最強の策士の反撃
アコが目の前で光になり天界へと上がっていく姿を見た西東はあることを心に決めた。
そして天界人と鬼達が退場したリングの中に一人、西東は座って考え事をしている。
そんな西東の元に閻魔天とコガノエが姿を現した。
会場の扉が静かに閉まり、ゆっくりとリングに向かい歩みを進める閻魔天とコガノエ。
「西東よ!妾を呼び出すとはいい度胸じゃな?なんのようじゃ」
「相変わらず強気だね、ゆづちゃん、でも今日は僕も強気でいかせて貰うよ、僕とも戦ってほしい」
閻魔天とコガノエは西東の言葉に驚きを隠せなかった、それと同時に無謀としか感じなかった。
「西東?お主!妾を愚弄する気か、なぜ妾が訳もなくお主の我儘を聞いてやる必要がある!」
「ゆづちゃん、前に『獄六』で僕に借りがあるよね、それに僕はお願いしてるんじゃない。
僕と戦うか負けを認めて引き下がるかの2択だよ、少なくともこの会場に居た皆は信じる筈だ!僕にゆづちゃんの威圧が効かなかった事実を目の当たりにしてるからね!」
「妾を脅そうと言うか?西東、妾はお主を買い被り過ぎていたようじゃのぉ、これ程の愚か者であったか!勝負など受けぬ、直ぐに立ち去るがよい」
しかしコガノエが閻魔天を止める。
「閻魔様、今戦わねば西東殿の言う通り、悪い噂が広まります。どうか受けてください!」
コガノエに説得された閻魔天が渋々リングに立つ。
「ほれ、来てやったぞ!早く始めるえ!妾は忙しいのじゃからのぉ」
西東は閻魔天に軽く会釈をする。
「始めますが、そのままの姿で大丈夫?ゆづちゃん」
その言葉に閻魔天の眉間にシワがよる。
「西東…… 妾に本気で戦えと申すか!」
「いえ、でも僕は勝つ気で戦います。負けた理由に「本気じゃなかった」と言われたら困るので」
閻魔天が更に怒りを露にすると閻魔天の体が霧に包まれる。
「よかろう、本気で相手をしてやるわ!西東よ!貴様が負けた暁には地獄巡りを100回して貰うぞ!」
「わかりました。僕が勝ったら僕の言うことを聞いて貰うよ?いいねゆづちゃん」
「詰まらぬ戯れ言を!寝言は寝て言うから可愛いげがあるのじゃ!起きて語るは愚か者の戯言と知れい」
コガノエが審判となり試合が非公式に開始される。
閻魔天がアコの試合で見せた『圏』を手に西東に襲い掛かる。
コガノエはこの一撃で勝負がつくと確信していた。
結界師である西東がどれ程ランクを上げようとも、格上の戦闘タイプである閻魔天の攻撃を避けるのは不可能だったからである。
「妾に挑んだ事を勇気と思うでないぞ!西東よ其れは無謀と言うのじゃ!」
「ゆづちゃんも僕を嘗めすぎだよ!ハアァァァ!」
閻魔天の前方に結界が現れ直ぐに閻魔天が結界を交わす、再度西東が結界を発動する。
閻魔天が西東に距離を積める迄の間に結界は全部で五回発動された。
しかし全てを交わしながら閻魔天は西東の目の前に姿を現した。
「くそ駄目か!」
西東がガードしようと手を前に移動させる。
「遅いわ!西東終わりじゃ!」
「うわぁぁぁ。なんてね!ハアァァァ!」
閻魔天の攻撃が西東に向けられようとした瞬間、西東の指が高速で印を組む。
その途端に結界が次々に造り出され、閻魔天は警戒し後退する。
しかし後退した先には先程の結界が貼られている。
結界を交わしながら閻魔天は自身が追い込まれていることに気付くが既に西東の術中に閻魔天は囚われていたのだ。
閻魔天はダメージを覚悟して結界の破壊に向かうも閻魔天の攻撃を受けた結界が破壊される事はなかったのだ。
「いったいなんじゃ!何をした!何故、妾の攻撃に天使の結界が壊せぬのしゃ」
西東は閻魔天を結界に閉じ込めた瞬間に四方の結界を三枚づつ隙間なく縦に横に貼ったのだ。
西東が昇格して使える結界の数は30になっており、今の時点で22枚の結界を発動していた。
「ゆづちゃん、降参する?」
「ふざけるな!妾が天使のしかも結界師に敗北など認めてたまるか!」
「わかった……ごめん、多分痛いよ」
西東はその瞬間に閻魔天の頭部の位置に結界を造り出す。
閻魔天はしゃがむ他なく、身体を低くする。
更に西東は結界を貼ると閻魔天は更に体勢を低くする。
既に身動きがとれない閻魔天は自身の武器である『圏』を振るうことすら出来なくなっていた。
「最後だよ……降参して」
西東の冷たい眼が閻魔天に向けられる。
「妾が妾が!負けを認めてタマルカァァァ!ウワァァァ!」
閻魔天の奇声と同時に凄まじい炎が結界を引き飛ばす。
「ハァハァ、妾が!負けてたま……る……」
西東は爆発と同時に結界を自身の盾として使い一気に閻魔天の懐に飛び込むとアコのチェーンソーの砕けた刃を握り締めたまま、閻魔天の心臓部に突き立てたのだ。
凄まじい血がリングに流れ落ちる。
「そ、其れまで!閻魔様」
コガノエが試合終了を伝える。
そして閻魔天に駆け寄ったコガノエは試合を止めさせられた事に気付かされた。
閻魔天の心臓部には小さな傷があるだけで殆んど出血はしていなかったのだ。
西東は閻魔天の心臓を刺すようにコガノエに見せてから結界で拳を包むと閻魔天の腹に其れを叩き込んだのだ。
そして刃を握っていた手をその刃で貫き大量の出血があるように見せたのだ。
「ハァハァ、ごめんね、ゆづちゃん、其れにコガノエさん、流石に限界だ……」
西東がその場に倒れると直ぐに閻魔天が救護班を呼ぶ。
西東が閻魔寮に運ばれて行った。
閻魔天も会場をあとにして自室に移動した。
其れから閻魔天は自室にコガノエを呼ぶと質問をする。
「のう、コガノエ?あの時、西東が拳でなく、刃を握る手を結界でガードしていたなら妾はどうなったかのぉ」
「それは」
コガノエが閻魔天の質問に言葉を濁す。
「よいから、素直に申してみよ」
「はい、間違いなく心臓を貫かれ、天界の神父様の元に運ばねばならなかった筈です。最悪、閻魔交代もあり得ました」
「そうか、西東か…… 天使の顔をした獣の様な男じゃな、まさかこれ程の策士が天界に居るなんてのぉ、ふふふ、もうよい。すまなかったなコガノエ下がってよいぞ」
コガノエが部屋を出ると閻魔天は胸に刻まれた小さな傷を手でなぞるのであった。




