↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんの変哲もない話  作者: スサノワ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/2

なんの変哲もない手紙

「先生ーっ。コヘージくんが授業中に、お手紙(・・・)を書いてましたー」

 クラス一の陽キャ。キジカさんが授業後に手をあげて、そんなことを宣(のたま)った。

 満面の笑みに、やや尖(とんが)った唇(くちびる)。手にはハートのシール付きの封筒。

 したたたたっ、まるで忍者のような足どり。


 ガタッ――机をさぐるも、紙ぺら(・・・)が無い!

「え? いつの間にっ――ちょっと待ッ」

 声が、うらがえった。

 ドタバタタッ――必死にかけよるも、時すでにおそし。

 陽キャは楽しそうに、忍者のような手つきで――しゅるるるるっ!

 教壇へ向かって、お手紙(・・・)を飛ばしてしまった。


 ややななめ&左後方。死角からのピンク色(しゅりけん)。

 ソレを見もせず、指二本で受けとる国語教師。


「手紙とは、コレのことか?」

 五時間目の授業を終えた彼女が、くるりと教卓へ引きかえす。

「宛名(あてな)はないようだが――シュパッ!」

 ふところから取りだした短剣……短剣風のペーパーナイフで。

 封筒をひらき、二つ折りの手紙(・・)を広げてみせる、年の頃は20代前半。


 見た目はいつも、ちょっとした夜会に行くような、仕立てのよい装(よそお)い。

 生徒にもわかる特別な装い(ラグジュアリー)は、彼女が資産家であることをやんわりと(・・・・・)伝えてくる。

 ケモミミが突きでたような変わった髪型(セミロング)もあいまって、非常に素敵である。

 そんな彼女が、ちょっとした刃物(ペーパーナイフ)を片手に、ニタリと笑う。

 その迫力に教室が、静まりかえった。

 そしてアレは間違いなく、さっきまで僕の机の中にあった、原稿用紙だ(・・・・・)。


「ふむ――妙齢の女性をあらわす表現として、正しいのかどうかまるで自信がない。だが――」

 そんな文面を、よどみなく朗読しつつ。

 黒板の下(した)に立てかけられていた、折りたたみ式の踏み台が。

 ドカッ――カシャン!

 蹴飛ばされ、瞬時に機能を発揮する。


 トンと踏み台に乗った妙齢の女性が、腕をのばす。

 シュカッ――袖(そで)から飛びだすチョークホルダー。

 カッカッカカカカカカカカカリカリカリカリリッ!

