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森で拾われたちびっこ魔術師、辺境騎士団で今日もお手伝いします! ~生活魔法しか使えない僕ですが、なぜかみんなに褒められます~  作者: 桜塚あお華
第01章 森で拾われた小さな魔術師

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第02話 はじめてのおでかけ

 森の外へ行く。そう決めて家を出たけれど、ぼくは森の外がどっちにあるのか、よく知らなかった。


「えっと……こっち、かな?」


 小さな杖を持って、細い道を歩く。

 背中には、おばあちゃんの魔導書とパンを入れた鞄。

 水筒もあるし、干したお肉もある。

 そして、着替えもちゃんと入れた。

 おばあちゃんのお墓に「いってきます」も言ったから大丈夫だ。


「うん。だいじょうぶ」


 忘れ物はない、多分。

 ぼくは森の中をずんずん進んだ。

 黒耀の森は、とても大きいし、空が見えなくなるくらい高い木がたくさん生えていて、太い根っこが地面からぼこぼこ飛び出している。

 気をつけないと転んでしまう。


「よいしょ」


 大きな根っこをまたぐ。


「よい……しょっ」


 今度のは高かったので、両手を使って登り、降りる時は、ぴょんっと飛ぶ。

「できた!」


 ふふ、ちょっと楽しい。

 ぼくは森の外へ行くのが初めてだった。

 おばあちゃんが元気だった頃も、遠くまで行ってはいけないと言われていた。


『リオ。一人で遠くへ行ってはいけないよ』

『どうして?』

『森には怖いものがいるからさ』

『怖いもの?』

『そうだよ』

 

 でも、何が怖いのかは教えてくれなかった。

 狼さんもいるし、大きな猪さんもいる。たまに家の近くまで大きなトカゲさんが来る事もあった。

 でも、みんな近づかなければ何もしない――だから、ぼくは森が怖いと思った事はなかった。


「外には何があるのかなぁ」


 歩きながら考えてみよう。

 おばあちゃんから、いろんな話を聞いたことがある。

 森の外には、大勢の人が暮らしているらしい。

 家もいっぱいあったり、お店というところもある。そしてお金を渡すと、パンやお肉をもらえるらしい。


「パン屋さん、あるかな?」


 おばあちゃんが作ってくれたパンも好きだったけれど、外のパンも食べてみたい。

 甘いパンもあるって聞いたし、おばあちゃんから聞いた話では果物がいっぱい乗ったものや、蜂蜜をたっぷり使ったものもあるらしい。


「うん、食べたいなぁ」


 そう考えたら、急にお腹が鳴った。

 ぐうう。


「…………」


 ぼくは立ち止まった。

 お腹を見て、ため息を吐いちゃった。


「まだ朝ごはん食べたばっかりなのに」


 でも、いっぱい歩いたから仕方ない。

 ちょうど近くに倒れた木があったので、そこへ座ることにした。


「よいしょっと」


 鞄を下ろして、中からパンを一つ取り出す。


「いただきます」


 ぱくり。


「ん!んー!!」


 ちょっと硬いけど、おいしい。

 昨日、自分で焼いたパンだ。

 おばあちゃんみたいにふわふわにはできなかったけれど、ちゃんとパンの味がする。


「今度は、もっと上手に作ろう」


 パンを食べながら、周りを見てみると、鳥さんが鳴いている。

 木の上を小さな動物が走っていくのが見えた。

 風が吹くと、木漏れ日がきらきら揺れる。


「おでかけって、楽しいなぁ」


 一人なのは少し寂しい。

 だけど、知らないところへ行くのはわくわくする。

 おばあちゃんも、こんな気持ちだったのかな。

 若い頃はいろんなところへ行ったと言っていた。


「おばあちゃん……ぼくも、いっぱい見てくるね」


 誰に言うでもなく呟いて、残りのパンを食べた。


  ◇


 それから、しばらく歩いた。


「ふんふんふーん」


 鼻歌を歌いながら進む途中で赤い木の実を見つけた。


「あ」


 ぼくはしゃがみ込む。


「これ、お薬になるやつだ」


 おばあちゃんに教えてもらった事、これは熱が出たときに煮て飲むといいらしい。


「持っていこう」


 ぼくは手を伸ばし、三つだけ摘んで鞄に入れる。

 全部取ってはいけない。理由は森の動物さんたちも食べるから。

 少し歩くと、今度は黄色い花を見つけた。


「これも!」

 虫に刺されたときのお薬になる。

 さらに進むと、青い茸もあった。


「これは食べちゃ駄目なやつ」


 おばあちゃんが言っていた。食べると三日くらいお腹が痛くなるらしい。

 ぼくは茸を避けて歩いていると、ふと考えた。

 なんだか、いつもの薬草採りみたいだった。


「森の外、まだかなぁ」


 家からかなり歩いた気がする。

 でも、周りはまだ木ばかり。


「もうちょっと、かな?」


 その時だった。


 ――ガサッ。


「ん?」


 前の茂みが揺れた。


 ――ガサガサッ。


 何かいる、のかな?


