02
私は一二歳にして立つ。
今の私は王立魔術学院で学ぶ学生だ。
魔術はけっこう面白い。
でも、絵や漫画を描くのはもっと面白い。
私には何人かの学友がいる。
腐教だ。
大いなる腐教をするのだ。
私は美少年のイラストを次々と描いて、親しい友人に見せていった。
もちろん、全員がくいつくわけではない。
しかし、何人かは本気でほめてくれた。
次の作品があれば、是非見せて欲しい、と。
それで、次は漫画を投入する。
この世界に漫画はない。
イラストにちょこっとした言葉がついている作品ならある。
しかし、完全な漫画形式の作品はなかった。
ならば、私が始祖となればいい。
だが、いきなりBLはまずいと思わざるを得なかった。
そこで、私は建国王にして勇者であるアキラの伝記を漫画化した。
これが学内で大ヒットする。
カードゲーム、ボードゲームなどはいくつかある。
しかし、現代日本と比べたら、娯楽には乏しい世界だ。
ククク、子供には堅苦しい本よりは、やはり漫画が面白いものよ。
まずは漫画を読む楽しさを知らしめよう。
気分は子供を洗脳していく大魔王だ。
とはいっても、平和なものだと私は思う。
最後は女子を腐女子に変えたいとは思っているが、問題ないだろう。
私は一五歳にして惑わず、漫画普及にまい進していた。
小遣いを利用して、私の漫画を木版画で大量生産し始める。
白黒だが、漫画なら十分だ。
私の漫画は爆発的に売れた。
刷って刷って刷りまくる。
漫画が新たな財を産む。
私には何人もの弟子入り志願者がやってきた。
寛容な私はほぼ全てを受け入れる。
漫画を普及させるには人手が必要だからだ。
競争相手もちらほら出てきたが、それも望ましい。
漫画市場は開拓されたばかり。
パイを大きくするためにも、書き手が増えるのは私にとって悪くない話だ。
私は一八歳にして、ついに天命を果たす。
BL漫画の出版だ。
ボーイズラブを世界へ羽ばたかせるのだ。
両親は結婚をすすめるが、私は聞く耳をもたなかった。
すでに財政基盤は確立してある。
公爵家からたたき出されても問題はない。
とはいっても、本気で怒らせたら、権力でつぶされるだろうが。
しかし、両親は優しく、私のわがままを許してくれた。
ありがとうございます、父上、母上。
これで私はボーイズラブの普及にとりかかれます。
この世界において、同性愛は禁忌ではない。
しかし、推奨もされていないし、嫌悪する人間も数多い。
なので、私は漫画の名声が確立されるまで、待ってきたのだ。
漫画の美少年に読者の目を惹きつけてきたのだ。
漫画→美少年→ボーイズラブ。
この順序で読者をこの世界に引きずり込む。
BL本第一号はなんとカラー印刷だ。
今まで蓄えた財を使って、多色刷りを挑戦させていた。
その技法がついに確立できていたのだ。
採算は度外視。
クォリティを高めて、女子の心をわしづかみにする。
そう、ぎゅっと。
首を絞めるかのように。
モデルは少年の頃のお兄様と第二王子だ。
ばれるとやばいから、髪や瞳の色を変えて、多少、顔立ちも変化させる。
立場ある二人の美少年が禁断の恋に陥る、という王道で勝負する。
今では、私は出版社をたちあげている。
私だけではなく、多くの弟子が漫画本を出していた。
ペンネームはさすがに変えておこう。
背景をアシスタントに書かせて、タッチでばれにくいように手を打つ。
私のタッチをまねる弟子も大勢いるので、わかりにくいだろう。
ついに、ペンネーム「アンドレ」の新作BL漫画「愛は全てを駆逐する」を出版した。
しかし、売れ行きは思わしくなかった。
書店で何人もの女子がこの本をちらちら見つめる。
しかし、購入にまで踏み切れる猛者が実に少なかった。
書店の様子を見に来た私は失敗を悟る。
チッ、かわいこぶらずに、欲望のまま振舞えばよいものを。
このままではまずい。
そうだ。
ならば、通販だ。
人の目を気にせず、読めるようにしてやろう。
書名をカムフラージュして包装し、届けてやればいい。
私は特別サービスつきの配送業を始めた。
ついでに、学院でチェックしていた染まりそうな女子に無料で配布していく。
金はかかるが、BL文化を布教するためだ。
仕方ない出費だろう。
普及活動が実を結び、「愛は全てを駆逐する」の売り上げは上がっていった。
そもそも、カラー印刷でクォリティは極めて高いのだ。
売れないわけがなかった。
私の魂が込められた渾身の一作なのだから。
しかし、私の下へ不幸が訪れる。
アトリエにお兄様がやってきたのだ。
優しいお兄様の背後に鬼が見える。
怖かった。
身にまとう冷気が私に襲い掛かってきていた。