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身代わりの君  作者: くれぱす


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かなり前に投稿した趣味で書いたお話を少し手を入れて再投稿しています



芽吹く季節の蒼い木々の匂いが、遊歩道をゆっくりと歩く二人を包んでいる。

寄り添い歩く女性二人の姿は、優しく穏やかで、親子のようにも、また、少し年の離れた友人のようにも見える。


「節子叔母様。今朝方まで降っていた雨のせいで、より木々の緑が鮮やかですよ。」

「本当にそうね。匂いからも、よくわかるわ」


節子と呼ばれた年配の女性は、濃いブラウンの大きなサングラスをかけており、綺麗なグレイヘアが、風に楽しげにゆれている。

片方の手には凝った作りの杖、もう片方の手は、半歩前を歩く女性の肘に添えている。


「貴方とこうやって歩く、お散歩にもだいぶ慣れてきたわ。

外を歩くって、見えなくても結構楽しいものね」

「そうですか。そう言って下さると嬉しいです。」

「鳥の囀りや、葉の重なる音、そして自分達の足音・・・。

どの音からも生命力が感じられるわ」

「えぇ、それに新鮮な匂いも素敵。

特に、この道は車も通らないので、いい空気ですね。

ゆっくり歩いているはずなのに2人で話しながらだと、あっという間に家に着いちゃいますね」

「今でこそ、こうやって楽しく歩けるけど…

最初は、なんて強引な人かしらと呆れたけどね」


節子の何かを思い出したようなおかしげな口調の言葉に、由紀子も出会った時の少し強引とも言える自分の行動が頭をよぎり、口元に笑みを浮かべた。



3週間前、目の不自由な節子の世話をしていた高崎が急に具合が悪くなり、由紀子はそのピンチヒッターとして、婚約者に頼まれて彼の叔母である節子の世話をするためにこの地を訪れた。


はじめこそ、うまくやっていけるか不安だったが、節子の気取らない性格やポンポンとした話し方に由紀子のおおらかさがうまくかみ合い、いまでは、人里離れたこの地で2人の生活を節子も由紀子も楽しんでいる。


節子の住居である2階建てのログハウス風の一軒家が見えてきた。

家の前の広い敷地の一角に、ツートンカラーのminiが停められており、

玄関の前には、白のシャツにデニムを履いた細身のスラッとした男性が佇んでいる。


高崎の息子の浩二だ。


倒れて節子の世話ができなくなった父親から様子を報告するように頼まれたのか、それとも、近所に住んでいるからなのか、

女性の2人暮しを心配して、頻繁に訪ねてくれる。


「浩二さんがいらしてますよ」

「そう、浩二君が? 近頃よく来るわね。」

「きっと、高崎さんが叔母様が不自由してないか心配されて、浩二さんに頼んでいるんじゃないですか?」

「そうなのかしら」

「でも、浩二さんのお話っていつも面白いので、一緒にお茶するのは楽しいから、来てくれると嬉しいです!」


由紀子は、フフフと楽しげに笑う。


家の前のジャリ道の二人の足音に気づき、浩二が振り向く。



「おかえりなさい。今、探しに行こうかと思っていたんだよ」


涼しげな目元に清潔感のある白い歯と柔らかそうなダークブラウンの髪の毛。

スラッとした体躯で全体的に色素の薄い印象の浩二が、穏やかな笑みを顔一面に浮かべて、ゆっくりと階段を下りてきた。


玄関に続く階段の一段目に節子が探りながら足をかけ、階段の手摺につかまりながら、話しかける。


「浩二君。いつ来たの?」

「今来たばかりですよ。夜釣りで大量だったので、

美味しいお魚をお二人に食べて頂こうかと思って持ってきました。

ユキちゃん、魚さばける?」

「少し、苦手です・・・・」

「ユキちゃんの手を煩わせないように、僕が下ごしらえするよ。

なんなら、晩御飯の準備までしておこうか?」

「え?良いんですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます。嬉しいです。お言葉に甘えさせていただきます!」


節子は、2人が軽やかに会話する中で、浩二の声の響きに淡い想いが含まれているのを感じ、慣れた階段なのに、思わずつまづきそうになった。


「危ない!」


由紀子と浩二が、慌てて手を差し伸べ、浩二は節子をゆっくりと抱きかかえるように、家への階段を昇っていく。

由紀子は、2人の背中についていきながら、細身の浩二には、節子がバランスを崩したときに危ないかもと、内心ハラハラしながら見守り、節子が玄関のドアに手をかけた時には、小さく安堵のため息がでた。


浩二は、由紀子のため息に気づいたのか後ろをニッコリと振り返る。


「何?そんなに俺、危なっかしかった?」

「ううん、そんなことないけど、もし・・・・」


由紀子は、先を続けるのをためらった。

せっかく手を貸してくれた浩二に、由紀子が続けようとした言葉は、もしかしたら失礼になるかもと思ったからだ。

浩二は先程の笑顔を崩すことなく、由紀子の顔を覗き込んだ。


「支えきれないかも?それとも転んだら?どっちを言おうとした?」


バツが悪そうな顔で、由紀子は謝った。


「ごめんなさい。だって、浩二さん細いんだもの。」

「いくら細いからって、俺だって男だよ。

節子さんぐらいどうってことないし、もちろん君だって抱き上げることぐらい出来るさ」


その言葉に、由紀子は真っ赤になる自分を感じ、 浩二に見られないようにとっさに俯く。

浩二はそんな彼女を見逃さなかった。

自分の言葉で、赤く頬を染める由紀子がとにかく好ましかった。

もっと由紀子に言葉を贈ろうとしたその時、 二人に節子の声が響いた。


「いつまでも、年寄りをこんなところに待たせておくつもり?

早くお茶にしましょう」


2人は、笑いながら顔を見合わせ、「はい!」と声を揃えた。

節子は、そんな2人の様子が見えていなくても手に取るように分かり、自分の複雑な気持ちが、サングラスに隠れていますようにと表情を作った。









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