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追放アイテム士は倹約家 ─え、新しいパーティでは消耗品代をパーティ資金から出してくれるんですか!?─  作者: 藤咲理久


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第一話 さようなら、金の亡者

投稿開始。よろしくお願いします。

「アルマ、お前をパーティから追放する」


「……え?」


 パーティリーダーであるアンガスの声が、部屋に響いた。

 何を言われたのか、全く理解できなかった。

 パーティを追放? なんで?

 今まで一緒に頑張ってきたのに、どうして?


「なんで追放されるのかわからないって顔だな? 理由は簡単だ。お前が使(・)え(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)だよ」


 使えないから、その部分を強調して言われた。

 こちらを嘲笑する形に歪んだアンガスの顔は、素材は良いはずなのに、ひどく醜悪に映った。


「知ってるか? お前と同じSランクアイテム士、公爵令嬢のエレオノーラ様。あの人のパーティがこの前大規模な翼竜退治に参加したらしい。で、その翼竜退治に参加した他の冒険者からその活躍を聞たんだが……お前とは天と地ほど違ったんだよ」


 この世界では、全ての人は生まれながらに『ジョブ』を持つ。

 例えば、私のジョブはアイテム士、アンガスは剣士だ。

 これはその人の成長の仕方を示すものだ。別にそのジョブに縛られた職業に就く必要はない。剣士のジョブで農家になる人もいれば、僧侶のジョブで兵士になる人もいる。


 そして、ジョブにはFからSまでのランクがある。これは、ジョブごとにランクが固定で決まっている……わけではない。ジョブ自体が同じでも、人によってランクが違う。世の中には、Fランクの剣士もいれば、Sランクの剣士もいる。

 当然ながら、FランクよりSランクのほうが圧倒的に強い。同じ剣士のジョブだったとしても、Fランクの剣士とSランクの剣士では、その能力もスキルも別物と言っていいレベルになる。成長性と到達可能な限界点に雲泥の差があるのだ。


 私はSランクのアイテム士だ。そして、アンガスはSランクの剣士である。

 ……私の所属するオリハルコン級冒険者パーティ『光輝の剣』は、ジョブがSランクであることを条件にメンバーを募り、結成したパーティなのだ。


 そして、『光輝の剣』の中で私は……足手まといとして扱われていた。


「エレオノーラ様が高級ポーションを使ったとき、どうなったと思う? エレオノーラ様のパーティメンバーに限らず、その戦場に参加していた奴ら全員の傷が治ったんだとさ! 同じSランクアイテム士でも、最大三人にしかアイテムの効果を使えないお前とは雲泥の差だよなぁ!」


 聞いて、理解した。

 どうやらそのエレオノーラ様とやらは、私とはスキルの取り方が全く違うらしい。


「しかもだ、お前は三人にしか使えないカスっていうだけじゃない。品質の高いアイテムの用意すらしていないな? なぜオリハルコン級冒険者である俺達の回復に、毎回毎回〈中級ライフポーション〉や〈中級マナポーション〉なんだ? いや、それどころか下級なんかを使うときすらあるだろう。その理由はなんだ?」


「それは……私のお金が……」


 消耗品の準備は私の仕事だ。毎回毎回、皆がちゃんと依頼を達成できるように、必要な準備をしていた。

 高価なアイテムは確かに強い。だが、報酬との釣り合いが取れない場面が多い。必然的により下位の回復アイテムのほうが使う機会は多くなる。

 だから、高価なアイテムではなく、安価な中級や下級のアイテムを多く用意していた。

 そうやってやりくりしていたのだが……最近はよく文句を言われていたのだ。


 以前、多数のパーティと合同で大規模討伐に参加した時、近くに居た別のオリハルコン級パーティから高価なアイテムを渡され、それを使った事があった。アイテム士は、アイテムの効果をより高めたり、多人数に適用できたりする。そのため、味方にアイテム士がいるなら、そのアイテム士に消耗品を渡して使ってもらうことがよくあるのだ。

 そして、そのときアイテムを渡してくれたパーティは、多数のアイテムを渡してくれた。自分たちのパーティだけでなく、戦場にいる味方の誰にでも使っていいと言ったうえで、だ。

