第7話:王太子の焦りと、偽聖女の接触
皆様、第6話での「1億ギルの衝撃」への反響、ありがとうございます。
一介のラベンダーを「月の女神の溜息」へと変え、莫大な軍資金を手にしたリリアーヌ。
「……金が動けば、汚いネズミが這い出してきますわ」
王都から届いたのは、王太子エドワードからの『祝賀パーティー』への招待状。
そして、その横に並ぶ、慈愛に満ちた笑みを浮かべる聖女――マリア。
「……リリアーヌ。僕の『完全記憶』が、彼女の表情筋の動きを解析したよ。……0.1秒の蔑み。……間違いない。彼女は、前世で君を突き落とした、あの『裏切り者』だ」
因縁の再起動。
知略と偽善が激突する、波乱の第7話です。
王都の一等地。アステリア領が構えた臨時の「直営サロン」に、一艘の豪華な馬車が止まった。
降りてきたのは、かつて私を断罪した王太子エドワード。
そして、その後ろに控える、白光の衣を纏った聖女マリア。
「……リリアーヌ。随分と羽振りが良いようだな。追放された身でありながら、不当な利益を得ているという噂があるぞ」
エドワードが、サロンに並ぶ「ルナ・ブレス」を手に取り、下品に値踏みする。
その隣で、聖女マリアが鈴の鳴るような声で言った。
「……リリアーヌ様。……その香水、民衆を惑わす『魔力』が込められているのではありませんか? ……皆様の救いのため、教会の管理下に置くべきですわ」
私は、広げた扇子の陰で、思わず冷笑を漏らした。
心理学における『プロジェクション(投影)』。
自らの強欲さを「救い」という言葉で塗り固め、他者を攻撃する。
「……あら、マリア様。……救いが必要なのは、その薄っぺらな『演技』の方ではなくて? ……あなたの前世の『辞表』、まだ私のデスクに残っていますのよ?」
マリアの頬が、一瞬だけ引きつった。
彼女は、前世で私の秘書を務め、最期に私の背中を押した女――サキだ。
「……何を、仰っているのか……」
「……隠さなくていいよ、マリア」
奥から、10歳の王子カイルが静かに歩み寄る。
「……君のその立ち振る舞い。……前世の君が常用していた『自己演出プロトコル』と完全に一致している。……僕の『完全記憶』は、一度見たクズのパターンは忘れないんだ」
カイルが端末を叩くと、サロンの魔導モニターに、マリアが裏で行っていた「寄付金の横領」と「違法な魔導具の転売」の証拠データが、グラフと共に映し出された。
「なっ……! これは捏造だ! 聖女を愚弄するか!」
エドワードが叫ぶ。
「……捏造? ……いいえ、これは『事実の可視化』ですわ、殿下」
私は一歩前へ出た。
「……マリア。……あなたは、人の『善意』を買い叩くのがお上手でしたわね。……でも、私の『心理学』は、あなたの内側にある『劣等感』を、1ギル以下の価値に変えて差し上げますわ」
マリアの瞳に、かつての卑屈な光が宿る。
聖女の仮面が、音を立てて剥がれ落ちようとしていた。
「……リリアーヌ……! あなた、生きていたのね……! ……あの時、死んでいれば良かったのに……!」
「……残念でしたわね。……私とカイル様が、この世界を『買い叩く(デバッグする)』ために戻ってまいりましたの。……さあ、復讐の時間ですわよ?」
第7話、いかがでしたでしょうか。
ついに判明した、偽聖女の正体。
リリアーヌ(蓮)の命を奪った裏切り者との、第2ラウンドが始まりました。
カイルの「完全記憶」が暴き出す証拠と、リリアーヌの「心理戦」に、もはや逃げ場はありません。