 黒板、最上段から埋められていく、フォントのような文字。

 正確な筆致、ざわめく教室。


「――立てば芍薬(しゃくやく)、座(すわ)れば牡丹(ぼたん)、あるく姿は百合の花などという――」

 とまらなくなった、朗読ならびに板書(ばんしょ)。

 書いていたのは手紙ではなく、よりにもよって小説の冒頭部分(・・・・・・・)。


「先生、六時間目は、このままLHR(ロングホームルーム)で良いですか?」

 おそらく青い顔をしてるだろう僕をしりめに、うしろの席の学級委員長が進みでた。


「――彼女の瞳は夏(エウターテ)であり、太陽(ヘリオス)であり――LHR(ロングホームルーム)である」

 明朝体(等幅)の印字が止まる。

 委員長から、そっと手渡される黒板消し(ダストレスラーフル)。


『LHRである』を消して、教室を振りかえる我が2年C組担任。

「日直は日誌と議事録をもって、6限開始3分前に集合するよーに♪」

 ニチャァと舌なめずりをする、妙齢の国語教師。

 ウチの担任は認知言語学とやらを修めた、博士(文学)であり。

 御多分に漏れず、活字ジャンキーである。

 昨今(さっこん)の国語教師は、そうでもなければ務(つと)まらない……のかもしれない。


 奇(く)しくも黒板横の、『本日の日直』欄。

 右側に書かれた名は、雉呵(きじか)さんで。

 左側に書かれた名は、小丙路(ぼく)だった。


   §


「それでは各自、休み時間に入ってくださーい」

 という委員長の号令により、「ははーい」と解放される生徒一同。

 がやがやがやがやや、わいわいわいのわい♪


「ヘージー、80円コーヒー要るかー?」

 ウチのクラスのLHRは、基本的に飲みもの自由である。

「たのむー、あとで払うからー」

 うぇーい。

 教室を出て行く友人(モブキャ)たち……陰キャやモブでは味気ないから合体させ、自分も含めて〝モブキャ〟と呼んでいる。

 そして80円コーヒーというのは、西階段下の自販機で売ってる超お徳用で。

 480㎖(ミリ)も入ってるが、ソコまでおいしくはない。


「あら良いわね。誰かアタシにも、コーヒーお願いできるー?」

 印字(ばんしょ)の折りかえしで、踏み台をおりる妙齢。

 ゆれるケモミミが、びょんと弾(はず)む。

 教室(みんな)へ振りかえるも、原稿用紙から目は離れない。

 大ぶりの角形ホルダーから突きでた、炭酸カルシウム。

 その尖った先端が、視線とともに狙いをつける。


「音声入力:電子決済コマンド/ジュース二本分譲渡」

 (手が放せないので)口頭で入力された、個人決済システムが電子音(チチチッ♪)を奏(かな)でた。

 腕輪型デバイス(ほそうで)が持ちあげられ、きらめく光彩。

 おごるから自販機(ベンダー)まで走れ、と言うことだ。


「じゃぁ、私行きまーす♪」

 Ph.Dケモミミ氏と目が合い、名のりでる雉呵(きじか)さん。

 先生がいつも飲んでいるのは、職員室よこの自販機のやつだから――

 なんと240円もするプレミアだ。

 入学当初に一回飲んだけど、ただただ苦くて大人の味だった。


「ジカちゃん、私もおいしいコーヒー(・・・・・・・・)が飲みたぁいわ♪」

 教卓に置かれたピンク色の空封筒(からふうとう)を、つまみ上げる委員長。

 何その甘えた声色(こわいろ)。男子たちが震えあがってるじゃんか。

「わ、わかったわよ。もしも売り切れてたらナシだからねぇ――!」

 スマホをかざし――チャリィーン♪

 先生の腕輪(デバイス)から代金(コマンド)を受けとり、走りだす陽キャ(きじか)さん。


 僕は雉呵(きじか)さんの机の上から、日誌を回収し。

 黒板よこの用具入れから、LHR議事録をひっぱりだす。

 それを教卓の上に置きつつ、委員長の顔色をうかがった。

 ズイと顔をのぞき込んでやるも、目をあわせない。


 やっぱり委員長(かのじょ)が、雉呵(きじか)さんの差し金(がね)(いまのプレミアムコーヒー代で)で、僕の机から持ちだしたと考えるのが自然だ。

 くそう、やってくれたな。

 あと、なにそのカワイイ封筒。小説って言うのがバレなくて、良かったけどさ。


   §


「これなんて、公開処刑?」

 左右スライド式の引分式黒板上に、複写されたのは。

 授業中にしたためた、原稿用紙2枚分。


「被告人は、まえへ」

 委員長の冷徹な……いつもの声。

 高校二年生にもなって、お誕生日席(・・・・・)へ座らせられた。

 手もとにはプレゼント……ではなくB5横書きの、400字詰め原稿用紙。

 駅前の文具書店で、3冊198円だった特売品。綴られたのは偽装ラブレター。

 突っかえされたのは紙ぺら一枚で、のこりの一枚は担任教師が。

 いつまでも、ためつすがめつしている。


「ふぅ、もう好きにしてよ」

 もはや観念するしか道はない。

 せめて傷をあさく、嵐が過ぎさることに注力するのだ。


 僕が書いていたのは、実のところ小説の冒頭(・・・・・)だった。

 この短編の締め切り(・・・・)は、本日17:59まで。

 まったくもって、ついてない。

 見つかった相手が、とても悪すぎたのだ。

 窓ぎわの雉呵(きじか)さんの席を、にらみつけてやる。

 ニンニンと刀印(いん)をむすぶ、しぐさ。

 くそう、ちょっとかわいい……じゃなくて、やってくれたなっ!

 なにその忍者押し、君ん家は透波(すっぱ)の家系なの?


