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森で拾われたちびっこ魔術師、辺境騎士団で今日もお手伝いします! ~生活魔法しか使えない僕ですが、なぜかみんなに褒められます~  作者: 桜塚あお華
第01章 森で拾われた小さな魔術師

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第05話 ぼくもお手伝いします!

 廊下を歩きながら、ぼくは何度も振り返った。


「…………」


 やっぱり見られている。

 剣を持つ騎士さん、荷物を運ぶ騎士さん、そして馬の世話をする騎士さん。

 みんな、ぼくと目が合うと慌てて顔をそらす。


「こんにちは!」

「お、おう!」


 試しに手を振ると、大きなおじさんがびくっとしながら振り返してくれた。


「返してくれた!」

「そりゃ返すだろ」


 カイルお兄ちゃんが笑う。

 最初は怖かったけれど、挨拶を返してもらえると怖さが消えていく。


「お前、誰にでも挨拶するんだな」

「うん!」

「偉いなぁ」

「おばあちゃんがね、挨拶はちゃんとしなさいって」

「そうか。いいおばあちゃんだったんだな」

「うん! とっても!」


 答えた瞬間、胸の奥がちくっとした。

 もうおばあちゃんはいない——でも、教えてもらったことはたくさん残っている。だから、ちゃんと守らなくちゃ。


「こっちだ」


 ガルドおじさんの声に前を向く。

 案内されたのは大きな部屋だった。真ん中に立派な机があり、壁には大きな地図が貼られている。


「ここ、ガルドおじさんのお部屋?」

「執務室だ。仕事をする部屋だよ」


 カイルお兄ちゃんが教えてくれた。


「――そこに座れ」


 言われた椅子に、えいっと飛び乗る。


「よいしょっ……できた!」

「……言えば乗せてやるんだが」

「一人でできるもん!」


 座ってみると足が床につかず、ぷらぷら揺れる。向かい側にガルドおじさんとカイルお兄ちゃんが座ると、部屋が急に静かになった。


「――リオ」

「はい!」

「お前の家族は、本当に祖母だけなのか?」

「うん。おばあちゃんだけ」

「両親は?」

「いないよ。ちっちゃい頃から二人だったから」


 お父さんとお母さんのことを一度だけ聞いたことがある。


『いつか、お前がもっと大きくなったら話そうね』


 おばあちゃんはそう言った。だからもう聞けない。そう思うと、少しだけ寂しかった。


「その祖母は?」

「お休みしたんだ、長いおやすみ」

「…………」

「おばあちゃんが言ってた。人はいつか、朝になっても起きないくらい長い眠りにつくんだって」

「……お墓も、お前が?」

「うん! お家の裏の大きな木のところ。《土ほぐし》してから、スコップでいっぱい掘ったよ」


 ガルドおじさんの大きな手が伸びてきて、ぼくの頭にぽんっと乗った。

 硬くて大きくて、ちょっと乱暴だったけど、すごく温かかった。


「よくやったな」

「…………うん」


 泣きそうになって俯く。泣いちゃ駄目だ。ぼくは強い子なんだから。


「それで」


 ガルドおじさんが手を離す。


「なぜ森を出た?」

「おばあちゃんが、自分がいなくなったら森の外へ行きなさいって」

「どこへ行けとは?」

「言ってないよ」

「金は?」

「お金?」


 ガルドおじさんが黙り、カイルお兄ちゃんが天井を見た。二人が難しい顔をして何か話している。


「リオ」

「はい!」

「森を出たあと、どうするつもりだったんだ」

「どうする?」

「どこへ行くつもりだった」

「…………」


 あ、考えていなかった。

 うーんと唸ったあと、返事をした。


「……パン屋さん?」

「ぶっ」


 カイルお兄ちゃんが吹き出した。


「だって、おばあちゃんが言ってたもん! 森の外には蜂蜜がいっぱいかかった甘いパンがあるって!」

「その後は?」

「…………別のパン屋さん?」

「くっ……!」

「カイル、笑うな」

「無理です団長……!」


 どうして笑うんだろう。パン屋さんは大事だと思うんだよね。

 少しだけ、嫌な気持ちになった。


「……つまり、何も決めずに出てきたわけだな」

「うん!」

「元気よく答えるな」


 ガルドおじさんは深いため息をつき、カイルお兄ちゃんを見た。


「町の孤児院へ連絡を入れろ……受け入れの確認に数日はかかる」

「了解です。それまではここで預かりますね」

「こじいん?」


 首をかしげるぼくを見て、カイルお兄ちゃんが説明してくれた。


「孤児院っていうのはな、家族のいない子供たちが一緒に暮らしている場所だ。リオくらいの子もいるぞ」

「へぇー! お友達いっぱいできる?」

「多分な」

「すごい!」


 同いくらいの子に会ったことがないから、ちょっとわくわくする。


「ただし、すぐには行けん。だから数日はこの砦で暮らしてもらう」

「ここで?」

「ああ。泊まっていいぞ、ご飯も出す、お風呂もある」

「本当!? お泊まりだ!」


 初めてだ、おばあちゃん以外の人と一緒に過ごすなんて。


「ありがとう、ガルドおじさん! カイルお兄ちゃんも!」

「どういたしまして」


 嬉しくて足をぱたぱたさせていると、ふと大事なことに気づいた。

 ご飯を食べさせてもらい、ベッドも借りるのに、ぼくが何もしないのは駄目だ。

 おばあちゃんが言っていた。


『人に何かしてもらったら、自分にできることでお返ししなさい』って。

「ガルドおじさん!」

「なんだ」

「ぼく、働くね!」

「……は?」

「ここに泊めてもらうから、お掃除も、お洗濯も、薪割りもお料理もできるよ!」

「子供を働かせるつもりはない!」


 ガルドおじさんの声が大きくなった。

 思わず体が反応しちゃった。


「だめ?」

「駄目だ」

「どうして?」

「子供はそれでいいんだ」

「よくないもん!」

「良くないことはない」


 ぼくとガルドおじさんはじっと見つめ合った。


「ぷっ……」

「カイル」

「すみません、団長が子供と本気で言い合ってるのが面白くて」

「笑うな」


 カイルお兄ちゃんがクスッと笑う。


「リオ、どうしてそんなにお手伝いしたいんだ?」

「だっておばあちゃんが、親切にしてもらったらお返ししなさいって」

「…………」

「ぼくだけ何もしないのは駄目なの……ちょっとだけ、だめ?」


 お願いすると、ガルドおじさんはものすごく難しい顔をした。


「団長、簡単なことくらいならいいんじゃないですか?」

「お前まで何を……」

「本人がやりたいんですから。仕事じゃなくてお手伝いです」

「同じだ」

「違うよ! お手伝いは、お手伝いだもん!」


 ぼくが言うと、ガルドおじさんは長い長いため息をついた。


「……好きにしろ。ただし、危険なことは禁止だ。重い物も持つな、剣に触るな、勝手に外に出るなよ」

「はい!」

「疲れたら休め、怪我しないようにするんだ」

「わかった!」


 やった。これでおばあちゃんとの約束を守れる。

 ぼくは体をぴょんぴょんさせながら言った。


「ぼく、いっぱいお手伝いするね!」

「いっぱいしなくていいから、人の話を聞け」


 ガルドおじさんは頭を抱え、カイルお兄ちゃんは笑っている。

 まずは、泊めてもらうお部屋をきれいにしよう。

 ぼくは拳を作ってガッツポーズをしたのだった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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