「鹿さんかな?」


 ぼくは立ち止まった。

 茂みの向こうから、低い音が聞こえてきた。


 ――ぐるるるる……。


「……鹿さんじゃないね」


 次の瞬間、大きな影が飛び出してきた。


「わぁ」


 ぼくが見上げてみると、現れたのは狼だった。

 ただし、家の近くで見かける狼より、ずっと大きい。

 ぼくが三人くらい並んでも足りないくらい大きな体。

 黒っぽい毛に赤い瞳を見せて、口からは鋭い牙がたくさん見えている。


「おっきい狼さんだ!」

 初めて見た。

 初めて見た狼さんは道の真ん中に立ったまま、ぼくを睨んでいる。

 

 ――ぐるるるる……。


「…………」


 ぼくは右を見ると、木があった。

 左を見ると、茂みがある。

 そして前を見る。

 狼さん――うん、困った。

 この道を通りたい。


「あのー」


 声をかけてみる。

 狼さんの耳がぴくっと動いた。


「ごめんね。そこ、通りたいの」


 お願いしてみた。

 だけど、狼さんは動かない。


「ぼく、森の外に行かなくちゃいけないんだ」


 ――ぐるるるる……。


「ちょっとだけ、どいてくれない?」

「ガウッ!」

「わっ」


 お、怒られちゃった。


「……だめ?」


 どうしよう……。おばあちゃんは、動物を困らせてはいけないと言っていた。

 だったら、別の道を探したほうがいいのかな。


「じゃあ、ぼく、あっちから――」


 そう言って後ろへ下がった瞬間。


「ガアアアッ!」


 狼さんが飛びかかってきた。


「わっ!?」


 大きな口が目の前まで迫ってくる。

 危ないと思ったぼくは、慌てて杖を振った。


「《風払い》!」


 おばあちゃんから教えてもらった生活魔法。

 家の中に入った埃や、落ち葉をまとめて飛ばすための魔法だ。

 その瞬間。


 ――ドンッ!!


「ひゃっ!?」


 ものすごい風が吹いて、木々が大きくしなる。

 落ち葉が空へ舞い上がってしまった。

 そして、目の前にいた狼さんも――。


「キャウン!?」


 飛んでいった。


「……え?」


 ぼくは目をぱちぱちさせた。

 狼さんはくるくる回りながら、ずっと向こうへ飛んでいく。

 一つ、二つ、三つ、と木々の間を抜けて――どさあっ!

 遠くの茂みに落ちた。


「…………」


 静かになった。

 ぼくは杖を持ったまま、しばらく動けなかった。


「狼さん?」


 返事はない。

 少し心配になってそっと近づいてみると、ずっと向こうの茂みから、狼さんが顔を出した。


「あ。いた」

「…………」

「大丈夫?」


 狼さんはぼくを見る。

 ぼくも狼さんを見る。


「…………」

「…………」


 狼さんの耳がぺたんと伏せられた。

 

「キュン……」


 そして、小さく鳴くと、ものすごい速さで森の奥へ逃げていった。


「あっ」


 行っちゃった。


「…………」


 ぼくは周りを見ると、落ち葉がひらひら落ちてきて、髪もぐしゃぐしゃになっていた。


「……今日、風つよいなぁ」


 ぼくは、杖を鞄に戻した。

 おばあちゃんがいたら、ちゃんと帽子をかぶりなさいって言われたかもしれない。


「そうだ!次から帽子も持ってこよう」


 ぼくは鞄を背負い直した。

 これで道も通れる。


「狼さん、どいてくれてありがとう!」


 もう姿の見えなくなった狼さんへ、大きな声でお礼を言った。

 そして再び、森の外を目指して歩き始める。


 このときのぼくは知らなかった。


 さっき出会った狼さんが、この森でも上位に位置する凶悪な魔物――『黒牙の魔狼』と呼ばれている事を。

 そして、普通の騎士なら、何人も集まらなければ倒せないことも。

 もちろん、生活魔法の《風払い》で、そんな魔物を何十メートルも吹き飛ばす六歳児なんて、普通はどこにもいないということも。

 ぼくは何も知らないままのんきに。


「森の外、どんなところかなぁ」


 次に食べるパンのことを考えながら、ご機嫌で森を歩いていたんだ。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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