 彼女はこういう、いたずら好きなところが、たしかにある。

 けれどこういう(・・・・)、人の恋路をからかうような、質(たち)の悪いことは絶対にしない。

 つまりあの陽キャな女子生徒は、あの手紙(に偽装したの)が。

 〝恋心をしたためた手紙〟などではなく、僕の創作物(・・・)だと言うことを知っているのだ。


 黒板全体の1/3サイズの、横スライド式黒板。

 そこへ綴(つづ)られたのは、なにを隠そう。

 われらが2年C組担任教師、物部文虎(ものべふみこ)――

 その人を正確に的確に、冷静に客観的に。

 私的に詩的に、指摘したものである。


 この一枚目だけを見るなら、たしかにあの(・・)――

 生徒だけでなく教師陣からも、絶大な人気をほこる――

 猫のような容姿、猫のような性格、猫のような立ち振る舞い。

 やや田舎の公立高校には到底、不釣り合いな。

 明晰な頭脳を鼻にも掛けない、人となり。

 すこし恐いけど実直でエキセントリックで、〝言葉〟に傾倒する美人。

 そんな国語教師を褒め称え、愛を綴(つづ)る文章(てがみ)にも見えるだろう。


 この物語(ものがたり)はただただ、惚れた相手の素晴らしさを謳(うた)っているのだから。

 なんせモデルにしたのが、この国語教師その人で。

 どういう解釈をしたとしても、性別身長体重。スタイルから普段の装(よそお)いや話し方。

 すべてが彼女を、謳(うた)っているのだ。

 一匙(ひとさじ)の誇張や、一抹(いちまつ)の憂(うれ)いや照れかくしや、一切(いっさい)の忖度(そんたく)なしに。

 授業中の彼女の容姿や様子や性格を、あますところなく正確に――だ。


 書いた本人(ぼく)が言うのだから、まちがいない。


   §


「出席番号6番、小丙路兵二(こへいじへいじ)少年」

「はい、何でしょうか?」

 見つめ合う教師と生徒。


「君は私のことが、好きなのかね?」

「いえまったく……じゃなかった」

 スッパァァァァァンッ――――♪

 抜き放たれた伝家の宝刀。

 厚紙製の聖剣ハリセンが、火を噴き。

 僕の頭頂部から白煙が、立ちのぼる。


 ガラガラガララララッ――スライド式の引分式黒板が、すっぱぁぁん!

 横へ退かされた。

『破落戸(ゴロツキ)まがいの傍若無人。口を開けば罵詈雑言(ばりぞうごん)、立てば癇癪(かんしゃく)座れば愚鈍(ぐどん)。歩く姿は毒の花とまでいわれ』

 あらわになる、小説の二枚目(つづき)。


『そんな彼女の立ち振る舞いはまさに、唯我独尊であり、じつに不遜であり』

 スッパァァァァァンッ――――♪

 抜き身の伝家の宝刀。

 厚紙製の聖剣ハリセンが、ふたたび火を噴き。

 僕から白煙が、ふたたび立ちのぼる。


「痛ぃ……」

 痛くはないが言っておく。

 よろけたフリで鞄をさぐる。

 まだだ、まだバレてない!

 この小説の――本質(・・)は!


 買った原稿用紙に、はさまってた――

 〝募集要項(・・・・)〟が書かれた、あのチラシ。

 鞄の中に入れたはずなのに――ガサゴソ。

 見つからない、さがせさがせ。

 見つかる前にアレだけは、処分しないと。

 やばいやばい、どこいった!?

 誰かが隠したのかぁ!?

 そうなら、そのまま隠しておいてくれぇ!


「にゃぉぉぅぅぅん♪」

 ん? 何いまの?

「なぁに、いまのカワイイ鳴き声?」

 雉呵(きじか)さんが反応した。

 僕の空耳じゃないっぽい。


 がやがやがや――っちいった――てっ!

 わいわいわい――こちゃぁ――てー!

 廊下が騒がしい。

 コッチは、それどころじゃないんだって!


「ぅっぎゃぁぁぁぁぁっ――――!?!?」

 足下に何かがまとわりついたので、叫んでしまった!

 見ればそれは、うごめく灰色基調(ダークグレー)の短格子(パーケット)木目調床材(フローリング)!?


「ちがうっ!? ユールじゃんか!」

 保護色(カモフラージュ)におどろき、つい名前をよんでしまう。

 力が強いから引き戸なんか、かるく開けて、どこにでも入ってくる。

 壁下の換気窓がひとつ、開けられてた。


「小丙路(ヘージ)んちの猫だ!」

 そう、ウチの猫だった。

「あ、ホントだ!」

 バレる!

