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03 ある晴れた朝C

 班員達は、パネルラダーを目的のビルまで繋げると、ビルの壁を覆う雪を掘り進み、そのトンネルの内側を押し固めていく。

 崩落防止パネルは重たいので、パネルラダーが沈み込むのだ。


『ちっ!ハズレだ。もう少し左に掘るか』


 ビルの中に入る為に彼等が目指して雪掻きしているのは、ガラス窓だ。

 近代高層ビルの多くが全面ガラス張りとは言え、柱の部分が無い訳でもない。

 また、ガラス張りの直ぐ内側に柱が有ったりする。


『よぉ~し、そろそろパイルハンマー持って来させろ』

『了解。パイルハンマー移動します』


 高層ビルの外壁ガラスは、分厚い強化ガラスだ。

 破るには、(くさび)を打ち込んで、何度も叩く必要がある。


 ここでは【パイルハンマー】と呼んでいるが、これはコンクリートなどに穴を開ける油圧式の物ではなく、人力で振り回す大きめのハンマーの俗称だ。

 ただ、ガラスに楔を固定する道具は有るので、同じ位置に回数を重ねて打つ事ができる。

 高層ビルの強化ガラスは、ハンマーで楔を打ち込んでも、ヒビが入るだけで、簡単には穴か開かない。

 ガラスのタイプにもよるが、窓枠の近くに何度も楔を打ち込み、開いた穴から削る様に打ち崩すのだ。

 破片が飛び散るので、作業員は硬質なプロテクターを着用している。


『よぉ~し、ガラス粉砕。通路を確保しろ』


 班長の無線が、目的のビルへ入れる事を知らしめた。


『班長ぉ~、道具のソリを移動開始します』

『OKだ。昼食と予備バッテリーのソリも忘れるな』

『了解です』

『先行する者は、滑車の用意をしろ』

『アキラとヒロシが先行して上がります』

『割れたコンクリートのヘリには気をつけろよ』

『気をつけます』


 外ではパネルラダーの上を、幾つかのソリに分散された大型スコップなどの道具が移動してくる。

 ソリの一つ一つが人力で丁寧に引っ張られている。


『各自ヘッドライト点灯。足元に気をつけろ』

『ひえーっ!外より寒いじゃん』


 ビルの中は風が吹かないが、太陽光の恩恵も無いので、暗くて寒いままだ。

 時間をかけてゆっくりと冷やされた建物内は、逆に最低気温を維持しているのだ。


『特に金属部分には気をつけろ。手袋ごしでも貼り付くぞ』

『そう言えば、前回も誰かさんが貼り付いて、装備を脱いで凍傷になったっけ』

『うるせえよ!』


 誰とは言わないが、逆ギレした無線が飛ぶ。


『じゃあ、非常階段へ行ったアキラとヒロシ以外は点呼を取るぞ』


 こうして年に数回の、若者達による過酷な雪掻きが始まった。


 それは雪で地下に引きこもらざるを得なくなった彼等が、太陽と青空を見る数少ないチャンスでもあるのだった。



 彼等は、この様に少してかき集めた電力を使い、地下鉄の線路部分にLED照明と水耕栽培に似た農法で、食料を作った。

 防災用の備蓄食料は、いつまでももたないし、残っている物でもない。

 また、地下に流れ込む地下水の排水も、ビルの給水電動ポンプを使って、ビル屋上から放出している。


 地下鉄は、公的シェルターの皆無な日本においては、数少ない避難場所となった。

 幅は狭いが、東京メトロだけでも総面積は約160万〜200万 m²で、東京ドーム(約4.7 ha)の約34〜43個分。皇居(約1.15 km²)の約1.4〜1.7倍にも及ぶ。


 首都圏では札幌、東京、名古屋、京都、大阪、福岡の地下鉄が有名だが、小さな物も加えると30団体以上ある様だ。


 海外での核戦争を想定したシェルターとは違い、かなりの広範囲に網の目状に広がり、一般の建物にも直結していた。



 核シェルターの殆どは十メートルを超える豪雪を想定しておらず、多くが生き埋めとなっている。


 ここでは、生き残った複数の施設と雪上輸送や移動によって、お互いに支えあって現在の生活ができたのだった。


 協力体制の一例として、原子力発電所は継続的な電力を供給し、このコロニーは埋もれた生活用品と食料の提供。工場は製品加工と電気製品の

リサイクル等を行っている。

 その全てが、人類最盛期には程遠い物だが、何とか命を繋いでいた。


 一見して、平和にバランスが取れた共同体の様に見えるが、初期は養いきれない人員や役にたたない集落を見捨てたり、略奪しあった結果の【調和】だった。

 ただ、単に奪い合うだけでは限界が来ると、島国日本の人間が理解するのに時間は掛からなかったが。

 その黒歴史の世代も、今は老人となって技術伝承や調整役になるか、乳母捨て山送りとなっている。


 これら、スペースコロニーの様な閉鎖空間生活は、アメリカで宇宙開発の為に1991年から試みられた【バイオスフィア2】や、ロシアの【シリウスプロジェクト】に似ている。

