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転生した腐女子は恋をさせる  作者: 山下久美
3/3

03

 お兄様の右手には「愛は全てを駆逐する」があった。

 ああ、きっと断罪しにきたんだろう。

 私の心は絶望に包まれる。


「アルネ、僕をモデルにしたね?」

 今や、二二歳のお兄様はりりしい青年だ。

 甘い美少年は漫画の中にしかいない。


「いえ、髪の色も瞳も違いますし、顔立ちも似てないですよ」

 それでも、私は自分を弁護する。


「僕一人ならともかく、アシェランまで出しておいて、その言い訳は通用しないよ」

 うっ、と私は喉がつまったような感覚に陥る。

 アシェランとは第二王子の名前だ。


 やはり、出すべきではなかったか。

 でも、仕方なかったの!

 最高のモデルだったから。


 腐女子魂が私を暴走させたんだ。

 などといえるわけない。


「……ごめんなさい」

 嘘泣きで謝ってみよう。

 目薬が欲しかった。


 けど、手元にないので苦しかったことを思い出して、涙を搾り出した。

 うん、涙は出るもんだ。

 かわいい妹の涙を見て、撤退するがいい。


「嘘泣きしても、ダメだよ。僕は怒ってるんだから」


 げぇっ、何ゆえ、乙女の嘘を看破した。

 もしかして、お兄様は腹黒だったのか。


 ただ単に私の演技がへたくそすぎたからかもしれない。


「……本当にすみませんでした」

「謝っても、この本は回収できないよね」

「……申し訳ありませんでした」

「口だけなら、なんとでもいえるよね」


 私は十数回謝って、ようやくお兄様が矛をおさめた。


「二回目はないから。次はつぶすよ」

 お兄様の目は本気だった。

 私はこくこく、とうなずく。


 鬼は去った。

 いえ、お兄様はアトリエを出た。


 さて、第二作を作ろう。

 モデルを変えれば、何の問題もない。


 一ヵ月後、私はついに本望がかなった。

 一通の匿名ファンレターが届いたのだ。


『アンドレ先生へ。先生の作品を拝読して、僕は秘めていた恋心を親友に打ち明ける勇気をもらいました。そして、親友に告白したところ、親友は僕の気持ちにこたえてくれたのです。僕の心は歓喜で満ち溢れました。これも全て、先生のおかげです。僕と親友は一生を共にします。先生への感謝の気持ちをこめて、この手紙を送ります』


 やった!

 ついに私の作品が読者を揺り動かした。

 読者に恋をさせたんだ!


 これぞ、BL作者冥利の本望よ。

 やっぱり、ボーイズラブは最高なんだ。

 私はこの道を選んで、間違いじゃなかった。


 よしっ、他国へ進出してやる。

 それだけの財貨はたまった。

 ククッ、BL漫画文化で世界を染めてくれるわ。


 この世界は、私がBL漫画文化で征服してやる!

 文化征服だ!


 山下久美改めアルネ=モア=ブランソン=エドフェルトの野望は、死を迎えるまで果てないのであった。


 いや、たとえ死しても、アルネの弟子達が野望を引き継いでいくだろう。


 アルネ死すとも、BLは死せず。


<完>

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