第8話 ここからが本番
予定より、一日遅れました!
投稿しますーー!!
訓練場中に展開された闇球。
それは黒いシャボン玉のようにあちこちに浮かび、その足元に影を作り出す。
そして影とは……数ある魔法の中でも唯一、闇魔法に許された領分。
つまり今、この訓練場は闇魔法師にとって整った環境なのだ。もちろんそれは、影を操ることができるのが前提の話だ。そうでなくては、この状況になったとしても何の意味も無い。
しかし、ことリュシアに限ってはそんな心配もいらないだろう。師匠であるリリアンヌでさえも驚愕する成長力。乾いたスポンジのような吸収力で、瞬く間に影に関する闇魔法を覚えていったリュシアは、だからこそ、この状態を作り出したのだから。
「っ……!」
ラミアンは、地面に沈むようにして消えたリュシアに、少なくない動揺を見せた。
それも当然だろう。
何故ならば、ラミアンは闇魔法師との戦闘経験は皆無なのだから。
これはラミアンに限った話ではない。他の守備隊のメンバー、引いてはここフリーリア王国のほとんどの人間が、闇魔法そのものへの理解が乏しいのだ。
避けてきたつけ、とでも言うべきだろうか。闇魔法をよくないものとして避けて来た結果、それへの知識も、相対する経験も。それらを積む機会を失ってしまったのだ。
その例に洩れず、ラミアンも目の前で起きた現象を、完全に理解するには至っていない。先ほどリュシアが使った<影像>の魔法も、内心ではかなり驚いていた。
剣の振り方は完全に素人のそれ。ゆえに一対多であっても、対処は容易だった。おそらくは術者の経験がトレースされるか、もしくは術者が同時に操っているのだろうと推測していた。
だがもしも、リュシアに多少なりとも武術の経験があったなら?
もしも、四体以上、十体やニ十体も同時に操ることが可能だったなら?
それを考えたとき、ラミアンの全身には鳥肌が立っていた。
初めて、闇魔法の使い手と戦う恐ろしさを垣間見た気がしたから。
――エクレール侯爵、レオンハルトに今回のことを頼まれたとき。正直言ってラミアンは困惑と同時に、何の意味があるのだろうと思った。
リュシアが闇魔法への適性を持つということは知っていた。そしてそれゆえに、外部との繋がりをあまりしてこなかったことも。
それが最近になって、魔法の練習を始めた。それを聞いたのも今日が始めてだった。侯爵の話によれば、まだ始めてから一か月も経っていないとのこと。そんな10歳やそこらの小娘の実力を確認することに、何の意味があるのだろうか?
しかし、条件が森の調査に同行するか否かと聞かされては、受けない訳には行かなかった。下手な人間に同行を許せば、それは自分達の危険にも繋がる。
何があったのかは知らないが、おそらくは娘に甘い侯爵にリュシアが無茶を言ったのだろう。ならば自分が、恨まれることになろうとも、現実を教えなければならない。侯爵からもそれを期待されている。
そう思っていた……
「……」
だが、現実はどうだ?
現実を教えてやるはずだったのに、最初からずっと翻弄されているのは自分の方じゃないか。魔法師との戦いはこれが初めてではない。しかし闇魔法師との戦闘がここまで厄介だとは思ってもみなかった。
次はどんな行動にでる?
どんな攻撃をしかけてくる?
ラミアンはこれまでの戦闘経験に頼って、全力で頭を回転させる。
神経を研ぎ澄まし、どこから現れようと対応できるように身体から無駄な力を抜く。混乱して思考を放棄するのは最もしてはいけないこと。それが分かっているからこそ、状況の分析と予測に全神経を集中させる。
――刹那、右方から風切り音が聞こえた
「っ!」
ほぼ反射で、瞬時に身体をそちらに向ける。
そしてすぐそこまで迫っていた黒い剣を、視界におさめると同時に叩き落した。
しかし、安心するのも束の間。攻撃はそれで終わりでは無かった。
――ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……
続け様に多方面から同じ音を聞いた。対処が間に合わない、そう瞬時に判断したラミアンは地面を転がる。
すると、先ほどまでラミアンが立っていた場所に、複数本の闇剣が突き立った。
どうやって多方面から同時に攻撃を?