 お言葉に甘えて、アイテムを渡してくれたパーティや、うちのパーティ、更には他のパーティにもアイテムを使った。

 そのときはアイテムの性能に感動しただけだった。だけど、その戦いで高価なアイテムの性能を知ったアンガス達に、なぜ使わないのかと怒られるようになった。


「はっ! やっぱり金か! いいご身分だなぁ、アルマ! 俺達は命がけで戦っているって言うのに、お前は自分の金を惜しんで、アイテムを買い渋っているわけだ! 俺達を危険に晒してまで金が大事なのか? この金の亡者が!」


「ち、ちがう! 私は──」


「言い訳は結構だ! お前の本性はその程度だとわかったからな! お前は救いようのないゴミだ。やはりお前を追放する俺の判断は間違っていなかった。既に、お前の次にパーティに加入するやつとは話がついている。もちろんSランクのジョブ持ちだ。それも付与術士。……アイテム士なんていう消耗品頼りのジョブとは違って、アイテムに頼らず高効率の補助魔法が使えるジョブだ。お前のような足手まといの金の亡者とは比べるべくもないだろう? さぁ、いつまでも俺達に寄生していないで、出ていってくれ」


 アンガスの目には、私への嫌悪がありありと浮かんでいた。


 それを見て、私も諦めた。

 もう、ここには居られない。


「……そう、わかった。……じゃあ、出ていくね。今までありがとう、アンガス」


 そう言って、部屋を出ることにした。


「ああ、お前を追放できてせいせいするよ。お前のようなやつは、いずれ聖剣を手にする俺のパーティメンバーには相応しくないからな。さようなら、金の亡者」


 聞きたくもない言葉を投げられながら、扉の外に出た。


 自分の部屋に戻る。

 荷物は少ない。お金なくて、あんまり自分の物は買えなかったし。


 いつも冒険用のアイテムを詰め込んでいる背嚢に、少ない自分の荷物を詰めて、パーティハウスを後にした。他のパーティメンバーとは会うことさえなかったけれど……みんな、私を足手まといと言っていたし、仮に会ったところで嫌なことを言われるだけだろう。だから、会わなくていい。

 ……いや、もしかしたらティーナは……ううん、やめておこう。もうこれ以上、勝手に期待して裏切られるのは懲り懲りだし。


※※※


 ひとまず、ギリギリ宿代はあったので、今夜の宿を取った。安宿だ。


 それから、冒険者ギルドに向かった。お金を稼がないと今後やっていけない。……けど、その前に、アイテム士一人で依頼をこなすのは無理だから、どこか入れてもらえるパーティを探さないと。


 ギルドに入ると、私に気づいた人たちから、何故か嫌な視線を向けられた。そして、みんな何かひそひそと話し始める。


 内容はわからないけど、そういうことをされるとこちらも嫌な気分になる。

 気にしないように心がけて……心がけている時点で気にしてしまっているけれど、なるべく気にしないようにして、受付へ。


「あなたは……アルマさんですね。『光輝の剣』脱退の件は伺っております。手続きも済んでおりますが、本日はどのようなご要件でしょう?」


 ……既に脱退の手続きまで済んでるってひどくない? と言うか、基本的に私も手続きが必要なはずなんだけど?

 あ、いや、私がいなくても手続きする方法はあった。私に過失があって、パーティに置いておけないという事情なら、問答無用で追い出せるのだ。……つまり、私に過失があるって扱いになっているのかな? え? 本気? アンガスひどすぎるでしょ。


「えっと……別のパーティに入れてもらえないかなと思ったので、メンバー募集をしているパーティを確認しようかなと」


「なるほど……承りました。メンバー募集しているパーティの一覧を用意するので少々お待ち下さい」


 冒険者が、あらぬ罪でパーティを追い出されるということは……残念ながらよくある。冒険者はあまり品の良い生き方をしていない人が多いのだ。無理矢理追い出すためにあらぬ罪を着せるなんてよくあることだし……同時に、本当にあくどいことをやって追い出されるのもよくあることだ。大半の冒険者が気にしないほどに。