 この友人(モブキャ)どもめ!


「ヨウラコットゥリン……普通の猫(イエネコ)?」

 背後から忍びよった認知言語学の大家(たいか)が、巨大猫(ユール)をスッと持ちあげた。

 おとなしいままの大荷物(ユール)を教卓へのせた、Ph.Dケモミミ氏(たんにんきょうし)が。

 満足げな表情を浮かべる。


「ゴゥロゴロゴゥルゴロロロッ――にゃおぅぅん♪」

 すさまじい重低音。

 上機嫌なウチの猫が、くわえていた紙切れを落とした。

 それは僕が探していた、チラシだった。


「おや? 君もボクに手紙をくれるのか……い?」

 教卓の上、巨大家猫が落としたチラシ。

 目を細めるケモミミ氏。


『わがままだけど超カワイイ♪

 ついつい許しちゃう――我が家のプチ暴君、

 家猫(イエネコ)ちゃんモチーフの短編を募集しています。』

 群がるクラスメートたちに、揉みくちゃにされ。

 とてもチラシの回収は、叶わなかったOrz


   §


「つまり?」

「自分ちの猫ちゃんモチーフの短編小説を書くのに」

「動物描写が苦手で」

「普段から横柄……じゃなくって」

「猫ちゃんのようにわがまま……ステキと定評のある」

「物部(ものべ)先生を、身代わりに」

「描写したと?」


「はい、ごめんなさい」

 関係各位へ、謝罪した。


「にゃぁぁぁん?」

 どしどしと、太い前足でチラシを踏みつける、ウチの猫。

 肉球に踏まれる、長毛種の猫写真。

「あー、家猫って別の猫の気配を感じると、嫉妬するわよね」

 委員長が助け船じゃねぇ……キラーパスだ!


「はい、有罪(ギルティー)!」

 本人により、言いわたされる判決。

 ケモミミがピコピコとうごき。

 アッシュグレーの髪を、なびかせた。


「フシャァァァッ――!」

 ベロアのようなどっしりとした陰影(ねこのかたち)が、尖(とが)った。


「プフフッ、浮気がバレた彼氏みたいだよー、コヘージ君♪」

 そんな雉呵(きじか)さんの所見など、聞くまでもない。


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「意義なーし!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 クラス女子たちからの、満場一致。

 罪状は、担任教師と飼い猫の。

 乙女心×2を謀(たばか)った、恋愛倫理規定(レギュレーション)違反。


 そして背中から(・・・・)抜き放たれたのは、超絶ロングなハリセンソード。

 スッパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッァァァンッ――――♪

 厚紙製の聖剣ハリセンが、爆煙を噴き。

 僕の目から、大火花が飛んだ。


 ちなみに先生そっくりの(・・・・・)灰色巨大家猫(ユールキャット)のことを、先生(かのじょ)はとても気に入ったらしく。

「また遊びにきても、良いのだぞ? あっ、でも危険の無いようにちゃんと裏山をとおって来――」

「にゃぉぅん、にゃおー?」

 どうやら、会話が成立している。

 認知言語学、パネェ!


 短編の投稿はギリギリまにあって、ちょっとした賞と寸評をいただいた。

 その内容でもまた後日、LHRが開かれたのだけど。

 その話は、また今度。

小丙路兵二(こへいじへいじ)/出席番号6番。可も無く不可も無く、文芸部所属の一般生徒。

雉呵肴々緒(きじかななお)/出席番号20番。陽キャ。女子プロ野球リーグ花形選手の姉を持つ。

物部文虎(ものべふみこ)/海外の人文哲学研究所で10代から業績を残し、主席研究員としての実力を認められる。認知言語学(コグニティブ・リングスティックス)の分野で論文博士を取得し帰国、国語教師として赴任。現都立魚灘丘中須南高校2年C組担任。

委員長(いいんちょう)/出席番号47番。成績は普通だが、ディベート大会での優勝経験多数。

小丙路ユール(こへいじゆーる)/3歳児程度の図体とIQをもつタダの家猫。種はブリティッシュショートヘアと思われる。

聖剣ハリセン(せいけんはりせん)/銃刀法を遵守した近接戦闘用厚紙。ロングもあり、そちらは威力二倍。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。