第200話 貴族の資産は半端ない!!
半壊の領事館の中へ入っていく。
クロカゲたちも森に帰って行ったようで、今は俺たちとウララ家の4人、それにオーラしかいない。
いや、もう一人いる。
タイシンが体を小さくし、どうしていいか分からないという顔をして立っている。
「タイシン、ありがとう。でっ、これからどうする? エアディドールやアーキュリーに行きたいなら送っていくぞ。どうせ、今から戻るしな」
「ぼ、僕はこの島で、漁師として生きていきたいと思っています。ダメでしょうか?」
「構わんぞ。こっちからもお願いしたい。ただし、家も破壊されてしまっているし、漁船も使えなくなっている。しばらくはウララ家の指示のもと、島の復興のために働いてもらうことになるが、それでもいいか?」
「はい。ぜひお願いします!!」
俺はタイシンと握手を交わす。
「ハル、タイシンを頼む」
「分かりました。この子は働き者です。本当に助かります。では早速、魔物や魔獣の死体から素材になるものを取り出し、破壊された家屋などの解体、整地などを始めます」
ウララ家の4人とタイシンが領事館から出て行く。
「港拡大と別邸の建設地は決まった。メサイア、築城は任せる。適切な立地を探し出してくれ」
「お任せください。実は、すでに城を築く場所の目星は付けております。今までは魔物や魔獣がいて手が付けられませんでしたけど、かなり間引くことができました。ただちに設計に取り掛かります。ですが……」
「建築には人手不足ということだろ?」
「はい。クロカゲの男たちは密偵としてリスグラシューが各地に派遣し、兎人族は農業に従事する者が多いです。完全に人手不足。……というか、率直に申し上げますと、現状は労働力が皆無な状態です」
「あはははっ、どうにもならないな。とりあえず、設計だけでも進めておいてくれ。人材は……考える」
「分かりました。ハヤト様の城です。なにかご要望があれば、今のうちに教えていただければ、ご希望に沿った形で設計いたしますが、どうですか? なにかありますか?」
「城って、エアディドール城みたいに御殿も併設するんだよな?」
「はい。基本的に政務は城中で、プライベートは御殿と分けるつもりです」
「だったら、温泉を作るスペースを確保しておいてくれ」
「温泉……でございますか? しかし、温泉が湧き出してくる地形となると、今、目星をつけている土地が最適かと言われれば、難しいと言わざるを得ません」
「構わない。温泉はどこでも湧き出すんだよ。ただ、厚い岩盤に阻まれてたり、地中の奥深くにあって、そもそも人の手ではどうにもならない場合が多い。だが、俺ならどうにかできる。火魔法をぶちかまして、力技で温泉を掘るつもりだ」
「力技!? そうですね。ハヤト様ならできると思います。分かりました。御殿に温泉を設置するスペースを確保いたします」
「うむっ、頼むな!!」
俺はみんなを見渡す。
「今日がバックシーン王国の建国記念日だ。よろしく頼む」
『はい!!』
「じゃあ、俺はクロフネと共にエアディドールへ戻り、リスグラシューたちを連れてくるよ」
「ハヤト様、わたくしも参ります。今、この国には住む家もございません。別邸をいくつも持っております。その別邸をマジックバッグに入れ、いったんの住処にいたしましょう」
「そうか!! そうだな。この半壊の領事館も、いつ全壊するか分からないからな。雨風だけでもしのぎたい。頼むよ、グルーヴ」
「お任せください」
「お母様、私の別邸も持ってきてもらっても構いません。私も付いて行きたいのですが、お城の建築という大任があります。お願いできますか?」
「構わん。メサイア、そなたの別邸……10軒くらいはあったか?」
「はい。正確には13軒ですが、お願いします」
「うむっ。わたくしのと合わせて、35軒。現状、十分じゃな」
『……………』
貴族の会話にドン引きする……が、今はありがたい。
「行くぞ。クロフネ、グルーヴ!!」
領事館を出ると完全に嵐が過ぎ去り、光に包まれていた。その光はまるで、バックシーン王国の建国を祝っているかのように、俺を強く照らしている。
クロフネが巨大化し、大空へ舞い上がる。
俺もグルーヴを抱きしめて、地面を蹴り上げる。
「ドレス姿でも大丈夫か?」
「はい。まったく問題ございま……いえ、少し怖いです」
「ふふふっ、じゃあ、エアディドールへ着くまで抱きしめててあげるよ」
「嬉しゅうございます」
グルーヴの腰に手を回して身体を引き寄せ、クロフネの背中に乗り、俺たちはエアディドールへ向かうのであった。
★☆★
ここはエアディドール城の謁見の間。
「ごきげんよう。大きくなったわね、シェイディちゃん。でっ、なぜあなたがその椅子に座っているの?」
「アーキュリー王国の聖女、アゼリ殿。余がエアディドール王国のシェイディである」
「……………」
けげんな表情をするアゼリ。頭も下げずシェイディを見据えている。
「シャカール様、いったい、どういうおつもり? ……って!? あなた禿げ頭はどうしたの!?!?!?」
シェイディを無視して、後ろに控えているシャカールに質問するアゼリだが、シャカールのフサフサの頭を見て驚愕する。
だが、そんなアゼリを無視するシャカール。淡々と話を進める。
「どうもこうもない。エアディドールはアーキュリーから独立し、南方の三家、ヴァレンシュタインとベルフォール、それにアスター家を従えてエアディドール王国を建国したのだ。そして王国の初代国王。それが我が息子。シェイディ・ド・エアディドール国王だ。もはや、そなたは我が国にとっては聖女ではない。和解の使者としてエアディドールへ来たのなら、使者らしく、礼をわきまえたらどうなのだ?」
「ふんっ!! お話にならないわね。もう、いいわ。あなたたちと話をするつもりはありません。グルーヴを出しなさい!!」
周りを見渡し、グルーヴの姿を探すアゼリ。強い口調で要求する。
シェイディとシャカールが顔を見合わせ『ニヤリ』と笑う。
そして……
「母上、いや、グルーヴ・ド・エアディドールはもう、ここにはいない。彼女はエアディドールの名を捨て、ただのグルーヴとなり、この地を旅立っていった。……『若い男』と共にな!!!!!」
楽し気に『若い男』という言葉を強調して言い放つシェイディ。半笑い。
呆気にとられているアゼリ。狼狽する。
「わ、若い男!?!?!? 馬鹿なことを言わないで!! グルーヴ!! 恥ずかしがらないで出ていらっしゃい。愛しの聖女アゼリがあなたを迎えに来たのよ!! あなたが身を差し出して、私と共にセオドリック王に抱かれれば、今回のことは不問にできるわ」
謁見の間にこだまするアゼリの声。
だが、半笑いから一転。シェイディは鋭い視線でアゼリを睨みつけ、玉座の上から見下しているのだった。