 ……だから、よほど証拠がしっかりしてない限り、そしてよほど酷いことをしていない限りは、以降のギルドの利用に影響はない。今回私が過失のある人間として追い出されたのだとしても、それは追い出す時だけにしか影響しないはずだ。

 だからこそ、何のペナルティもなく、受付嬢さんが手続きしてくれているのだろう。


 しばらくして、受付さんが持ってきてくれた、この支部所属のメンバー募集中パーティを確認。私が募集要件に合うものをまず選別し、その中で素行不良の噂などがないパーティを選んだ。


「こちらのパーティに加入したいのですが、取り次ぎをお願いできますか?」


「はい、承りました。そちらのパーティでしたら、本日丁度依頼から帰って来られるので、確認いたしますね。明日改めてお越しください」


「お願いします」


 パーティ加入に関する話を終えると、私は掲示板へ向かった。私でもやれる依頼を探して受けないと。お金が全然ないし。


 結局この日、私はオリハルコン級冒険者が受けるなんてありえないような、初心者向けの薬草採取依頼を受けた。可能な限り丁寧に仕事をして、額面通りの報酬を貰った。

 ……初心者向けの依頼の割には報酬よかったな。まぁ、山分けする必要がないからだけど。

 今まで六人パーティで、なおかつ足手まといのわたしの報酬は少なめということになっていたからなぁ。


※※※


 パーティを追放されてから、十日。

 私はまだ、一人だった。


 断られるときに言われる言葉は決まっている。


「いくらSランクって言っても、パーティのためのアイテムを使い渋るようなアイテム士はいらない」


「金にがめつい女を仲間にして、金銭関係で揉めたくない」


「Sランクアイテム士のくせに、アイテムを同時に三人にしか使えない出来損ないとか詐欺だろ。どんだけスキルビルド下手なんだ?」


 概ねこの三つだった。

 どうやら、私が金の亡者で、アイテム惜しさにパーティの被害も許容する愚者、しかも能力が低い……と、アンガスたちが触れ回っていたらしい。


 ……だから、この十日、なんとか初心者用の依頼を一人で達成して、生活を続けていた。

 一応オリハルコン級冒険者パーティの一員だった私は、アイテム士にしては戦闘能力が高い。初心者用依頼で遭遇するゴブリン程度なら、アイテムを使わずともなんとかなる。……それぐらいなんとか出来ないようじゃ、オリハルコン級の戦場だと流れ弾で死ぬ。……一応、たぶんもうちょっと上の等級向けの依頼でもアイテムなしでやれそうだとは思う。

 ……だけど、事故のリスクは避けたかった。一人だと誰もフォローしてくれないし。リスクマネジメント、リスクマネジメント、安全第一。

 アイテムを使わずに達成できるから、少しずつお金を貯めれてもいた。……必要経費を差し引いて考えると、『光輝の剣』に所属していた頃より、むしろ報酬が多くなっているレベルだ。

 ……いや、いくらなんでもおかしくない? 今冷静になって考えると、私、だいぶ搾取されてたんじゃ? だって、オリハルコン級冒険者として受け取っていた報酬より、初心者用依頼での稼ぎのほうが上なんだよ? 絶対おかしい。

 噂をばらまかれたことも含めて、追放された当初以上に、『光輝の剣』の面々にムカついてきた。


 そんなふうに、『光輝の剣』へのイライラを募らせながらも、今日もギルドで一人依頼を受ける。


「アルマさん。今日も薬草採取ですね?」


「はい、お願いします」


「はい、手続きしますね。では、いつものようにお願いします」


 そう言って受付さんに手続きをしてもらい、薬草採取に向かおうとしたところで、ギルドの扉が開いた。

 やってきたのは五人組。

 両腰に片手剣を提げた青年。弓を背負ったエルフの女性。大盾を背負うナイスガイ。怪しげな雰囲気のフードの少年。長杖を持ち神秘的な民族衣装を着た、側頭部から獣耳が生えた美少女。