その思考をまとめる暇は、ラミアンには与えられなかった。
転がった先、その地面に影が差す。
「っ!?」
上を向いたラミアンが見たのは、自分の上に移動してきた闇球。訓練場を漂っていたそれが、いつの間にか自分の頭上にあった。転がる前、確かにそれが無かったのを確認したはず。だというのに、なぜ。
いや、今はそんなことを考えている場合じゃ無い。
影と闇球に挟まれた今の状態は不味い――そう瞬時に判断したラミアンは、すぐにそこを離れようとする。
しかし地面に影が差した時点で、行動を起こすにはもう遅かった。
上空で漂っている闇球の形が歪むのが見えた。
それを視認すると同時に、上に向かって剣を振り上げる。
すると闇球の中から、さっきと同じ闇剣が一本飛び出してきた。
迎撃が間に合うかギリギリのタイミングだったが、何とかそれに自分の剣を当てることに成功する。しかし弾くことは叶わず、僅かに軌道を逸らしたのみ。射線をずらされた闇剣の刃が、文字通り目と鼻の先を掠めた。
「くっっっ!!」
ラミアンは全力でその場から離脱、走り出した。
一か所に留まる、足を止めるのは危険だと判断したからだ。
先ほどの一連の攻撃から、飛んできた剣は闇球から出てくるのを確認した。それならば、様々な方向から攻撃が飛んできたのも納得がいく。
しかし……これが本当に、魔法を習いたての子どもだと言うのか?
まるで熟達した魔法師と戦っているような気分を、ラミアンは味わっていた。
これだけの闇球を同時に発動する魔力量。
それれらを同時に操作する魔力コントロール。
そして、闇球を発動しながら別で剣を飛ばした、魔法の多重起動。
そこに闇魔法という要素が加わるだけで、ここまで厄介になるとは、戦闘開始当初は想定すらしていなかった。
ここにきてようやくラミアンは自分の意識を切り替える。
相手は魔法を習いたての子どもじゃない。
闇魔法を高レベルで使いこなす、歴とした魔法師だ。
であれば、自分も手を抜いて相手をしている場合じゃない。そんなことをしていれば、負けることは目に見えている。エクレール侯爵領を守る守備隊の隊長として、そんな情けない姿を晒す訳にはいかないのだ。
ラミアンは改めて、自分が置かれている状況を分析し始めた。
走りながらも、その後を追って来るように放たれる闇剣を捌き続ける。後ろから、左右から、正面から。あらゆる方位からの攻撃は、着実に体力だけでなく精神力もすり減らす。あまりのんびりしている時間は無いと悟っていた。
訓練場にあちこちに浮かぶ闇球は、全てが地雷のようなもの。近づくこと、触れることは危うい。しかし所狭しと浮かぶ闇球を、全て避けて移動を続けることもまた困難。
さらに問題なのは、その闇球が移動するということだ。ただでさえ数が多く、戦闘中にその全ての位置を把握するのは難しい。それが自分を狙って動いてくるのだから、たまったものではない。
もし、一か所に足を止めていれば、あの闇球に囲まれてそこで詰みだということは容易に想像できた。
――であれば、破壊するしかない。
「……!」
そう決意した瞬間、自身の戦いを見守っているレオンハルトへと視線を向けた。それは受けに徹する姿勢を、攻勢に転じる許可を求める視線。
レオンハルトもすぐにその意図を理解し、一つ頷くことでそれに答えた。
許可が下ったことを確認したラミアンは、打って出るための準備を始めた。
「<風纏剣>……!」
ラミアンの魔法が発動する。
詠唱を破棄して使われたそれは、自身の剣に風の刃を纏わせる魔法。それによって剣の切れ味を上げることが出来る。
