03
お兄様の右手には「愛は全てを駆逐する」があった。
ああ、きっと断罪しにきたんだろう。
私の心は絶望に包まれる。
「アルネ、僕をモデルにしたね?」
今や、二二歳のお兄様はりりしい青年だ。
甘い美少年は漫画の中にしかいない。
「いえ、髪の色も瞳も違いますし、顔立ちも似てないですよ」
それでも、私は自分を弁護する。
「僕一人ならともかく、アシェランまで出しておいて、その言い訳は通用しないよ」
うっ、と私は喉がつまったような感覚に陥る。
アシェランとは第二王子の名前だ。
やはり、出すべきではなかったか。
でも、仕方なかったの!
最高のモデルだったから。
腐女子魂が私を暴走させたんだ。
などといえるわけない。
「……ごめんなさい」
嘘泣きで謝ってみよう。
目薬が欲しかった。
けど、手元にないので苦しかったことを思い出して、涙を搾り出した。
うん、涙は出るもんだ。
かわいい妹の涙を見て、撤退するがいい。
「嘘泣きしても、ダメだよ。僕は怒ってるんだから」
げぇっ、何ゆえ、乙女の嘘を看破した。
もしかして、お兄様は腹黒だったのか。
ただ単に私の演技がへたくそすぎたからかもしれない。
「……本当にすみませんでした」
「謝っても、この本は回収できないよね」
「……申し訳ありませんでした」
「口だけなら、なんとでもいえるよね」
私は十数回謝って、ようやくお兄様が矛をおさめた。
「二回目はないから。次はつぶすよ」
お兄様の目は本気だった。
私はこくこく、とうなずく。
鬼は去った。
いえ、お兄様はアトリエを出た。
さて、第二作を作ろう。
モデルを変えれば、何の問題もない。
一ヵ月後、私はついに本望がかなった。
一通の匿名ファンレターが届いたのだ。
『アンドレ先生へ。先生の作品を拝読して、僕は秘めていた恋心を親友に打ち明ける勇気をもらいました。そして、親友に告白したところ、親友は僕の気持ちにこたえてくれたのです。僕の心は歓喜で満ち溢れました。これも全て、先生のおかげです。僕と親友は一生を共にします。先生への感謝の気持ちをこめて、この手紙を送ります』
やった!
ついに私の作品が読者を揺り動かした。
読者に恋をさせたんだ!
これぞ、BL作者冥利の本望よ。
やっぱり、ボーイズラブは最高なんだ。
私はこの道を選んで、間違いじゃなかった。
よしっ、他国へ進出してやる。
それだけの財貨はたまった。
ククッ、BL漫画文化で世界を染めてくれるわ。
この世界は、私がBL漫画文化で征服してやる!
文化征服だ!
山下久美改めアルネ=モア=ブランソン=エドフェルトの野望は、死を迎えるまで果てないのであった。
いや、たとえ死しても、アルネの弟子達が野望を引き継いでいくだろう。
アルネ死すとも、BLは死せず。
<完>