 冒険者ギルドの面々の注目が集まる。

 彼らは、このギルドに所属する冒険者パーティ『導(しるべ)の煌星(きらぼし)』……『光輝の剣』と同じ、オリハルコン級冒険者パーティだ。


「久しぶりだな、アルマ。一人でいるってことは、またアンガス達に使いっ走りをさせられているのか?」


 リーダーである双剣の青年ヴェイセルが声をかけてきた。

 ……確かに『光輝の剣』にいる間、ギルドに一人で来る時は、大体他のメンバーに何か頼まれたときだった。

 ……思い出すと、やっぱりムカつくな。


「あ、えっと、その……私、『光輝の剣』を追い出されまして……今はソロで活動しているんです」


 ムカつきはするけど、それはそれとして、パーティを追い出されたことを打ち明けるのは恥ずかしかった。なにせ、自分は無能ですと言っているようなものなのだ。

『導の煌星』の皆も、きっとさぞかし呆れることだろう。


 そう思っていたが、反応は予想と全く違った。


「は? アルマを追い出した? 何やってるんだアンガス達は」


「確かあのパーティ、消耗品の購入とかは全部アルマ任せではありませんでしたか? 今後やっていけるのですか?」


「ずっとアルマの扱いが悪いと思っていたが、そこまで軽んじていたとはな」


「奴らは何かしら報いを受けることになるだろう」


「問題は、『光輝の剣』に問題が起きれば、こっちにも影響があるということ。どうしても受けないといけないような依頼が増えて、ダンジョンに潜れなくなるかもしれない、ということだよ」


『導の煌星』の皆さんは、『光輝の剣』の面々に呆れ返っているようだった。


「……で、追い出されたのって昨日? 今日?」


「えっと……十日程前です」


「え? じゃあ、なんでまだソロなんだ? Sランクのアイテム士なら欲しがるパーティはいくらでもいるだろ?」


 ヴェイセルさんの問いに、口ごもる。……追い出されたパーティに事実無根の悪い噂を流されている、なんて格好の悪い自己弁護のような説明をしたくはない。だけど、事実を言うなら、そう説明する他にない。


 そう、悩んでいると外野から言葉が飛んできた。


「そいつ、アンガスさんたちが言うには、金の亡者らしいんっすよ。消耗品もまともに準備せず、自分の金のことを第一に考えてるって。だから、どのパーティも避けてるんっすよ」


 遠くからのその言葉に、「そりゃ、どこも欲しがらねぇよなぁ」みたいな同意の声まで聞こえる。

 反論したいが、何を言っても言い訳に聞こえそうで……結局何も言えず、私は黙って俯いてしまった。


 だが、ヴェイセルさんの反応は、今度も私の予想と違うものだった。


「……なんだと? おい、お前……それ、アンガスがそう言ったのか?」


「へ? ……え、ええ……その通りです」


 ヴェイセルさんは……いや、他の『導の煌星』の皆さんも、怒りの感情を滲ませていた。

『導の煌星』の皆さんの怒り、それは別に、今の話をした人達に矛先を向けているわけではないようだ。だが、それでも、オリハルコン級パーティが怒りを滲ませているというだけで、凄まじい圧がある。茶化すような雰囲気の人や、私への侮蔑を浮かべていた冒険者達は、皆気圧されてしまった。


 なんとか肯定の言葉を返した冒険者から視線を外したヴェイセルさんが、私に向き直る。

 そして、真剣な表情で問いかけてきた。


「アルマ、君は、今後も一人で冒険者をやりたいか? それとも、パーティに所属したいか?」


「え……いえ、それは、もちろんパーティに所属したいです。……私、アイテム士ですし」


 ヴェイセルさんの問いに、私は素直に答える。いくらSランクでも、アイテム士がソロなんて正直やってられない。

 なんだろう。噂を払拭して、私がパーティに所属できるよう、協力してくれたりするんだろうか?

 ……なんていい人たちなんだ。


 そんな呑気なことを考えていた私は、三度(みたび)予想外の展開に巻き込まれた。


「なら、うちに入らないか? 俺達の冒険者パーティ『導の煌星』に」

毎日二話、朝と夜に投稿予定。

完結は第九十三話を予定。

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