しかし、ただよく斬れるようになるだけじゃない。
魔法の風を纏わせたその剣は、言わば魔法剣とよぶべき代物。普通の剣では斬ることが出来ない、実体無きものすら斬ることが可能になる。
例えば、魔法とか――
「……」
ラミアンの動きに変化が生じた。
先ほどまでは闇球を避けるように動いていたのに、逆に闇球に向かって行くような動きをする。
そして――
「ふっ……!」
進路上にあった闇球を、<風纏剣>を使用した剣で斬る。
すると闇球は綺麗に両断されて、そのまま消滅してしまった。
破壊できたことを確認すると、そのまま足を止めることなく、手近なものから次々と闇球を壊し始めた。
訓練場にあった闇球が瞬く間に数を減らしていき、それに付随して地面に落ちていた影も減っていく。
それをしながらも、ラミアンは周囲への警戒を怠らない。
リュシアにとって有利な状況を壊しているのだ。それを見て何も思わないはずもない。必ず何かを仕掛けてくる。ここまでの能力を持つ相手ならば、必ず……ラミアンは、そう確信じみた予測をしていた。
そして、その予想はズバリ的中する。
「っ!?」
突然、辺りの闇球が消えた。
ラミアンが破壊した訳でもなく、いきなり消えたのだ。
それも訓練場に残っていた闇球の全てが、である。
「……」
――確実に何か来る
ラミアンは警戒レベルを最大限まで引き上げる。
すると、そこから少し離れた場所。太陽と訓練場の壁によって、自然に作られた影。その中から、リュシアが姿を現した。
「ふぅ……準備できました。これが今の私に出来る精一杯です」
そう言って、リュシアの片手が天に向けられた瞬間だった。
足元の影から、凄い勢いで何かが飛び出してくる。
その正体は、先ほどまでラミアンを攻撃していた闇剣だった。それが絶え間なく放出され続ける。
最初は、また同じ攻撃か、と若干の肩透かしを感じていたラミアン。
しかし――
「どれほど……!?」
何時まで待っても、闇剣の放出が止まることが無かった。
先ほどリュシアは、準備が出来たと言っていた。
影の中に潜んで何を準備していたのか?――その答えがまさしく、目の前に広がる光景そのものだった。
訓練場の上空を隙間なく覆い尽くす、大量の闇剣。まだ昼間のはずなのに、今や夜のように暗くなっている。
そして剣の天井と化したそこから、数本の剣がラミアンの目の前に落ちて地面に突き刺さる。
それを見てラミアンは、今の自分が置かれている状況を正確に認識した。
もし、これ以上続けるのなら、ラミアンも本気で戦わなければならない。
そうすれば、自分も、何よりリュシアにも怪我をさせる事になるかもしれない。これはあくまでリュシアの実力を見る為の模擬戦なのだ。そこまでする必要は無い。現状でも十分にその役割は果たしたと判断できる。
――で、あるならば……
ラミアンは<風纏剣>を解除すると、静かに剣を腰の鞘に納めた。
「参りました。私の負けです」
その宣言によって、模擬戦は幕を閉じた。
そして、リュシアの森への魔獣調査の同行が決定したのだった。
いかがでしたでしょうか?
何か、やり過ぎか?と思いつつ、書きたいように書いてしまいました……
結果としてはリュシアのゴリ押しでしたが、まあ元々魔力量も多いって言ってるし、魔力コントロールも上手いって言ってたし……これぐらいはダイジョウブだとおもう……
そんな感じで、もう書いちゃったもんはしょうがない!! このまま進めていきます!!
という訳で、次回の更新は――『9・30(火)』を予定しています!
(もし調子よく書ければ、明日投稿したい気持ちもあるぅ……)




