔天からの名指しの合格者並びに昇格にアコだけでなく、西東の名が記入されていたからだ。
「西東さんを上げるかわりに、他を犠牲にした?なんて、考えすぎですね」
神父が少し考える最中、西東はアコの元へと急ぐのであった。