 だが、外気との完全遮断が必要無かった事と、他のコロニーとの行き来が可能だったのが、先のプロジェクトの様に失敗しなかった理由かも知れない。


 そんなギリギリの生活も、壊滅的な動植物生態系の為に、酸素濃度の減少という滅亡への危機が迫っている。




 そもそも何故に、この様な世界になったのか?


 特に地球の属する内惑星近辺を中心に、太陽系外から押し寄せてきた高濃度の星間物質により、地球を含む宇宙空間に星雲の様なモヤが掛かっていたのだ。

 最初は人々に【異常気象】と伝えられていた天候も、星が見えなくなり晴天でも太陽に(かげ)りが見えだせば隠蔽ができずに情報が漏れだした。

 世界の終わりを叫ぶ者により町は無法地帯となり、物資をかき集める為に軍が独自に動いて勢力争いとなった。


 各地で大小複数の戦闘が、無関係に発生して世界から【秩序】は無くなった。


 一部では核兵器も使用されたと言う。

 正常な報道そのものが崩壊している為に、一般市民は真偽を確認できていなかったが。


 その多くの戦闘も大寒波の前には継続ができなくなり、世界は白い秩序に押し潰されていく。


 この物語の舞台は、その第三次世界大戦。いや、大惨事世界騒乱から既に半世紀以上経っていた。

 そんな【大惨事】と【世界騒乱】の後でも、生き残っている一般市民は居たのだ。


 21世紀初頭には、人工光源を用いた室内農業が開発されていたのが幸いし、地下生活でもエネルギーさえ有れば食べ物と酸素、保温を維持できた。

 それでも、それは原子力発電所を全廃しなかった国や地域に限られ、火力発電のみや再生可能エネルギーに転換した地域は、直ぐに氷の下に沈んだ。


 とは言え、原子力発電所も半世紀近く稼働すれば備蓄燃料も保守器材も底をつきはじめる。

 人々は、氷の下から太陽光発電パネルと蓄電池を掘り出して再利用しはじめている。


 天文学的大惨事にも関わらず、人間が地表に出れるのは、一つの奇跡があった為だ。

 幸いにも宇宙空間の雲状の物は、地球への太陽光を完全に遮断するほど濃くは無かったのだ。

 僅かに届く光が大気の上層を温め、空気の液化を免れていた。

 主成分が窒素と酸素から成る地球大気を液化するには、マイナス183度以下にならなくてはならないからだ。

 しかしながら、あまりに冷えた大気と、地熱の影響を受ける地表の水分では温度差が有り過ぎ、大量の水蒸気が発生し巨大台風が大量に生まれていた。

 それは雨ではなく、南極並みのブリザードを放ちながら赤道直下から南北両極へと移動していく。

 故に、現在の地球表面は日常的にブリザードに襲われているのだ。


 全地球凍結では、生命維持に必要な物資が無尽蔵に手入できる訳もなく、エネルギーも不足していく中、現行の人間では環境に耐えられない。


 かつての隕石落下による大規模寒冷化も、恐竜などの大型動物のみを滅ぼすに留まったが、【全地球凍結】では人間のみならず地上生物の殆どが死に絶えるだろう。

 地上で可能性が有るのは、種子の状態で数年間眠り続けられる植物くらいだろうが、それも【奇跡】の範疇を出ない。


 現実的に、この【全地球凍結】という環境に耐えられるのは、前回の凍結時と同様に海中の微生物くらいだろう。

 魚類と言えど、植物性プランクトンを底辺基礎とする生態系で成り立っている。

 大気までは凍りつかない状態ならば【気候】は存在し、雪雲の発生により太陽光が減少する。

 海中植物や植物性プランクトンは激減し、食物連鎖が崩壊して魚類は全滅へと至るだろう。


 地上でも海底でも、活火山の活動が一部の温度を保つかも知れないが、それすら可能性の域を出ない話ではある。

 もし、太陽光が断たれて大気まで凍ってしまえば、保温が効かなくなった地上は海底までも凍りつき、本当に死の星となるのだ。


 この時点では大気が凍っていないが、来年にはどうなるか分からない。

 また、いきなり宇宙が晴れだして、元の暖かい地球に戻るかも知れない。



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