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勝者か敗者 天使と閻魔のガチバトル

アコは試験前にケルルロッテから薙刀なぎなたを借りていた。


「アコらしくありませんわね、何時ものチェーンソーを取り寄せてもらえばいいじゃないの?」


「実は今、天界で刃を交換してるのよ、まさか試験がこんなに早く開始されるなんて思ってなくて」


アコはチェーンソーをオーバーホールに出していた。

その為、ナイフのみを装備していたが流石に試験をナイフのみで勝てるとは考えていなかった。

その為ケルルロッテの薙刀を借りていたのだ。

しかし、アコは薙刀を借りて正解だったと確信していた。

どんなに強い言葉を並べようとも、実力には関係ない。

閻魔天 湯卯覇から痺れるように伝わる威圧感は強者の放つ者であり、心の弱い者であれば直ぐに膝をつき許しを乞うことだろう。


試験が開始されるとアコは更に閻魔天からの威圧感が高まるのを全身に感じる。


「さぁ!掛かって来るがよい、妾は逃げも隠れもしないぇ、其れとも先ほど迄の威勢ははったりかぇ?」


「少し黙りなさい、今考え中よ、其れとも?私を怒らせないといけない訳でもあるのかしら?」


アコは考えていた。

間違いなく閻魔天は強い、ミスったわ、まさかあんなチビ閻魔がこんなに凄い威圧感を出してくるなんて。


「やるしかない」

アコが小さく呟く。


「何をやるのかぇ!来ないなら此方からしかるのみじゃ!行くぞぇ」


閻魔天は両手に巨大な扇子せんすの様に加工されたけんと言う武器を握り締め、いきなりの猛攻を開始する。


そしてアコまでの距離を一気に縮めていく。

疾風の如く迫る閻魔天がアコの目の前に姿を現す。

アコは直ぐに回避しようとするが閻魔天は更にその後ろに回り込みアコを翻弄する。


「コラ!チビ閻魔、アンタねドンだけ耳がいいのよ」


「フフフ、妾は地獄耳でな、地獄全ての事が分かる!走る瞬間の踏み込みの音も切り返しの音も全て聴こえる妾からは逃げ切れぬぞ!」


アコの足がどちらに向くかで回避しようとする方向を判断し先回りをされている事にアコは直ぐに気付くも対処法が見出だせないでいた。


アコは直ぐに壁側に移動すると動きを止める背中を壁につけると薙刀をリングに立てるようにして握り直した。


「なんじゃ?追いかけっこは終わりかぇ、まぁ構わぬ!行くぞアコ」


閻魔天がアコに迫る瞬間にアコは目を瞑る。

神経を耳に集中し、全身の力を防御に回すように力の入れ方を変える。


閻魔天の攻撃がアコに当たる瞬間にアコが全力で薙刀を上に振り上げる。

僅かな風が閻魔天の圏に若干のズレを生み出した。

その瞬間にアコが全力で叫び声をあげた。

「セイヤァァァァァァ!」

閻魔天は至近距離から予期せぬ奇声を聞かされ直ぐに地獄耳を解除しようとするがその隙にアコが薙刀を会場に設置されたドラに向けて投げ放った。

薙刀がドラに直撃する『グオオンンンン』と会場内に凄まじい音が鳴り響く。


閻魔天は発狂する。

閻魔天の地獄耳の中で爆弾が爆発したかのような衝撃が竜巻の様に巻き起こる。


閻魔天が膝から崩れ掛けるとアコがナイフを手に握り閻魔天に向けて走り出した。

「これで決める!行けぇぇぇ!」


閻魔天は走り来るアコを見て肝を冷やすも、直ぐに圏を握り盾のように自身の体に引き上げる。

アコのナイフが途中で止まる。

ナイフから若干の血液が滴るのが分かる、それと同時にアコは気づいたのは、傷が浅すぎる事実である。


「ハァ、ハァ、惜しかったのぉ、流石に妾も焦ったわ」


「本当にあと少しで泣かせたのに、本当に残念だわ」


会場内に針積める空気。

見ている天界人と鬼達は固唾を飲んで勝負のよく末を見守る。


しかし、アコの武器はナイフ、それに対して閻魔天の使う圏はその3倍の長さがあり、アコの敗北を皆が確信した。


そんな時、試験会場の扉が開く。


「おーい、アコ?大丈夫か」


その声に皆が扉に注目する。


そこには西東の姿がありその手にはアコのキャリーバックが握られていた。


西東が直ぐにアコの方に向かい階段を降りていく。


そしてキャリーバックの中からチェーンソーを取り出すとリング内に突き立てた。


「僕が出来るのは此処までだから」


直ぐに西東を捕まえに警備隊がしたに降りようとしたが、下に行き着く前に次々に意識を失っていく。

閻魔天の出す威圧感に警備隊が耐えられなかったのだ。


「あれ?すみません!コガノエさん、クルノ!それにケルルとクーウェンさんも手伝って。危ないからこの人達を出さないと」


リングに続く階段に足を踏み入れたケルルですら意識を失いそうになる状況下で西東は普通に警備隊の救助を開始する。


ケルルが驚いた様にコガノエやクルノそして閻魔天もが動揺していた。


その隙にアコが突き立てられたチェーンソーを手に取ると直ぐに閻魔天との試合が再開される。


「全くもって不思議な男よのぉ、あの西東と言う男にはいつも驚かされるのぉ」


「同感だわ!西東の凄さは物差しじゃ計れないのよ、私が言うんだから間違いないわ」


「凄い自信ではないか?羨ましいきづなじゃのぉ、だが奇跡は起きぬ!妾が閻魔天、奇跡すら妾の前では恐れ逃げ出すのが世の道理と知れるがよい!」


「私は天使よ?奇跡を信じるのも仕事なのよ!ウオリャアァァァ!」


凄まじい金属音、互いの武器が正面からぶつかり合い擦れながら削れ崩れさる金属の虚しい音色が会場に響き再度繰り返しぶつけ合う猛攻の渦。


互いに小細工無しのぶつけ合い。

只無邪気に子供がチャンバラをするようにアコと閻魔天は笑っていた。


「楽しいのぉ!楽しくてしかたないわぁ!アコォォォ!」


「私もよ!チビ閻魔、でも負けないわ、行くわよ!ユヅハァァァ!」


「「ウオリャアァァァ!」」


互いの武器がぶつかり合った瞬間、アコのチェーンソーの刃が砕け散り、チェーンが宙に舞う。

そして閻魔天の圏がアコを切り裂いた。


「楽しかったぞアコ。ソナタは合格で間違いなかろう、妾が確かに前切 アコの実力を確かめたのじゃからな」


アコの体が光輝き、天界に向かい消えていく。


「ふぅ、今日の試験は此れで終いじゃ!まだ試験をしてない者は明朝、会場の前に集まるがよい!以上、解散!」


誰もが閻魔天の言葉に口答えする者はいなかった。

アコとの戦いで見せた閻魔天の凄まじい戦いぶりは天界人だけでなく、鬼達にも衝撃を与える者であり、コガノエの考えは当たった。

そして更に皆の脳裏には閻魔天の威圧の中を平然と動いていた西東の存在が刻まれることになったのだった。

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