第201話 頼りになるグルーヴ
先行して投稿していたサイトに追いつきました。この話が最新話となります。
今後は基本的に土曜日更新になりますので、暇があったら読んでもらえると幸いです。
シェイディは背後に黒いオーラをまとい、殺気に満ちた視線でアゼリを睨みつける。
「……あなた、エアディドールの血が覚醒したの? 昔、戦場で見たグルーヴちゃんに雰囲気がそっくりよ」
「だとしたら……どうする?」
「ふふふっ、これは私の手には負えないわね。潔く、退散する」
「さすが聖女殿。潔いな」
「でも、討伐軍は知らないわよ。セオドリック王がグルーヴちゃんを生け捕りにしてきた者を後継者に指名するって、みんなの前で宣言しちゃったもの。二人の王子とその取り巻きは止まらないと思うわよ」
「構わない。皆殺しにする」
「……そっ。ご愁傷様ね」
「止めないのか?」
「だから止まらないわよ。目の前にぶら下げられた後継者というニンジンしか目に入らない単純な連中ばかりだもの。本当、嫌になっちゃうわ」
「ならば、この地から去るがいい。聖女殿を巻き込むつもりはない」
「そうさせてもらうわね。でも、このまま帰るつもりもないのよね。あなたの覚醒、王城で見たシーザリオの美肌。……そしてシャカール。禿げ頭が見事なまでにフサフサになっているあなたの頭。どういうことかしら? グルーヴがついて行ったっていう若い男は、ハヤトっていう名前なのよね? すべてのカギは、そのハヤトという男が握っている。そうよね?」
「知らないな。だが、ハヤトは余と義兄弟の契りを交わした兄、ということだけは言っておこう」
「分かったわ。じゃあ、船を一隻、貸してもらえるかしら?」
「船? なぜだ」
「そのハヤトって男とグルーヴちゃん。まだエアディドールの地から旅立って時間が経っていないわよね? シーザリオも一緒ということを考えれば答えは一つよ。ハヤトという若い男とグルーヴちゃんは、シーザリオ島に向かった。そうよね?」
「……………」
「うふふふっ、正解みたいね!! 若いわねぇ~。血が覚醒したといっても、まだまだ駆け引きは経験不足のようね。完全に顔に出ているわよ。じゃあね!!」
聖女アゼリはシェイディに向かって一礼をして、悠々と去って行くのであった。
★☆★
クロフネの背中から海を見下ろす。
島から切り離した氷の塊がゆっくりと移動しているのが見える。
「ハヤト様、あの氷の塊、非常に危険です」
「確かに。夜に航行してたら見えないな。激突して沈没間違いなし。細かく砕いておくか!!」
グルーヴに指摘され、海面に向かって風魔法を放ち切り刻む。
「まっ、これでいい……かな?」
「あいかわらず、規格外のことを平然とおやりになるのですね。あとは自然に溶けることでしょう」
「だな!!」
俺は風よけのためにバリアを張る。
「クロフネ、お前の能力を見たい。全力で飛んでみせてくれ」
エアディドールの方向を指さし、俺はクロフネに指示をする。
「うん。分かった」
翼をはばたかせ高度を上げていく。ある程度上がったら、クロフネは翼を畳み、エアディドールの方向に向かって、一直線に下りていく。
「とんでもないスピードだ。グルーヴ、捕まってろよ」
「はい。でも、バリアのおかげで、結構快適です」
「確かにそうだな……て、もう着いた!!」
「……一瞬でしたね」
気がつくとクロフネは、エアディドール城の上空で旋回している。
「あはははっ、エアディドール城が小さく見えるな」
「はい。今考えれば、わたくしはエアディドールという名のもとに、人生を縛りつけられていたと感じられます。小さな、とても小さなエアディドール城の中で、とても小さなアーキュリー王の座や、公爵といった地位にこだわっていた。でも、ハヤト様にすべてを解き放っていただきました。感謝いたしております」
「そう言ってもらえるのはありがたいが、これからはもっと小さな国の王妃。それも何人かいる王妃の中の一人だ。それでもいいのか?」
「構いません。バックシーン王国の可能性は無限大。わたくしは本当に、この世の全てを支配してしまうのでは……と、思っております」
「支配? しないよ。面倒じゃん。関わった人たちは幸せにしたいと思うけど、それ以外の人たちまでは責任を持てない。リスグラシューは俺のことを使徒様とか聖者様とか言って祭り上げるけど、俺は普通の人間。バックシーン島でグルーヴたちと、のんびり過ごせれば満足だよ」
「ふふふっ、ハヤト様がそれを望んだとしても、周りが許さないと思いますよ。これからすり寄ってくる者、奪おうとしてくる者が現れてくると思われます」
「それな。いっそのこと、自給自足できるようになったら、島全体にバリアを張って鎖国してしまおうかとも思っている」
「鎖国? ですか。確かに自給自足ができれば可能でしょうが……」
「まっ、一つの案だ。深く考えなくてもいいよ。現状はそんなことを考える段階にない。しばらくは、ひたすら開発開発の日々だ」
「ふふふっ、そうですね。何もない土地に建物ができ、農地ができる。港を整備して街に商店が立ち並んでいく。ある意味、目に見えて発展していく様を見られる今から数年が一番楽しい時期かと思われます」
「だよな!! やっぱ、エアディドール領もそうだった?」
「わたくしが領地を引き継いだ時には、エアディドールの地は発展していましたので、あまりそういう経験はありませんが、例えば、道を広くして交通の便をよくしたとして、その効果として貿易の数値が改善されるという結果が出れば、素直に嬉しく思います」
「やっぱり、良い結果出ると嬉しいよな」
「はい。ただ、整備しても結果が見えづらいものもあります。防衛施設の整備など典型的で、攻められてみないと効果的に整備できていたかどうかは分かりません。ですが、効果が見えないからと言って、手を抜くわけにはいきません。十分な資金を投入して整備をするのですが、お金を生み出さず、毎年、維持費はかかる。わたくしは絶対的地位に守られていましたが、領主に力がないと不満を抑えきれません」
「確かに。素人だけど、よく整備されているなって感じてた。今回の討伐軍との戦いで、その成果が試されるってことか……。でも、さすがはグルーヴ。勉強になるよ。リスグラシューも志は高いし、頼りになるんだけど、実務経験がないだろ? これからグルーヴにはいろいろと頼みごとをすると思うけど、よろしく頼む」
「うふふふっ、バックシーンの発展を思うと、心が躍るような気が致します。生まれ変わったつもりで、これからの人生、ハヤト様のお側に寄り添えたらと思っています」
「ありがとう」
エアディドール城のはるか上空。
俺はグルーヴを強く抱き締めるのであった。




